「面接の1分間は、ツイッターの140字ようなもの」

現在公開中、就職活動中の大学生を描く映画『何者』を観て、これは面白いとかつまらないは置いといて「2016年の映画だな」と思った。佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生らの人気若手俳優が集結。
主題歌は中田ヤスタカ 『NANIMONO (feat. 米津玄師)』で、物語の主人公は男同士のルームシェアで暮らし、登場人物たちは皆スマホがなければ死ぬレベルでツイッターに狂う日々。
一歩間違えばコントになってしまうボリュームで、これでもかと詰め込んだ「今」感。恐らく何十年後かに、2016年という時代を振り返る時に資料映像として取り上げられることだろう。そう、まるで同じ就活をテーマに25年前に作られた映画『就職戦線異状なし』のように。

1991年公開の『就職戦線異状なし』


『就職戦線異状なし』は1991年6月に公開された就職活動ムービーだ。バブル期の大学生たちの超売り手市場就活を描いた本作には織田裕二、仙道敦子、的場浩司、和久井映見、坂上忍といった当時のトレンディ俳優と呼ばれた若手の役者たちが集結(製作はもちろん人気絶頂のフジテレビ)。主題歌はブレイク直前の槇原敬之が歌う『どんなときも。
』。このデジャブ感、強引に一言で言えば『就職戦線異状なし』は91年版『何者』である。

物語はいきなり就活生の合否を賭けた「就職杯レース」を開催する大学の日常から始まる。勝手にオッズを決め、「さあ、みなさん他人の人生で大金を手に入れようじゃありませんか!」と能天気に絶叫するマスコミ研究会の美女役には羽田美智子や鶴田真由。今なら色々な意味でアウトなんじゃ……なんて真っ当な突っ込みは野暮だろう。

バブル期の勢いそのままに


ちなみに本作はバブル期の勢いそのままに、コンプライアンスなんて知らんがな的な勢いで突き進む。主役の早稲田大学4年生の大原(織田裕二)は就活ビギナーで気楽にエフテレビの模擬面接へ。
すると、マスコミ業界への就職を夢見る高校時代からの友人の立川(的場浩司)や毬子(仙道敦子)から「セミナーとは名ばかり、模擬試験というのは世間への建て前で、これで8割方は決まってしまうんです。マスコミが就職協定なんか守るわけないでしょ」といきなり強烈なダメ出しを食らってしまう。
それでも、当時から健在の織田裕二特有の異様に前向きな明るさで「まだ1回表!ルールはやりながら覚えて行く」と絶叫しながらバッティングセンターでバットを振る大原。先日公開された映画『SCOOP!』では「なんでおじさんは何でも野球に例えたがるんですか?」という台詞があったが、まさに現代のおっさんが若者だった頃に何でも野球に例える説が立証されているわけだ。

果てして大原の将来は…?


とにかくなんだか分からないアッパーで前向きなパワーに溢れている世の中。エフテレビ人事部で働くOLの秋山葉子(和久井映見)は、「どこかにいい男いないかなぁ~?いい男は入社前から目つけなきゃね。男の青田買いよ」と気合いを入れる貪欲さ。
友人のコナカの就活スーツに「なんだよアルマーニじゃねえのかよ」毒づく大原。大学の就職課に行けば、「今さら来ても遅いわよ。大穴の大原君」なんて怒られる始末。集団ディベート式の面接では中々上手くかみ合わず「結局、マスコミなんてミーハーだからね」と開き直る。

そんな時、オヤジのコネで大手代理店から内々定貰ってる北町(坂上忍)に誘われ、豪華なオープンカーで六本木のディスコに向かう面々。二股をかけていたデパートの内々定者の囲い込みの一環ということで、高級シャンパンで派手に乾杯する若者たち。

すると、そこでおネエちゃんを口説くのに失敗した中年男から「うるせぇ!貴様等みたいなガキが六本木をダメにしたんだ!学生は新宿三丁目でレッドでも飲んでろ!」と絡まれる。思わず店の外で中年男を殴り飛ばす大原だったが、後日、エフテレビへ面接に行くと、なんとその男はエフテレビ社員で面接官の雨宮(本田博太郎)だったのである……果たして、大原は希望のマスコミ業界へ就職できるのだろうか?

『就職戦線異状なし』と『何者』に共通のテーマ

 
ちなみに本作公開前にバブル崩壊。求人率は下落し、実際は就職戦線異状ありまくり……というオチもついた。
オープンカーで街に繰り出し派手に豪遊する25年前と、スマホ片手にホームパーティで軽く飲む現代の若者たちのライフスタイルは対照的だが、1991年の『就職戦線異状なし』も2016年の『何者』も、一つだけ共通して描かれている大きなテーマがある。
それは「就職活動=青春が終わる」という図式である。『就職戦線異状なし』で印象深いのは、大原が黒い喪服を着て面接に現れるシーンだ。
まさに青春の弔い合戦。楽しかった学生生活ももう終わり、さらば青春。そんな学生時代最後の祭りが「就活」なのかもしれない。いつの時代も、就活は一種の大人になるための「終わりの始まり」の儀式である。


『就職戦線異状なし』
公開日91年6月22日
監督:金子修介 出演:織田裕二、仙道敦子、的場浩司、和久井映見、坂上忍
キネマ懺悔ポイント:25点(100点満点)
今となってはギリギリの台詞が飛び交う本作。「僕、内定決まりました。
西武に内定決まっちゃいましたから」「プリンスホテルですか?セゾングループですか?」「いや清原とKKコンビ組もうと思って」というやりとりに思わず涙……。
(死亡遊戯)

※イメージ画像はamazonより【映画パンフ】就職戦線異状なし 金子修介 織田裕二