昨年度の最終赤字が349億円と、依然厳しい状態が続くマクドナルド。
「半額キャンペーン」で“デフレ時代の勝ち組”だったのも遠い昔の話となってしまった。
当時130円のハンバーガーを65円に、160円のチーズバーガーを80円に値下げ。大胆かつ明快な企画の効果は絶大だったのである。

静岡から始まった平日半額65円バーガー


1998年初夏、マクドナルドのかつてないチャレンジが始まった。店舗と曜日を限定しながらも、130円だったハンバーガーを半額の65円でテスト販売することになったのだ。
スタートは筆者の住む静岡県から。県内の約80店舗を対象に、水曜日限定で半額企画を開始している。
なぜ、静岡からなのか? それは、静岡県の所得水準が平均的であり、東西文化が交差する場所であるから。つまり、“日本の縮図”ともいえる県なのだ。また、テレビや新聞も独立したメディアが確立されているから広告も打ちやすい。テスト販売に最適なのだ。
『プレミアムマック』『クォーターパウンダー』なども静岡での成果から全国に羽ばたいたメニュー。もっとも、以前紹介した 『お昼のカツカレー』のように失敗した例もあるのだが…。

爆発的な売れ行き 原材料が足りなくなる恐れも!?


マクドナルドのハンバーガーの値段は、バブル期を含め景気の良かった'85年~'95年は210円、それ以降は130円に落ち着いていた。これまで、期間限定の形で創業価格の80円で販売したことはあったが、65円はこれまでで最低価格となる。

静岡でのテスト販売は好調で、売上20%増を記録。成功を受け、'98年夏にはチーズバーガーの半額も加えた上で、全国2,600店舗で半額キャンペーンを打つことになる。東日本(静岡以東)は7月16日から26日まで、西日本(愛知以西)は8月27日から9月6日までの各11日間の限定販売だ。

東西で時期をずらしたのは、売れ行きが良すぎて原材料が足りなくなることも踏まえての作戦。テスト販売の確かな手応えもあり、また過去の80円キャンペーンでは5,000万個売れた実績もある。勝利を確信した上での開催だったのである。

マクドナルド史上最高の売上を達成


結果として、過去のプロモーション史上、もっとも反響が大きかったキャンペーンとなる。
スタート時の目標は客数30%増、売上20%増だったが、開始から5日目の時点で客数は49.7%増、売上も31.4%増と大幅に目標を上回る結果に。さらに、7月19日のみの全店売上は18億1,300万円を記録。これはこの時点での最高記録である。

ここまで思い切った値下げに踏み切れた背景には、当時の社長、藤田田氏の決断が大きい。「デフレ下では値段を下げて需要を創出するしかない」との読みはズバリ的中となった。
しかし、これがファストフード業界の値下げ合戦のきっかけとなってしまう。


値下げ合戦で圧勝を収めたマクドナルドを待っていた悲劇


「今後も低価格戦略を維持していく」と宣言したマクドナルドは、期間限定でキャンペーンを繰り返すことで、競合他社を迎撃。“価格破壊戦争”がますます激化していった00年、ついに「平日半額キャンペーン」を開催し、今まで足を運ばなかった層まで取り込む形でこの戦争に圧勝を収めたのだが……。

しかし、乱発した半額キャンペーンは「マクドナルドのハンバーガーは安い」という、イメージを完全に築き上げてしまう。
実際、'02年に「平日半額キャンペーン」を打ち切った際には、ハンバーガーの通常価格を130円から80円に値下げしているのに、平日半額の65円からは値上げの感覚となってしまい、客離れがおきてしまったのだ。実に皮肉な話である。

今のハンバーガーは100円。アナタにとっては安く感じますか? それとも……?
(バーグマン田形)
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