もはや天津飯もクリリンも、ゴテンクスもピッコロすら歯が立たず、潜在能力はありつつも戦う意思のない孫悟飯を除き、悟空とベジータ以外のメンバーはほぼ「戦力外」の状況だ。
そんななか、注目したいのは、今やマンガ&アニメ界で「へぼキャラ(ザコキャラ)」の代名詞になりつつあるヤムチャの存在。
かつては“解説者ポジション”だったこともあるが、いつからか観客&伝達係になり、後に忘れられていることも多いヤムチャ。亀仙人が闘っているときすらも、蚊帳の外のヤムチャ。
確かに思い出されるのは、序盤で悟空と戦ったときに歯が折れたヤムチャや、栽培マンに抱きつかれ、自爆に巻き込まれて死亡したヤムチャや、人造人間に口をふさがれ、エネルギーを奪われて死にかけたヤムチャなどだけど……。
そんなヤムチャって、もともとはどんな人だっけ? 「へぼキャラ」としてしかみんなの記憶にないヤムチャの良いところ、みんなが忘れている魅力を『ドラゴンボール』全42巻(集英社)を読み返して探ってみた。
最初は「荒野の悪党」だった
初登場は1巻第7話の最後。孫悟空たちの訪れを知り、「ひさしぶりの獲物だな……ふふ……」と笑う。当時は「荒野に迷いこんだ者から金品を奪って暮らしている大悪党ヤムチャとプーアル」と紹介され、第8話のタイトルでは「ヤムチャおそるべし!!」とまで持ち上げられていた。
また、悟空との初対面では、お得意の「狼牙風風拳」を炸裂させ、悟空をタコ殴りにし、ふっとばしてしまう場面も。
とはいえ、悟空は空腹のため弱かっただけで、石柱の破片や岩を頭にのせたままむっくり起き上がり「ハ……ハラへった~~」。
ちなみに、反撃を試みようとしたヤムチャをノックダウンしたのは、居眠りから覚めたブルマの姿だった。
「ど……どうもいかん……女がいるときんちょうしてしまう……キ キライじゃないんだけどあがってしまう……」
この時点では「女にはよわいがおそろしい強敵ヤムチャ」と評されていたのだった。
一応、顔は良い
忘れがちだが、一応ルックスは良い。初めてヤムチャの姿を見たブルマは「いい男」と言っていた。
浮気者だが、とりあえずモテる
ドラゴンレーダーを修理してもらうために、初めてブルマの家を訪ねた悟空。そこで、ブルマの母はペラペラとこんな話をする。
「この娘ったら、いまヤムチャちゃんとケンカしてるのよ~! ほら ヤムチャちゃん おカオいいでしょ! 女の子にもてるのが気にいらないのよ~」
ブルマとヤムチャのケンカは作中にたびたび登場するが、第196話では、久しぶりに再会したクリリンにヤムチャのことを聞かれ、ブルマはこう答えている。
「けっ!!! ヤムチャ!? ああ あのバカね! しるもんですか!! わたしアッタマきたから きょうみんながあつまるっておしえてやんなかったもんね!!」
本当のザコには強い
ウサギ団に悟空が襲われそうになると、ドラゴンボールが揃わなくなることを心配し、悟空に加勢。ウサギ団よりは強かった(第18話)。また、基本的に天下一武道会ではいつも予選を突破し、出場を果たしている。
名選手に認められている
第36話の天下一武道会ではジャッキー・チュン(亀仙人)と対戦。「かなり実戦できたえてあるようじゃが、動きにムダがあるのがおしいのう」と言われる(結果は、手で繰り出された一撃の風で場外負け)。その後、「おまえさんはまだ若い。強うなるのはこれからじゃよ」と励まされる。
第117話では、鶴仙流の天津飯と初対戦し、「なんと……これほどのやつがいるとはな。こいつ クチだけじゃないようだぜ こんな手ごたえはひさしぶりだ……」と言われている(後に大きく実力差がつくが)。
また、第174話では、天下一武道会でシェン選手(実は神様)と対戦。
「あなたがすばらしい素質をもっているからいうんですよ」
そして、ようやく見せた新技「繰気弾」は「いまのはかなりおみごとでしたよ」と評される(最終的にシェンの肘鉄一発でダウン)。
いざというときには仲間思い
第215話。ベジータとナッパが来襲。彼らの作った栽培マンと天津飯が戦うが、「これいじょうやっても時間のムダだ。やつには勝てんだろう」とベジータは標的を変更。そこでヤムチャは自ら「オレにやらせてくれ ここらでおあそびはいいかげんにしろってとこをみせてやりたい」と名乗り出る。
だが、それは自信満々とか出しゃばりとかいうことではなく、「クリリンは一度ドラゴンボールで生きかえっている。もし万一のことが起こってしまえば にどと生きかえれない」からだった。
とりあえず「弱い」「弱い」と言ってみても、セルゲーム後の平和な時代の天下一武道会において、予選にも参加せず完全な観客になる(第430話)以前には、一応毎回予選を突破して選手として出場していたし、「負け」の印象ばかりが強いものの、対戦相手が悪いということも言える。
ヤムチャにも、ちゃんと良いところがいろいろあったのでした。
(田幸和歌子)