その時代を象徴する雑誌が、15年7月に惜しくも休刊となった『宝島』(宝島社)である。
30~60代の男性なら、一度は手に取ったことのある雑誌だろう。しかし世代によって、人によって、これほど印象の異なる雑誌もない。その40年以上にわたる変貌ぶりを追ってみよう。
70年代…サブカルチャー誌
『宝島』は、伝説の雑誌編集者「J・J氏」こと植草甚一が73年に創刊した『ワンダーランド』が、その始まりだ。当時のJICC出版局から刊行されたその雑誌は、B6~A5サイズと小ぶりな判型に活字を凝縮。ドラッグや精神世界など、米ヒッピー文化由来のマニアックな特集を連発し、一部に熱烈なファンを生むも、部数的には伸び悩んでいた。
同時期にムック本の『別冊宝島』シリーズも創刊、ワンテーマを深堀りする若者向け教養マガジンで、その後のムック市場を開拓していくことになる。
80年代…ロック誌
80年代に入り、パンク・ニューウェーブなどの音楽・ファッションが注目されるようになると、誌面ではYMOや忌野清志郎などのアーティストを多く取り上げ、ポップカルチャー誌としての色を強めていく。
判型がB5変型判に拡大された87年ごろになると、折からのバンドブームに歩調を合わせるように、ロックバンドやストリートファッションの特集を主軸とし、若者のバイブルとして部数を伸ばしていく。自社発のインディーズレーベルからは、有頂天、THE WILLARDらが作品をリリースし、出版の枠を越えて若者文化をけん引する存在となる。
90年代…アダルト誌
だが、90年代に入りバンドブームに陰りが見えると、『宝島』の変わり身も早かった。宮沢りえら大物芸能人のヌード露出が話題になったころ、他誌に先駆けてヌードグラビアを前面に押し出し、「ヘアヌード」のブームを後押しすることになる。
風俗情報やセックス記事であふれたアダルト誌となった『宝島』は、全く新たな読者を獲得し、月刊から月2回刊へとペースアップ、過去最大となる20万部を売り上げることに成功する。
00年代…ビジネス誌
昨今の『宝島』読者は、00年の週刊化以降のイメージを持たれている方が多いだろう(03年より再び月刊化)。ヘアヌードブームの沈静化とともに、グラビアや風俗情報を姉妹誌へ移し、ビジネスマン向けの記事や新製品情報を主としたビジネス誌に大きく舵を切ったのだ。この時期、雑誌の長年の顔であった読者投稿コーナー『VOW!』も姿を消している。
10年代…アングラ誌
ライバルの多いビジネス誌業界で苦戦を強いられた『宝島』は、『別冊宝島』シリーズで得意としていた、裏社会などのゴシップ記事に活路を見出す。アンダーグラウンド情報誌としての存在感を放つものの、折からの雑誌凋落傾向に歯止めをかけることはできず、15年に休刊の運びとなる(休刊号の特集は「裏社会10大ニュース」)。
こうしてみると、ほぼ10年ごとに同じ雑誌とは思えないほどの大胆な誌面刷新を繰り返してきた『宝島』。“雑誌の時代”を切り開いてきた先駆者ならではの、ダイナミズムにあふれた43年の生涯だったといえるだろう。
(青木ポンチ)
宝島 2015年 10 月号 [雑誌]