これは僕が最高のヒーローになるまでの物語だ。
少年漫画の王道を行くストーリーとキャッチーなキャラクター、さらに独特の世界観などで人気を集めている『僕のヒーローアカデミア』。
総人口の8割が「個性」と呼ばれる超常の能力を持ち、平和を守るヒーローと個性を悪用する敵(ヴィラン)の戦いも繰り広げられている世界。
「無個性」ながら、最高のヒーローになるという夢を追い続けてきた少年・緑谷出久(みどりや・いずく)は、憧れのNO1ヒーロー・オールマイトと運命的な出会いを果たし、後継者としての道を歩み始める。

4月から放送中のTVアニメは、エキレビライター内でも注目の作品。大山くまおさんの全話レビューや、杉村啓さんのアメコミファン視点からのレビューが公開中だ。
今回は、6月26日(日)放送の最終回に向けて、制作作業もクライマックス真っ直中の長崎健司監督にインタビュー。
アニメ「ヒロアカ」について、たっぷりと話を伺った。
作品全体の軸は主人公・出久の成長物語
──監督のオファーはどのような形で来たのですか?
長崎 最初、ボンズの大薮(芳広)プロデューサーから仕事を依頼したいという電話があって。その時は作品名までは聞いてませんでしたが、放送の1年くらい前に具体的な話を聞き、原作を読ませてもらったら、とても面白かったので、ぜひにと返事をしました。最初の印象としては、すごく懐かしいというか、子供の頃に読んでいたような、いわゆる王道の成長物語というところが魅力的でした。それを師弟という形で描いていくのも好みでしたね。昔から、師弟の物語がすごく好きなんですよ。さらに読み進めていくうちに、ちょっと変わった世界観だなと感じました。
──アニメ化する際、作品全体の方針として、特に大切にしたことはありますか?
長崎 作品全体の軸が出久の成長物語なので、出久の感情をできるだけ取りこぼさないようにしたいと考えました。最初にこの子はどういう状況にあって、どういう思いを持っていて、どういう決意でいろんなことに臨んでいくのか。その部分はしっかりやらなきゃいけないと思いました。ヒーローになれる(精神的な)資質は持っているけど、必要な能力(個性)は持っていない男の子の話というのも大事なポイントで。オールマイトの個性を受け継いでからは、どうやって、その能力に見合った人間になっていくかという成長の話になる。「能力はなくてもヒーローになれるよ」みたいな優しい世界ではないし、逆に能力があるからといって、必ずしもヒーローになれるわけでもない。
──物語の軸である出久については、どのようなところに魅力を感じていますか?
長崎 出久は、良い言葉で言うと前向きに夢を追っている少年ですけど、夢に呪われている少年とも言えるところがあって。憧れているものにすべてを賭ける感じは、ちょっと言葉が悪いんですけど、どこか狂気も感じる(笑)。「普通、そこまでやる?」ということもやってしまうんですよね。例えば、(雄英高校の)入学試験で、お茶子を助けるために巨大なロボットに立ち向かっていくとか、普通じゃない。でも僕は、その普通じゃない部分がすごく魅力的なんです。僕はドラマーの師弟を描いた「セッション」という映画が大好きなんですけど。その師弟の関係と、オールマイトとデクの関係ってどこか重なるんですよ。傍から見たら、なんでそんなに必死なのって感じなんですけど、本人はそれを望んでいる。そういう意味では、夢に呪われているんですけど、そこが素晴らしく良いし、好きなんです。

出久が飛び出すまでの段取りを丁寧に積んだ第2話
──アニメは、原作に忠実でありつつも、コマとコマの間の膨らませ方が巧みだと感じています。第1話と第2話のコンテは、長崎監督が自ら担当されていますが、どういった点を特に意識したのですか?
長崎 漫画の原作物をやるのは、今回が初めてなんですけど。やっていて思ったのは、原作にある絵をそのままつなげても、原作っぽさは出ないんだなということ。漫画って一つ一つのコマが縦長だったり、横長だったりするんですけど、アニメの画面は常に16:9。原作のコマがなぜその形なのかという意味を考えて、それを16:9の画面の中で立てることを考えて作っていくと、自然にどんどん膨らんでいくんです。特に、1話、2話とか雄英高校に入学するくらいまでの話数は、出久とオールマイトの2人の物語なので、さっき話したデクの感情を取りこぼさず立てていくことを考えました。
──特に苦労したカットやシーンはありますか?
長崎 原作の第1話(アニメの1、2話の内容)って、ものすごく良くできていて。何も無い男の子が、オールマイトというNO1ヒーローに見初められるという展開に必要な要素が1本の話の中に全部入っているんです。でも、それをアニメに置き換えるとき、原作のコマを重ねるだけでは説得力が足りなくなってしまう。特に、2話で出久が爆豪を助けるために敵(ヴィラン)へ向かって飛び出すまでの流れに関しては、丁寧に段取りを積みました。まず、他のヒーローたちが誰も手を出せない状況を、しっかりと作らないといけない。原作ではセリフで「ベトベトで掴めねえ」とか「これを解決出来んのは今この場にいねえ」とか言っていて。漫画の場合はそれで良いのですが、アニメの場合は絵にも説得力を持たせないといけないんです。
──誰にも爆豪を助けられない状況で、出久のヒーローとしての資質の部分にスイッチが入って敵に向かって飛び出してしまう。その姿を見て、オールマイトも自分の限界を超えて助けに来る、という流れを強調したわけですね。
長崎 はい。「NO1ヒーローなのに、なんで最初から助けに行かないの?」とかならないように。そのあたりは特に気を使って、丁寧に積んだところですね。

