名刺サイズの小さな用紙を切って、有名人から妖怪まで、数分で切り絵にしてしまう田中良平さん。似顔絵を切った相手は1000人を超えるという。
アメリカの大学を卒業し、海外での個展も成功させている良平さんに話を伺った。

似顔絵シリーズ 妖怪シリーズ


アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん
岸辺一徳、名探偵ポワロ(田中良平作)

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん
(左から)いとうせいこう、フレディ・マーキュリー、ブルース・ウィリス


名探偵ポワロやフレディー・マーキュリーあたりは切りたい気持ちも分かるが、なぜ岸部一徳なのか……というと「なんとなく切りたくなったので……」とのこと。そう、意味があるから切るのではなく、意味はないけど切るところに意味があるのである。
アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん
件(くだん)・蛇女

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん
こちらは妖怪シリーズ。撞木(しゅもく)娘・百目


下描きはせずに、一気に切る。
「慣れないうちはお客さんを前にしてヒヤヒヤしながら切ってました。でも短い時間で切らないと相手が子どもだったらじっとしてないですからねえ〜(笑)。何度も切っていくうちに特徴や線を捉えやすくなりました。
少しずつスキルが上がっていくのが自分でも分かるところが面白いです。完成したものを見せた時に相手が喜んでいる姿を見ると、たまらなく嬉しくて」
下描きをしないということは後戻りができないということ。そこがまた醍醐味だという。

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん

愛用のハサミは手芸用のものだ。
「何年も使っているお気に入りのハサミがあるんですけど、それは買って間もなく床に落としてしまって、その拍子に先が少し曲がってしまったんです。でも、その曲がり具合がちょうど良くて、さらに使いやすくなりました」
用紙は市販のものだが、色に特徴がある。

「スプレーで着色しています。色がついた紙を買ってそのまま使うよりも、ランダムな感じになるんです」

文字を切ったシリーズも


アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん

外国人にも好評。
「例えば『これは何と書いてあるの?』と聞かれて『アル・パチーノ』と答えたりすると『これがアル・パチーノか!』と言って喜んでくれます(笑)」

卒業はしたものの……


良平さんは高校2年の時にアメリカのコネチカット州に留学した。元々、語学や絵などを勉強したかったこともあり、1年で帰るところをそのまま残って卒業。その後、カリフォルニア州のCalifornia College of Arts and Crafts Film/Video/Performance 学科に進学した。在学中はショートフィムを作ったり、フィルムを使ったパフォーマンスを行ったりの日々。晴れて卒業したものの……。

「仕事も見つからず、ブラブラしてました。アメリカの寿司屋でバイトをしていたこともありましたが、その店もオーナーは韓国人でキッチンにはメキシコ人、洗い場担当はモンゴル人という異空間でした」
――ご両親からは何か言われませんでした?
「父親は変わっていて、東京駅をフラフラしていた外国人を家に連れてくるような人だったんで、あまりうるさく言われることはなかったです。今やっていることも、子どもの頃に紙を切って怪獣を作って遊んでいたことの延長上にあるような感じですし」
そういえば水木しげる先生も「好きなことをやりなさい」とおっしゃっていたことを思い出す。

ところで、SNSで作品を公開している人が多い中、良平さんはSNSのみならず、自身の活動を人前で「見せる」ことにこだわっていて、アートのイベントを中心に活動をしている。
「僕は人が集まってくれて、声をかけてもらうことがとにかく嬉しいんです」

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん

ほんの3分ほどで完成させる。目やヒゲなどの細かい線もチョキチョキと切っていく。
それも黙々と切るのではなく、相手と会話を楽しみながら切る。
「何か喋りながら切らないと、僕は沈黙が怖いんです(笑)」
アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん

一昨年、ミュージシャンだった彼女とゴールインを果たした良平さん。出会いのきっかけも「妖怪」をテーマにしたライブイベントだったそうだ。ロサンゼルス、シアトルでの個展も成功させており、良平さんが生んだ切り絵の妖怪たちが、ワールドワイドに活躍する日がくるのも近そうだ。
(取材・文/やきそばかおる)

アメリカの大学を経て、切り絵職人に ハサミで妖怪生み出す田中良平さん
田中さんのフリーペーパー「良平通信」。東京 高円寺「みじんこ洞」やイベントなどで配布。イラスト、近況報告、活動予定などがびっしり。

田中良平サイト
(今後の出展予定)
・妖怪食堂フェスティバル(良平さん出展期間 〜2月24日 高円寺 ぽたかふぇ・2月20日〜21日ほか 高円寺 みじんこ洞)
・河童展(2月10日〜14日 東京 千駄木 Cafe Gallery 幻)
・FLAT展(2月11日〜21日 元麻布ギャラリー)
・かいうん! 似顔切り絵(2月13日〜14日ほか 浅草 アミューズミュージアム)
それぞれ詳細はブログ「田中良平 切り絵・切り紙制作所」にて。