NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
3月13日放送 第10回「妙手」 演出:小林大児
「真田丸10回」視聴率が下がっている理由を考える
イラスト/エリザワ

最低で最高なのだ


まさかの北条と徳川の和睦。予想外のできごとに困惑する真田昌幸(草刈正雄)だったが、徳川家康(内野聖陽)に、自分たちのための城を作らせようとする。真意は、いずれ徳川と戦う時のためだが、当然、それは秘密。
しかし、家康は一筋縄ではいかない。城を作る代わりに沼田領を北条に渡せと言い出した。

この苦境を打破する方法を、信繁(堺雅人)に考えるように命じる昌幸。信繁は張り切って、上杉景勝(遠藤憲一)の元へ出向き、真田が攻めたら上杉が撃退するという「戦芝居」をしてほしいと持ちかける。

梅(黒木華)に子供ができるは、作戦を任されるは、信繁、大活躍。

梅のややこ発言はサプライズ、上杉の城に単身乗り込み、16本の刃を向けられたシーンはスリリング、戦芝居のところもエキサイティングだった10回。にもかかわらず、視聴率は16.2%と10回中最も低い数値になってしまった。
幸い、BS放送の視聴率が4.7%と10回中、最高(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。
地上波との状況が逆転という不思議現象が起きるのも、人を食ったようなことばかりするトリッキーな真田一家のドラマらしいではないか。
と、いいふうに捉えたいが、ひと足早くBSで見ても、本放送も見ればいいのに。日曜の夜8時からどこか出かけたりもしないだろし、ほかに見たい番組があるだろうか。
まったくじりじりするので、またしても余計なお世話だが、視聴率が下がっている理由を考えてみた。


ナレーション問題


有働由美子アナウンサーの語りは問題ない。むしろ、「あさイチ」でキャッキャと語らされている時よりも、ここでの知的な語りにホッとする。ああ、この人やっぱりアナウンサーとして優秀なんだと改めて思う。そうでなく、ナレーションの中身。

「この時の信幸は知る由もない」
「それはまだ先のこと」
「真田家に忍びよる危機をこの時の信繁はまだ知らない」

ついこの間までNHKでやっていたドラマ「ちかえもん」では「陳腐な言い回し」扱いされそうなフレーズが、「真田丸」10回では3連発。わざとやっているとしか思えないのだが、「ちかえもん」のようなツッコミがなく、高度過ぎて笑えない。
いや、ギャグではなくマジで、お年寄り視聴者のためにわかりやすくする配慮だとすると、4.7%の新手の視聴者の好むものと乖離する。
昔ながらの大河視聴者、先鋭的なものが好きな新しい視聴者、どっちを狙うか、まだ決めかねているかのような心の揺れが問題ではないだろうか。
まさか、これも、昌幸的なのらりくらり戦法?

信繁がいきなりリア充に


梅にややこができたことがわかり、信繁とふたり、幸せ感いっぱい。だが、見ているほうはちょっとびっくり。
プラトニックじゃなかったんだ・・・。
この時代、きっとこんなふうにフリーな感じなんだろうなあと思うものの、「真田丸」でこういう生々しい展開になるとは想像していなかったので、気持ちの置き所に困ってしまった。
それはまるで、「伝説巨神イデオン」という(一応子供向け)アニメを見ていて、異星人との苛烈な戦いを繰り広げている最中、登場人物が妊娠するというエピソードが出てきて、気持ちがざわついた時のようである。

大河ドラマは当然大人の番組だと思っていたはずだったが、コミカル展開の多さで油断していた。
9回のあの晩、梅の家から帰ってきた信繁があんなにうきうきしていたのはそういうことだったのか。
そう思うと、やたらときり(長澤まさみ)をたきつけていたお父さん高梨内記(中原丈雄)の真意は、信繁を身も心も慰めろという意味だったのかと思えてくるし、あのお赤飯みたいなおまんじゅうも、なんとなく意味深に見えてきた・・・。

男子が張り切ることができるのは、女子の気持ちだけじゃないのだなあ。と、思いつつ、なんだよ、信繁、リア充じゃないか、とちょっとイラっとなった。
だが、この幸せエピソードが、11回に繋がっていく大事な部分で、予告によると、祝言の日に大変なことが起るようだ。「真田丸」がはじまる前の記者会見で堺が、「11話は凄まじい」と語っていたくらいで、おそらく、前半のハイライトになるのではないか。
「真田家に忍びよる危機をこの時の信繁はまだ知らない」の思わせぶりな危機は、今晩6時か8時、どっちで見る?
(木俣冬 イラスト/エリザワ)
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