脚本:西田征史 演出:松園武大

15年ぶりに再会した常子(高畑充希)と星野(坂口健太郎)。
「あなたの暮し」も商品テストを雑誌の理念を象徴する大事な目玉企画として、いろいろ問題を抱えながら、育てていかなくてはならない。
21週はそんな感じだった。さて、22週の常子さんは?
商品試験の次なるテーマはアイロン。康恵(佐藤仁美)がつれてきた主婦たちに手伝ってもらって2ヶ月間、みっちりテストする。
康恵の再婚相手の連れ子がかわいい話、亡くなった前夫のことを忘れたわけではないが前向きに生きようと思ったと言う話を聞いた常子は何を思うのか・・・。
一方、星野宅に、亡くなった妻の父(志賀廣太郎)がやってきて・・・。
常子と星野の復縁に背中を押す要素満載。これだけ描いて、万歳なしよ(この間、高畑充希が「思い出のメロディ」で萩本欽一と共演していたので、「スター誕生」ネタで)にするつもりなのだろうか。いや、モチーフになった人物の生涯独身人生を知らない視聴者は、どうなるの? とやきもきしているのだろうか。
ドラマを毎日ドキドキして見てもらいたいという作意はどんな作品にもあると思うが、なんだか、常子と星野の関係性には邪な作意を感じてしまう。こんなふうに「とと姉ちゃん」は丁寧な暮しを提案する善意に満ちた話のようで、意外とブラックだ。
とりわけ、127回は週明け早々その毒気にあてられた。
では、毒を感じて震えた4つのセリフをあげてみよう。
「カフェーのときの客でね。気に入られてさ。全然 好みじゃなかったんだけど 金は持ってたから。フフフ」 (康恵)
水商売のお客さんと恋愛、結婚というのも悪くはないけれど、「金は持ってたから。フフフ」と来た。康恵のはすっぱ感が前面に出ている。
そんな彼女だから「今どきの若い男性はアイロンもろくに使えないんだねえ」とか「あんたらもアイロン使える主婦の当てなんてろくにないだろう。結婚してないんだから」とわきまえもなく言えるのだ。
全体的に育ちのいい教養のある登場人物が多いのでつい油断してしまうが、世の中には康恵のような人もいることを気づかされたセリフ。
「印刷所に文句言ったら金の話になった。
(花山)
超無責任発言。最初のうちはかっこいいことを言って、常子たちや視聴者も感動させていた花山だが、しょせんは、面倒くさいことは常子にやらせて好きなことだけやってる人、でも自分のやってることにはすごい自信のある人。このセリフからそう感じられる。
モチーフになった人物がどうかは別として、花山に関しては、決して聖人君子ではないのだと、視聴者の勝手な憧れを破壊する思い切ったセリフである。
「「葉っぱのあんちゃんのところにいけねえ事情でもあんのか」(森田屋の大将)
もともと、ひとつ屋根の下の娘と従業員の仲にも気づいてなかったくらいの大雑把な男は、どれだけ年を重ねてもとことん鈍いのだという残酷な現実を突きつける。
ついで、一向に客が入ってない店に、どうして大昭(上杉柊平)を雇えるのかという疑問には、おバカな男に代わって常子と星野に気配ることで立派に役に立っているという回答もしてくれた。
「大学に行けたし、文章を書く仕事もできた。そういう時期があったからこそ、いまこうして結婚して
子どもを育てて生活していくことの良さもわかるの」(鞠子)
世の中、仕事に人生を賭けている人だけではないし、一度決めた目標から外れることだってあるのだ、ということを明確にセリフにしてくれた。仕事が一番、一途が一番と躍起になる人間に、幸せオーラ全開でうっちゃった感あり。
このように、毒を感じた部分をあげてみたが、西田征史氏は「みんな違ってみんないい」と思って「とと姉ちゃん」の脚本を書いていると聞く。むしろ、こういうひとたちだって決して責められることなどない、みんな等しく生きているのだ、と大きな心で世界を捉えているとも言えるだろう。
128回もどんなセリフが飛び出すか楽しみです。
(木俣冬)