
イラスト/鈴木夏希
やられたーっ。
ストレートなキスはないと予想していたのだが、タイトル出るまえにキスしていただいてしまった。
日本で純愛を守る最後の砦が、はじまって10分で崩壊ではないか(いや、キスしても純愛だ)。
ふたりで、しりとりである。
「うこんエキス」「ホッチキス」「梅肉エキス」と、キスで終わる言葉しか言わない鮫島社長。
さらに、
美咲「大英帝国」
鮫島「くちづけ」
美咲「警戒態勢」
鮫島「いさなみすやお」
美咲「汚名返上」
鮫島「ウルグアイ」
美咲「いさなみしほ」
鮫島「ほんね」
美咲「ねぐせ」
鮫島「せっぷん」
驚いた顔して、
鮫島「あ、“ん”だ。だみだ。おれの負けだ」
からの、
「うううー」と唸りながらの突進するようなキス。
まさに恋愛偏差値小学五年生クラスの鮫島社長らしさ。
お互いにしりもちつくが、その後、立ち上がり。
見つめ合って、近づいて、カメラ引いて、抱き合って、後ろの海はキラキラ光って、ちゃんとしたキス。
恋愛ドラマのようなキスがきたーーーーーッ。
しかも、第4話で渡せなかった薔薇も「これ、おみやげにどうぞ」と渡した!
車の中で、「よく渡した、いいぞ鮫島!ふーーっ!」と叫ぶ社長。
いや、それより喜ぶのはキスのほうだろ。と視聴者がツッコんだところでタイトルバック。
いかすなー。
すごいのは、最終回なのに、ぜんぜん最終回っぽくないところだ。
次の目標を「結婚」にランクアップ。
その前に「同棲でしょう」と村沖保護者(もう秘書じゃなくおかあさんだよね)のアドバイス。
同棲するために、またもトンチンカン戦略で、右往左往する。
ベッドを捨てる。お父さんと同居する。
鮫島社長・お父さん・美咲さんで、川の字で寢ちゃうことになるのだ。
さらに、お父さんに仮病を使わせて嘘をつくにいたっては、またも破局危機。
美咲さんが、鮫島零治扱いが上手くなってどうにか回避したが、鮫島社長は、相変わらずだ。
同棲しても、なんでもかんでも我慢して、すれ違う。
いつまでたっても、不器用で、うまくいかない。
最終回にあるまじき、意思疎通のうまくいかなさである。
「いつまで敬語のまま喋りつづける気だ」
恋愛ドラマだったら、1話目の後半ぐらいで、自然に敬語なじゃなくなってるだろうに。
このレベルで四苦八苦である。
セカムズ最初のころ「大野智は演技が下手」「棒読みw」みたいな記事が出たが、何を言っとるんだ。
悪口言えばアクセス伸びると思ってる邪悪か、演技の上手さが一方向にしかないと考える偏狭か。
このドラマ、大野智くんの演技はパーフェクトだ。
ドラマが、鮫島社長演じる大野くんを支えるようにして作られ、その期待を超える鮫島社長キャラを大野くんは生み出した。
そもそも、「棒読み」と言っていた人は、このドラマが判ってない。
たとえば、最終回のこのセリフ。
「同棲? 毎日朝起きたら彼女がいて夜寝るときにも彼女がいるという男だったら一度は夢見るあの同棲か!?」
必要以上の説明台詞。
これは、日常会話の自然な感じで言うセリフじゃない、というか、言えない。こんなこと言わない。
それを、棒読みどろこか、独特の抑揚をつけて、視聴者を笑わせる。
一呼吸で一気に、くるりくるりとひっくり返る抑揚で、感情を戯画化してみせた。
金子茂樹が書く鮫島社長のセリフも、どんどんワンフレーズのなかに混乱した感情を入れ込んだ不思議なものになっていく。
「そ、そうか、つまりそれは、おれと、交際して、いただけるということか」(第6話)
なんて乱高下する台詞は、大野智くん演じる鮫島社長というキャラだからこそできたのだろう。
話数が進むにつれて、鮫島社長の独特なセリフが増えてくる。
1話のなかで、体育座りするほど落ち込んだり、飛び上がるほど喜んだり、カンカンに怒ったり、不器用にあわあわしたり。
コロコロと変わる感情をストレートにバッチリ表現した。
脚本家金子茂樹と大野智が(いや、すべてのスタッフが)、キャッチボールするようにして作りだしたキャラクターだといえよう。
ラブとコメがぎゅっと詰まったハッピーなドラマありがとうございました。
テレビドラマで続編をぜひ。
もしくは、寅さんみたいに年1ぐらいで映画化もいいな。
いっそのこと『ジム・キャリーのスキーでヤッホー大作戦!』みたいに『大野智の世界一難しい恋 同棲奮闘篇』ってノリのタイトルで、ぜひ。(米光一成)

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