本日17時、年に一度のプロ野球人生交差点、ドラフト会議が行われる。

創価大・田中正義を筆頭に、近年稀に見る豊作ドラフト、といわれている今年のドラフト会議。
注目選手の情報は溢れているが、指名する側であるプロ12球団の課題と戦略はどうなっているのか? 本日行われるドラフト会議生中継(ニッポン放送)でも解説を務める野球ライター・菊地選手こと菊地高弘氏に、各球団の「ここに注目」を聞いた。
いよいよ本日。プロ野球ドラフト会議注目すべきはズバリここだ
菊地高弘(菊地選手):『野球部あるある』シリーズ著者。雑誌『野球太郎』をはじめ、さまざまな媒体で編集・執筆を担当。12球団指名OKとのこと

セ・リーグ編


───1年前の今頃は、「来年は田中正義に12球団競合も」と言われていましたが、高校、大学、社会人それぞれのカテゴリーで1位候補と呼ばれる選手がどんどん増えた印象があります。

菊地:とにかく今年は投手の駒が揃っています。そもそも、投手はどの球団であっても最優先で補強したいポジションです。優勝した広島、日本ハムにしても、枚数としてはもう1枚欲しかったところですし、今年10勝した投手が来年も勝てる保証はありませんから。

───その中で、各球団の編成・スカウトはどんな戦略をもって臨むのか、チーム状態や聞こえてくる声、オススメしたい選手などを教えてください。まずは、セ・リーグから。

《中日ドラゴンズ》
菊地:平田良介・大島洋平といった主力のFA移籍も噂されている中日ですが、逆にチームが変わるチャンスでもあるといえます。チームに活気をもたらすような選手を指名したいところです。

───オススメしたい選手はいますか?

菊地:たとえばですが、JX-ENEOSの内野手・糸原健斗。守備でも打撃でも球際に強く、ここぞ、という場面でしぶといバッティングができる選手です。決してドラフト上位候補ではありませんが、魂が技術を超えられる数少ない選手だと思います。

《東京ヤクルトスワローズ》
菊地:昨年の優勝から一転、5位転落。
原因はいろいろあると思いますが、今年もまたケガ人が多かった、というのも一つの理由だと思います。そして、二ケタ勝利を挙げた投手がひとりもいなかった。それだけに、間違いなく投手の補強が急務だと思います。

───ハマりそうな選手はいますか?

菊地:1位候補といわれる桜美林大の佐々木千隼ですね。まず、体が強いのでケガ人が多くなりがちな球団にもってこいだと思います。そして、都立日野高を経て、首都大学リーグでも日陰の存在になりがちな桜美林大で地道に力を蓄えてきた投手ですので、地元東京でも、巨人よりヤクルトにハマりそうな気がします。

《阪神タイガース》
菊地:「超変革」を掲げながら、もうひとつ変わり切れなかったのが今年の阪神だったと思います。だからなのか、金本監督は「一芸に秀でる選手が欲しい」というコメントを出していました。

───アマチュアでそんな「一芸選手」というと?

菊地:ぜひ、指名して欲しいのが日本生命の外野手・上西主起です。柳田悠岐のような弾丸ライナーを放つ打撃も魅力ですが、とにかく肩が強く、守備に関してはアマチュアにおいておくのは惜しい選手です。どう転ぶかはわかりませんが、このぐらい一芸に特化した選手を獲ってくれると面白いし、夢があると思います。

《横浜DeNAベイスターズ》
菊地:高田繁GMに取材をしたところ、「今年は野手が欲しい」という話をしていました。


───おぉ、野手なんですね。

菊地:今永昇太をはじめ、今年のDeNAは計算できる投手が一気に増えました。だからこそ今、野手の充実を図りたい、というのは本音でもあると思います。ただ、「今年の上位候補を見ると、投手なんだよなぁ」という話もしていました。もちろん、野手の注目選手がいない、というわけではないんですが、チームの顔になるような野手、というと確かに今年は少ないかもしれません。そこで投手指名に切り替えるのか、他球団の隙をついて野手でいくのか、注目したい点だと思います。

