連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第22週「常子、星野に夢を語る」第132話 9月3日(土)放送より。 
脚本:西田征史 演出:松園武大
謎解き「あすなろ抱き」。木村拓哉から西島秀俊に繋がる線「とと姉ちゃん」132話
先週の「とと姉ちゃん」から
イラスト/小西りえこ

次々狙われる「あなたの暮し」の関係者たち。
常子(高畑充希)は、星野家に迷惑がかからないように、しばらく会わないと告げに来る。
卑劣な行為に屈しないと、小さなカラダでがんばる常子に、思わず星野(坂口健太郎)があすなろ抱き。

あすなろ抱きとは何か【白とと】


「できることなら僕がずっと守ってあげたいです」(星野)

「あすなろ抱き」とはバックハグ(後ろから抱きしめる)の俗称である。
90年代の月9ドラマ「あすなろ白書」(原作・柴門ふみ/脚本・北川悦吏子)で木村拓哉演じる青年が、ほかの男に恋いこがれるヒロインを「僕じゃダメか」と後ろから抱きしめたことが話題になって、以後、「あすなろ抱き」と呼ばれるようになり、ラブストーリーの定番になった。

冷静に考えると、向き合って抱き合うと俳優たちの顔がよく見えなくなるが、後ろから抱くと俳優ふたりのアップが見られるのでテレビ的なのだと思う。合理性とロマンティックさを兼ね備えた理想的なポーズなのだ。

だが「とと姉ちゃん」での「あすなろ抱き」は、単にラブストーリーを盛り上げる最適なポーズというだけではない、ある思いが隠されているように思う。


「あすなろ白書」の木村拓哉はいわゆる「眼鏡男子」で、本来の演者の人気に加えて、眼鏡を装着することでいっそう評判があがった。星野も「眼鏡男子」である。そして星野は、45話で「明日は桧になろう」のあすなろの木の話をしている。これらはすべて132回に至る布石だったのではないか。

しかも、「あすなろ白書」にはととこと西島秀俊が出演していたのだ。
「とと姉ちゃん」はやっぱりととが最重要人物で、ドラマの初期に死んでしまった彼の残像を、遺影や思い出話以外でなんとか印象づけようという試みが、この「あすなろ抱き」に結集されたともいえそうだ。

ゆえに、ドラマの最終週にととが登場するとアナウンスされたのも、単なるサービスや話題作りではないといえるだろう。

じつは、星野のできることなら僕がずっと守ってあげたいです」は、娘にととの代わりを託して死ぬことになった、ととの思いでもあった。そう思うと、15年の別れの時を経て、再会した星野がふたりの子どもの「父」として存在したことも必然になる。

赤羽根、無双【黒とと】


一方で、ブラックとと(赤羽根憲宗〈古田新太〉)が暗躍している。

社内でみんなが心配していると、赤羽根が社員・村山健太郎(野間口徹)と酒井秀樹(矢野聖人)を伴ってやって来る。
一見、穏やかそうに見せて、底意地悪い感じが巧い古田新太。

明らかに、自分たちのことを話題にしていたのも聞こえているはずなのに、石を投げられたなんて物騒だな、みたいに聞いたりして人が悪い。そこからねちねち「あなたの暮し」批判に入っていく。

大事な万年筆を放り投げられた花山(唐沢寿明)も黙っていられない。
「我々は庶民のためにならないいかなる権力とも戦わなければならない」とジャーナリストとして奮起する。

すばらしい。

でも、ちょっと待って。

「権力」のイメージを、一民間企業に集約させてしまって、良いものだろうか。
「社員を守りたいのはわたしも一緒です」(赤羽根)というセリフは意外と重要で、この人たちも、生活者なのだってことも忘れたくはない。赤羽根にも家庭があって父親でっていう描写があるとなおいいと希望する。

生活者たちを包括している大きな権力から目を逸らすような世界の描き方を無自覚にしていたらこわいし、自覚的だったらなおこわい。
おそらく、単純に「半沢直樹」のような構造で視聴者を掴もうとしているだけだと思うが。

23週も楽しみです。


・このレビューは、ドラマを見て良いなと思うところ【白とと】、ちょっと疑問なところ【黒とと】としています。時々、この連載で行っている分類ですが、なにぶん、ドラマの初回から追っている毎日連載なもので、このレビューを単体でご覧になった方には唐突に感じられる部分もあるでしょうが、ご理解くださいませ。
(木俣冬)