あいつには負けたくない……。強烈なライバル意識は時に、互いの限界を超えた力を引き出させます。
レノン=マッカートニーのシングルA面・B面をかけた争いがあったから、ビートルズは煌めくような名曲を生み出してきました。そしてビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスの対抗意識があったから、マイクロソフトとアップルは、ITに革命をもたらしたのです。

プロスポーツの世界においても、こうした切磋琢磨し合える関係性は重要。一昔前の1998年。アメリカ大リーグにおけるソーサとマグワイアのホームラン王争いが、毎日のようにニュース番組で放送されていました。1961年にロジャー・マリスがベーブ・ルースの記録を更新して以来、長らく塗り替えられていなかったMLBの年間HR数。それをこのカージナルスとカブスのスラッガーが、共に上回るペースでHRを量産。抜きつ抜かれつのデッドヒートに、世界中が熱狂したのです。

3シーズンに渡りHR王争いの主役だったローズとカブレラ


この日本版とでもいうべきなのが、近鉄バファローズのタフィ・ローズと西武ライオンズのアレックス・カブレラのホームラン王争いです。しかも単年ではなく、2001年~2003年の3シーズンに渡って繰り広げられたのだから、傑出度の高さが分かります。
2人共が圧倒的なスピードでHRを量産し、それまで長らく破られていなかった王貞治の本塁打数・55本を軽々と超えてしまうのではないかという様は、さながら、鎖国時の日本に到来した黒船のようでした。

来日したのは、ローズの方が先で1996年のこと。入団初年度から日本野球に順応し、チーム3冠王となる好成績をマーク。
その後も、近鉄の強力クリーンナップ「いてまえ打線」の中軸打者として、中村紀洋らと共に活躍しました。
一方のカブレラは、2001年の入団。シーズン開幕当初から、女性のウエストほどある極太の二の腕から繰り出される、豪快なアッパースイングで本塁打を打ちまくります。桁外れのパワーで飛ばされた白球が、球場場外に消えていったり、ドームの天井に当たったりなども日常茶飯事でした。

2勝1敗でタフィ・ローズに軍配


このカブレラの出現に、ローズは刺激を受けたに違いありません。事実、カブレラが入団した2001年から、この近鉄の主砲の本塁打数は突如として激増。それまでせいぜい年間を通して20数本で、1度だけ40本を記録するにとどまっていたHR数が、2001年→55本、2002年→46本、2003年→51本と、高い水準で安定するようになったのです。
それに対するカブレラも、負けてはいません。2001年→49本、2002年→55本、2003年→50本という抜群のアベレージを残しました。ちなみに、3年通しての成績は、2勝1敗でローズに軍配が上がっています。

それでも届かなかった王貞治の「56本」という聖域


この3年に渡るホームラン王争いにおいて、最高到達点は共に55本。ローズは4試合、カブレラ7試合を残しながらも、世界のサダハル・オー超えには、一歩及びませんでした。その要因として、ローズに関しては敬遠攻めもありましたが、両者ともに見えないプレッシャーにやられてしまったのでしょう。

そして2004年、ローズが巨人に移籍したことによって、同じリーグで覇権を争うライバル関係は事実上解消。同時に、全てを燃焼し尽くしてしまったかのように、2人ともゆるやかにキャリアの下降線を辿っていったのです。

かくして、アンタッチャブルレコードのブレイクスルーは、10年後のバレンティンへと託されることに。このヤクルトの主砲が2013年に打ったホームラン数は60本。とんでもない数字です。この記録を抜くには、才気溢れる長距離砲が、自分の持てる力以上を発揮しなければ不可能でしょう。できれば、超一流のスラッガーがもう1人。それも同じリーグで意識し合い、高め合いながらデッドヒートを繰り広げることが理想的です。
そう、歴史は繰り返すもの。そして今回こそ願わくば、2人とも、いや、2人のうち1人だけでも和製大砲であって欲しいものです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりローズ 2010 BBM 20周年記念カード パラレル 50枚限定!(05/50)
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