6秒くらい尺を取ったオールマイトの重いパンチ
──1話冒頭のヒーローたちのアクションシーンも、原作から大きく膨らんでいる部分ですね。
長崎 最初にヒーローの活躍する姿をちゃんと見せておきたかったし、単純に引きとしてのアクションでもあります。あとは、個性やヒーローといった世界観の説明を兼ねているところでもあって。
──作品全体として、アクションシーンの見せ方、描き方の方向性などはありますか?
長崎 コンテ段階で言えば、アクション自体もそうですけど、毎回熱い話なので、アクションにいくまでの流れで、どんどん気持ちが高まっていく感じにしたいと、お願いしたりしています。アクション自体は、地に足ついた感じがありつつ、+αでケレン味が出せたらという感じでしょうか。例えば、1話だと、最初にヘドロヴィランに出久が襲われて、オールマイトが助けるシーン。NO1ヒーローなので、パンチ一発で終わるんですが、そのパンチ一発に6秒くらい尺を取ってるんですよ(笑)。そこは、NO1ヒーローのパンチの重さを感じるようなカットにして欲しいとお願いして、技術的にかなり難しいことにチャレンジしてもらいました。描き方によっては、「重い」じゃなくて「遅い」になっちゃうんですよね。

──アクション以外の面で、絵コンテや演出などの担当スタッフに、特にオーダーしていることがありますか?
長崎 基本的にその話数で見せなきゃいけないことを軸にしてもらっています。あとは、ギャグとシリアスの使い分けですかね。原作にもギャグは多いので、基本、原作を踏まえつつ、どんどん膨らませてもらっています。特に雄英高校に入ってからは、変で面白いキャラがやたらと出てくるので、そのあたりはできるだけ細かく拾って欲しいという形でお願いしています。
──ギャグとシリアスの両方に対応するという点では、キャラクターデザインの馬越嘉彦さんにも、そのようなオーダーを伝えたのでしょうか?
長崎 いえ、馬越さんの描きやすいようにお願いしますとだけ(笑)。元々、馬越さんにお願いした経緯から話しますと。原作の堀越先生の描くキャラクターはすごく喜怒哀楽がはっきりして感情豊かで、ギャグもあれば、シリアスでカッコ良いところもある。さらに、オールマイトみたいな(アメコミ風の)キャラから、ハットリ君みたいな目の(蛙吹)梅雨ちゃんのようなキャラまでいるんです(笑)。

──たしかに、バラエティに富んでいて、その振り幅も大きいですよね。
長崎 どんなタイプのデザインでも、どんな感情の流れでも、生き生きとした絵を描ける人にお願いをしたくて、馬越さんに声をかけさせていただいたきました。だから、堀越先生の原作の絵を、馬越さん風にやりたい方向でリライトというか、整理してもらってる形ですね。原作の絵に忠実でありつつ、馬越さんテイストもある感じになっているのはすごく感じます。元々、お二人の絵の相性が良かったというか。馬越さんには「好きな絵柄だからぜひやりたい」とも仰っていただいたので、そのあたりでも、すごく気持ち良く仕事をして頂けているかなと思います。同じ演出意図の同じキャラの表情でも、馬越さんが描いたらやっぱり違うんですよね。もちろん、技術的なものもあるんですけど、ご本人の朗らかな人柄がすごく入っているんだろうなと思います。良い絵がいっぱい上がってくるから嬉しいですよ。僕、馬越さんの画集も持ってますからね(笑)。
(丸本大輔)
(後編に続く 6/25公開予定)