アメリカでは、アカデミー賞の前夜にゴールデンラズベリー賞の授賞式が行われます。その年の最低な映画・出演俳優のために用意された式典ですが、駄作をネタとして笑い飛ばそうという発想は、何ともアメリカ的。
ジョークよりも、礼を重んじる日本では考えられません。
しかし、もし我が国にラジー賞があったのなら、この映画はその年の各部門を総なめにしていたはず。いや、それだけに留まらず、野球におけるサイ・ヤング賞、沢村賞のように、その名を冠した賞が制定され、駄作のキングオブキングスとして、永久的に語り継がれていってもいいでしょう。作品のタイトルは、『北京原人 Who are you?』。今から20年あまり前の日本映画です。

坂上忍も出演。豪華俳優が多数出演の『北京原人 Who are you?』


そもそも、日本において駄作は生まれにくいはずなのです。特に映画会社やテレビ局主導の大作は、ハリウッドには到底及びませんが、巨大資本が絡んでいるため、コケることなど許されません。
当然、人気俳優をキャスティングするし、監督、脚本家、演出家、カメラマンにいたるまで一流の仕事人を揃え、磐石の布陣で臨むものです。無難な仕上がり、中途半端な出来になることはあっても、極端につまらなくなることはほとんどないといって良いでしょう。

この『北京原人』も、東映・テレビ朝日・バンダイ・東北新社が共同製作に当たる、一大プロジェクトでした。予算はなんと20億円。
邦画の一般的な製作費が1億円以下、10億円で超大作といわれている中で、かなりの気合の入れようです。監督には1988年の映画『敦煌』で、日本アカデミー賞・最優秀作品賞・監督賞に輝いた佐藤純彌。脚本家には、早坂暁という数々の映画・ドラマの執筆経験があるベテランを起用。さらに、出演俳優は緒形直人や片岡礼子、坂上忍など多彩な俳優を擁し、それこそ、失敗しようのない体制を敷いていました。

たまごっちとのコラボ商品「原人っちのたまごっち」も


また、必勝を期した『北京原人』製作陣は、プロモーション活動にも熱心でした。当時、社会現象になっていた、たまごっちとコラボして「原人っちのたまごっち」なる商品を発売。「進化の道をおしえるっち!」と書かれたパッケージに封入された、あの卵型のフォルム。機器表面には骨のデザイン柄が施されており、何ともキュートです。
ゲーム内容は、本家同様、育成シミュレーション方式をとっており、単細胞生物→オタマジャクシ→サルと成長。ここまでは、まぁ分かります。しかしその後、何故か埴輪→土偶に進化する謎展開。最終的にロケットに乗って宇宙へ飛んでいくという、映画本編同様の迷作ぶりを体感できます。

世間は唖然! 荒唐無稽な展開だった『北京原人』


このように、総力を上げてお膳立てした『北京原人 Who are you?』でしたが、結果は大コケ。
理由としては、『タイタニック』『メン・イン・ブラック』など、後世に残る名作と同時期公開になってしまった不運もあるでしょう。

しかし、やはり最大の要因は作品内容の酷さ。頭蓋骨の化石から抜き出したDNAをもとに、北京原人を現代に蘇らせたまではまだ良いです。そこから原人たちを陸上競技大会や引田天功のマジックショーに参加させたり、挙句の果てにマンモスが登場したりと、もう滅茶苦茶。この映画のために、バスト丸出しのヌードシーンを披露した片岡礼子が不憫でなりません。

あまりの興行成績の悪さに、上映日数の縮小という措置が取られ、歴史的な大赤字に終わった『北京原人 Who are you?』。製作元である東映としては『鉄道員』の大ヒットによって、何とかこの損失を補填できたようです。そんないわく付きの迷作。怖いもの見たさで、ご覧になってみてはいかがでしょうか?
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより北京原人 Who are you? [DVD]
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