《読売ジャイアンツ》
菊地:巨人の山下スカウト部長に取材する機会が多いのですが、とにかく「勤勉」という印象です。それは球団全体の印象にもなっていて、巨人のドラフト戦略といえば、複数のスカウトでクロスチェックして精査した上で指名する、というのが最近の傾向になりつつあります。その勤勉さは素晴らしいと思うんですが、その分、指名にわかりやすさが損なわれている気がします。

───わかりやすさ、とは?

菊地:各球団の人気が高まっているとはいえ、それでも巨人が「12球団のうちのひとつ」という位置づけだとちょっと寂しい。野球をよくわからない人にも入り口となる球団であって欲しい。だからこそ巨人には、球界を代表するようなわかりやすい選手を獲って欲しいな、と。
その意味でいくと、今年は田中正義なんですが……。近年はあまり競合指名をしてこない傾向もあります。あえて独自路線をいく可能性もあると思います。

《広島東洋カープ》
菊地:2013年の大瀬良大地のように、果敢に競合指名も辞さず、という年はあるんですが、古くは前田健太をはじめ、「一本釣り」をしたがるのが広島カープといえます。

───今年でいうと、誰が一本釣り候補でしょうか?

菊地:広島の名物スカウトである苑田聡彦さんに話を聞いたところ、「個人的には加藤拓也(慶應大)が好き」という話をしていました。リリーフタイプで、自分を律して猛練習を積むことができる選手、という意味では、カープに合う選手といえるかもしれません。苑田スカウトの好みがどこまで反映されるのか、というのはありますが、1位指名でもおかしくはない選手です。


パ・リーグ編


《オリックス・バファローズ》
菊地:今年のドラフトのウェーバー順は交流戦を勝ち越したパ・リーグに優先権があります。つまり、パ・リーグ最下位のオリックスは2巡目の最初に指名できます。例年であれば1位じゃないと獲れないような選手が残っている可能性が高く、実質、1位指名が2回ある、という考えもできるわけです。

───オリックスといえば、クジ運がない球団として有名ですが。

菊地:確かにここ数年は競合を避け、単独指名をする傾向があります。去年はその単独1位指名で吉田正尚を獲得でき、今季しっかりと活躍しました。
ただ、そろそろ確率的にクジが当たってもおかしくないので、チーム状況も考えると、吉田に続くチームの顔になるような選手を果敢に指名して欲しいところです。

《東北楽天ゴールデンイーグルス》
菊地:楽天はペナント順位こそ5位と振るいませんでしたが、ドラフトは毎年、他球団もうらやむ指名が続いています。去年でいえば、1位のオコエ瑠偉も高校生野手としては順調な1年目だったと思いますし、3位指名の茂木が新人王最有力。6位の足立祐一も戦力になりました。

───そもそも、3位で茂木が残っていたのが驚きでもありました。

菊地:去年は野手でいい補強をしましたので、そう考えると、今年は投手で攻めて来ると思います。そして、楽天はオリックスとは違って、クジ運に恵まれた球団です。過去には田中将大をはじめ、松井裕樹、安楽智大と、その年の高校生No.1投手を見事に引き当てています。今年もそのクジ運を武器に、積極的な指名をしてくると思います。

《埼玉西武ライオンズ》
菊地:辻新監督は「守りを強化したい」と言っていますが、現状の主力選手の顔ぶれを見ると、そんなに簡単に守りにシフトできるのか? という疑問はあります。

