子供時代の記憶には、何度でも心の内で反芻したい、良い思い出もあるでしょう。中には、忘れたいけど忘れられない、トラウマとして強烈な印象で刻印された、悪しき思い出もあるかも知れません。

『ポンキッキーズ』で放送されていたアニメ『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』は、間違いなく、そんなトラウマを量産するタイプの番組でした。

フジテレビ系列で1993年10月から2001年3月及び、2005年4月から2006年3月にかけて放送されていた子供向け番組『ポンキッキーズ』。都合9年にもなる歴史の中では、安室奈美恵、鈴木蘭々、電気グルーヴのピエール瀧、爆チュー問題に扮した爆笑問題といった、多彩なMCが活躍。放送時間帯が朝になったり、夕方になったり、週5のときもあれば週1のときもあるなど、様々な形態をとっていた同番組ですが、最も長期間放送していたのが、月~金曜の8時台前半(8:00~8:30)です。

夏休みの朝。突然、やってくる恐怖の刻…


8:00~8:30というと、小学校の平均的な始業時間が9時ですから、登校前に観るには、よっぽど校舎と住まいが近くないと無理です。そのため、当時、多くのちびっ子が、長期休暇中、特に夏休み期間に『ポンキッキーズ』を楽しんでいました。
『ポンキッキーズ』といえば夏休み。夏休みといえば『ポンキッキーズ』。こうした方程式が脳内に確立され、この子供向け番組を寝ぼけ眼に観ていると、「ああ、夏休みなんだなぁ」と幸福感に浸れたものです。そんな穏やかな休日の始まりをぶち壊すように始まるのが『花子さんがきた!!』でした。

このアニメ、一言で言えば、オムニバス形式のホラーモノです。
学園七不思議でお馴染みの幽霊「トイレの花子さん」が、人間側に味方して、悪霊や妖怪に襲われる子供たちを助けてくれるお話になっています。しかし、場合によっては、助けてくれないこともしばしば。ストーリーテラーとして登場するだけで、登場人物が犠牲になることも少なくありません。その最たる例が「さっちゃん」の回です。

みんなのトラウマ「さっちゃん」


「さっちゃん」は、童謡の「サッちゃん」をモデルにした幽霊。童謡の歌詞にある通り、「バナナが大好き」という設定です。
さっちゃんの噂話を聞くと、その夜、就寝中に彼女は現れます。この時、バナナかもしくはバナナの絵を、枕元に置いておけばセーフ。もし、それらがないと、手足を大きな鎌で切断してしまうという、凶悪極まりない存在として語られます。
主人公の女の子は、学校の友達から教室でこの話を伝えられたにも関わらず、バナナの絵を描かずに熟睡。当然、さっちゃんは大きな鎌を振りかざしてやってきます。しかし、お母さんが夜食用にと、台所のテーブルに置いていたバナナがあったため、さっちゃんは退散。命からがら、難を逃れるのです。

これでハッピーエンド……。とはいきませんでした。翌朝、学校のホームルームに教頭先生が神妙な面持ちでやってきます。そして、生徒たちにこう告げるのです。「みなさんに悲しいお知らせをしなければなりません…。担任の小野先生が夕べ、何者かに殺されました。大きな刃物で手と足を切り取られて、布団の中で亡くなっていたそうです…」と。

助けに来ない花子さん


これ以上、後味の悪い終わり方があるでしょうか。それに、教頭の伝え方、生生しいにも程があります。一体、どこの教職者が「手と足を切り取られて…」などという仔細な情報を子供たちに教えるのでしょう。そして、最後になってようやく花子さんが登場し「そうだったのです。あの時小野先生は、廊下でさっちゃんの噂話を聞いてしまったのでした。」と締めくくるのです。
いや、分かってたなら、助けろよと……。

このように、かなり理不尽な結末になることも多かった『花子さんがきた!!』。ヒーローは、都合よく、いつもやってくるわけではない……。そんな戦隊ヒーローモノへのアンチテーゼとでも言うべき教育を、子供たちに施す目的だったのでしょうか。いずれにしても、本記事をお読みになった皆さん、ぜひ、今日の夜はバナナをお忘れなく!

(こじへい)
※イメージ画像はamazonより学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!1 [DVD]
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