
かくいう筆者も、数年ぶりに大河ドラマを毎週見続けている。諸大名の間で翻弄されながら、それでもしぶとく、したたかに生きる真田一族が、しがないフリーランスの自分の姿と重なってしまって、つい共感してしまう。
それはさておき、『真田丸』ファンは見逃せないのが、本日夜10時35分よりNHK総合で放送されるショートドラマ『ダメ田十勇士』だ。
これは大河ドラマのPRのために制作された13分強のオリジナル・ショートムービー。昨年12月にYouTubeで公開された後、すでに深夜帯などで何度か放映されているが、プライムタイムへは29日が初進出となる。『真田丸』本編とはまったくかかわりのないサイドストーリーで、登場するのも今後本編には登場することのない8人の男たちだ。
舞台は慶長20年(1615年)5月、豊臣軍と徳川軍の最終決戦「大阪夏の陣」の前夜。豊臣方に加勢する真田軍の陣地の隅っこで、8人のいかにもダメそうな男たちが酒盛りを開いていた。公式より、8人の紹介を一部引用する。
忍びの里の生まれでチームのリーダー、才蔵(博多華丸)
真田LOVEがほとばしる六郎(矢本悠馬)
オカマでありながら十勇士随一の男気の持ち主、鎌之介(梅垣義明)
ひねくれ者の甚八(岩井秀人)
兄弟揃って酒好き、歌好き宴好きの清海入道(松村邦洋)
そんな兄を支える、同じく宴好きの大食漢、伊佐入道(脇知弘)
火縄銃を誰よりも愛す、トリガーハッピー十蔵(鈴木拓)
見た目に反した熱い魂の持ち主、小介(Mr.オクレ)
よくもまぁ、ここまで個性的なキャストを揃えたものである。そして、わかる人はすぐにわかるが、彼らの名前はすべて「真田十勇士」から採られている。
日本中がエキサイトした「真田十勇士」の物語
「真田十勇士」とは、江戸時代に始まり、大正時代に確立した架空のヒーロー物語。要するに“真田幸村と10人の戦士たち”だ。
メンバーを簡単に紹介すると、伊賀忍者・霧隠才蔵、怪力の破戒僧・三好清海入道&伊三入道、鎖鎌の名手・由利鎌之助、火縄銃の名手・筧十蔵、水軍の指揮に長けた元海賊・根津甚八、武田家旧臣の縁戚・穴山小介、頭脳明晰な幸村の片腕・海野六郎、爆弾製造の名手・望月六郎、そして忍者界のスター・猿飛佐助を合わせて10人となる。
勇猛なる智将・真田幸村とキャラの立ちまくった十勇士が大活躍する物語は、長きにわたって爆発的な人気を呼び、無数の「真田十勇士」ものの小説や映画などが生まれた。後世の日本のフィクションにも大きな影響を与えており、『サイボーグ009』や『ワイルド7』などの名作コミックからも「真田十勇士」のフレーバーが感じられる。
筆者は小学生の頃、近所の図書館にあった子ども向けの伝記を片っ端から読んだのだが、中でも夢中になったのが『真田幸村』だった。それもそのはず、内容がまるっきり「真田十勇士」だったからである。フィクションだもん、面白いに決まってるよね。ついでに、筆者の父親は「正解」と言うとき「三好清海入道!」と言うクセがあった。それだけ日本人に親しまれた物語だということである。
脚本・演出は神スイングCMを作ったスーパークリエイター
『ダメ田十勇士』では、2人の六郎が1人になっているのと、本編に登場する佐助(藤井隆)が除外されているので8人となっている。
8人は酒盛りをしながら、明日の戦いへと思いを馳せる。真田LOVEの六郎は自軍の勝利を信じて疑わないが、六郎のテンションが上がるたびに他の7人は複雑な表情になる。
企画・脚本・演出を務めたのは映像作家の江口カン。2009年に相模ゴム工業のコンドームのCM「LOVE DISTANCE」でカンヌ国際広告祭グランプリ(金賞)を受賞、近年では街の人たちがいきなり野球を始めるトヨタのCM(稲村亜美の神スイング!)や、友達が空腹で内田裕也や泉ピン子に変身するスニッカーズのCM、能年玲奈を起用した「ドラゴンクエスト」のCMや、グラビアアイドルの脱衣シーンが邪魔される高田引越センターのCMなどを手がけている。ものすごいキャリアだ。
制作を手がけた江口が所属するKOO-KIの近作は『おそ松さん』Blu-ray&DVDに収録された「リア松さん」。こちらのプランニングも江口の手によるものだ。
完成までに半年かかり、当初3分の予定が13分になった。企画をしたNHKの清水拓哉プロデューサーは、「高揚というところから、もう一歩進んで感動まで行っている」と絶賛のコメントを残している。ただのパロディ作品ではないということだ。
夜が明け、巨大な戦力を誇る徳川軍の侵攻が始まった。はたして8人の男たちの運命は?
グッと来るエンディングは、「真田十勇士」という物語の成立にもつながっているように見える。
(大山くまお)