───中村、森、メヒア、浅村、山川と、これほど「重量打線」と呼びたくなる顔ぶれもないですよね。

菊地:そんな顔ぶれの中、辻監督として個性を出せるのがショートです。
たとえば、中京学院大を大学日本一に導いた吉川尚輝は、例年であれば十分、1位指名でもおかしくない選手で、守備でも打撃でも華がある選手です。吉川で攻めても面白いし、よりディフェンス型のショートである日本大学の京田陽太、トヨタ自動車の源田壮亮も魅力的だと思います。西武は単独指名が多い球団なので、あえての野手指名もありえると思います。

《千葉ロッテマリーンズ》
菊地:ロッテは他球団と比べても、新戦力を実戦でどんどん起用してくる球団です。そして、ファンも熱狂的でありつつ、寛容な部分を持ち合わせているので、新人選手が活躍しやすい雰囲気というか土壌があるように思います。だからこそ、おおらかに育って欲しい素材型選手を指名するといいと思います。

───素材型でのオススメは?

菊地:たとえばですが、神奈川大の濱口遥大。最速151キロのストレートとチェンジアップが武器の左腕です。ドラフト1位もありえる素材ですが、彼なんかは巨人や阪神といった人気球団だと重箱の隅をつつかれて持ち味が発揮できない可能性があるので、ロッテがぴったりハマるんじゃないかなと思っています。

《福岡ソフトバンクホークス》
菊地:12球団のうち、唯一違う主旨でドラフトに参加しているかのように感じるのがソフトバンクです。他の球団は、「来年使える選手を」と即戦力が欲しいところ、ソフトバンクだけは、補強は外国人選手でカバーし、ドラフトはだいぶ先の将来を見据えた指名をしています。

───確かに、ここ2年は1位〜4位までが高校生。
さらに、育成枠でも大量の選手を獲得しています。

菊地:その「我が道を行くドラフト」をぜひ継続して欲しいところです。今年は高校生でもBIG4(横浜・藤平尚真、履正社・寺島成輝、花咲徳栄・高橋昂也、作新学院・今井達也)を筆頭に将来性豊かな投手が多いだけに、ソフトバンクの我が道ドラフトでも、指名に悩むかもしれません。

《北海道日本ハムファイターズ》
菊地:ソフトバンクとはまた違った意味で、ポリシーが明確なのが日本ハムです。そのポリシーが、「その年、一番いい選手を獲る」。ポリシーに沿う形であれば、競合も厭わない球団です。

───菅野智之(2011年)、大谷翔平(2012年)の強行指名で沸いたドラフトが印象深いです。

菊地:菅野の入団には至りませんでしたが、それでも、大谷を獲得できたからこそ、今年の日本ハムの優勝があったわけです。そして今年、普通に考えて「一番いい選手」は田中正義になるわけですが……どんな指名をしてくるのか、楽しみです。


「野球は生き物」という言葉をこれほど実感できる機会もない



───最後に、ドラフト会議ではこんな視点もあるとより楽しめる、というものがあれば教えてください。

菊地:ドラフトされる側、つまり選手は、刻一刻と変化をしています。ドラフト候補といわれる選手のなかには、高校時代は注目されず、大学で伸びる選手もいえば、社会人で頭角を表す選手もいます。代表例が、ロッテの石川歩です。

───石川は今年、パ・リーグ防御率1位に輝きました。

菊地:石川は、高校、大学ではプロから声がかからず、社会人でも当初は指名漏れを味わった選手です。「このまま社会人で終わるんだろうな」と思われた投手が、1年でガラッとかわってドラフト1位になり、1年目から活躍して新人王になって、今年はタイトルも獲りました。

───そういうシンデレラストーリーもある、と。

菊地:今年でいえば、JR東日本の進藤拓也のように、急に横で投げるようになって毛色が変わる選手もいます。だからこそ、アマチュア野球にももっと目を向けて欲しい。「野球は生き物」という言葉をこれほど実感できる機会もないと思います。ドラフト会議の後も大学野球など公式戦はまだ続きます。あるひとつの試合をキッカケに変わる選手もいます。そんな「人生が変わる瞬間」をぜひ目撃して欲しいですね。

(オグマナオト)
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