今回、紹介する事件が世間に示唆したのは、「隣人を選べない」ということの不条理。自分の穏やかな生活が、運否天賦のルーレットのように回ってくる“狂気のお隣さん”によって、いつしか脅かされるかも知れない……。
そんな日常に潜むリアルな恐怖を体感するにあまりある衝撃的な事件に「騒音おばさん騒動」というものがかつてありました。
世間の声を代弁した塩爺の「キ○ガイ」発言
「顔を見て御覧なさい。目はつり上がってるしね、顔がぽ~っと浮いてるでしょ。これ、キ○ガイの顔ですわ」
発言の主は、小泉政権で財務大臣を担当したことでもお馴染みの「塩爺」こと塩川正十郎氏。コメンテーターを務めていた日本テレビの報道番組『真相報道 バンキシャ!』内で、発言を求められた際に思わず出てしまった、戦前生まれにありがちなナチュラル過ぎる放送禁止用語。
彼の言葉をさえぎるように、「いや、あのー、それは、そういう発言は、あのー、相応しくないと思うんですけども…」と、司会の福澤朗によって訂正されてはいましたが、この報道がなされた当初、映像を見た人の誰もが塩爺と同じ気持ちを抱いていたはずです。
ユーロビート・R&Bなどを大音量で流す騒音おばさん
騒音おばさんこと河原美代子容疑者(当時58歳)がメディアに登場したのは、2005年ごろ。彼女の朝は決まって、自宅の庭にCDラジカセを出すことから始まります。向かいの家に住む夫婦へ嫌がらせをするためです。
流す音楽は、年相応な演歌・歌謡曲の類ではなく、ユーロビート・ヒップホップ・R&B。
「今日も朝から嫌がらせ!」被害者夫婦を激しく罵倒
ビートに合わせ、ドラムプレイのように小気味良く布団叩きで布団を叩くおばさん。その様子をしかるべきところに提出する証拠映像として撮影しようと、被害者が家庭用ビデオカメラを向けたら……。キッとレンズの方を睨み付け、以下のように罵倒するのです。
「はい、引越ーし!引越ーし!さっさと引越ーし!しばくぞ!」
「今日も朝から嫌がらせ!」
「んあぁー!!? 盗撮!!わ・か・る!?」
時にBGMに合わせて言葉を吐いていくそのスタイルは、さながらフロウに乗ってDISをかますフリースタイルバトルのラッパーのよう。
こうした迷惑行為に及ぶようになったのは、1996年から。つまり、メディアで公になる10年も前からだったといいます。長らくおばさん自身がラジカセの音楽を聴いていたためか、後の法廷闘争の際、証拠として彼女が被害者を罵倒している映像が流れた瞬間、小刻みにリズムを取っていたとのこと。ヒップホップやR&Bが、おばさんの血肉になっていたことが分かる一幕です。
『めちゃイケ』のコントにも ネタとして大活躍した騒音おばさん
事件自体は、裁判の結果、おばさんが被害者に慰謝料200万円を支払い、一端の解決を見せました。しかし、世間に与えた衝撃は計り知れず、特にクリエイターたちはプロ/アマ問わず創作魂を刺激されたようです。
たとえば、『めちゃ×2イケてるッ!』で先ごろ復帰した山本圭壱が河原容疑者に扮したコントを放送したり、宮藤官九郎が「騒音おばさんVS高音おじさん」という曲をTHE ALFEE・高見沢俊彦のソロアルバム用に作詞したり、さらには、ネットユーザーが多彩なMAD動画を動画投稿サイトにUPするなど、ネタの素材として大活躍。
またおばさんがあのような行為に及んだのは、実は某宗教団体に嫌がらせを受けていたためであり、おばさん自身が真の被害者」との説まで流れたこの騒動。
(こじへい)