都知事選出馬騒動のネットニュースを見ながら、仕事で一緒になった20代中盤の男性会社員が不思議そうに言っていた。
バラエティタレントでもなければ、俳優って感じでもないし、選挙に出ようとするってキャスター出身とかですか? そうか、トレンディ俳優時代とか、懐かしのいしだ壱成の父親と言っても通じない世代の出現だ。
石田純一の実質的な初主演作
元号が平成に変わり、90年代突入前夜に公開された本作は、昼間はエリート歯科医、夜はジャズ・サックスプレイヤーの二刀流プレイボーイの独身35歳男と、彼をめぐる5人の美女の関係を描くラブコメディ。
当時、30代中盤を迎え、ドラマ『抱きしめたい』で人気急上昇中の石田純一にとって、これが実質的な初主演作である。監督はあの『家族ゲーム』の森田芳光。映画のテーマは、全編に渡って石田のフリースタイルの自由すぎる心情ナレーションを聴きながら、とにかく「モテまくりの石田純一が美女たちから結婚を迫られ、あの手この手で逃げまくる」。それだけだ。
劇中でもプレイボーイな石田純一
物語の冒頭で石田演ずる長島道行は、おネエちゃんから電話がかかってくると自室のベランダから脱出。すると、愛車ジャガーの後部座席で唐突にサックスを吹いてみせる(なんでやねん)。さすが周囲から「アルトサックスを吹きながらホラも吹く」なんて称されるプレイボーイだ。
自身の出演するジャズライブにまで女性が追いかけてくると、「今晩の演奏は君の瞳がコード進行だった」と何だかよく分からない台詞でかわすイケメンぶり。
そんな彼の唯一の悩みは不眠症である。その理由を「自分があまりに元気で気持ち悪い。僕を徹底的に疲れさせて眠らせてくれる、飛びっきりの彼女が欲しい」というバブル全盛期特有のギラギラ感溢れるナレーションで説明する長島。
すると、妹役の鈴木保奈美(当時23歳)がすかさず突っ込む。「なにが、飛びっきりの彼女が欲しい、よ。朝っぱらから独り言で起こさないでよね」。で、観客も一緒に突っ込むわけだ。あんた本当に声に出してたんかい!と。
意味不明なセリフの数々
自身が経営する歯科医院で、「まだ治療を終わらせないで」とせがむ女性には「差し歯ならホタルイカを噛むことができるけど、指輪ではツメも噛めないよ」と耳元で甘く囁く長島。だんだんと見ているこっちも突っ込み疲れ、その世界観に引きずり込まれて、次に石田純一がどんな台詞をかますのか楽しみになってくるのが恐ろしいところだ。
前半の見せ場でもある、赤いBMWに乗った美女との別れ話では、「思い切りサックスができるところに行こう」「思い切り○ックスができるとこ?今の気分じゃできないわ」「君のためにラストコンサートがしたい。僕のアルトサックスソロで、観客は赤い車で走り去る君さ」と凄まじい会話を繰り広げる二人。そして本当に赤いBMWを見送りながら、ひとり波止場でサックスを吹く長島はキメ顔でこう呟いてみせる。
「別れは、ほんの8小節だった」
石田純一の原点が詰まった内容
マジで意味不明だ。でもこれが石田純一なのである。今に至るまでブレてない唐突さと意味不明さ。
男ならいつか半笑いでパクりたいと思わせる名言揃いの本作だが、個人的に最も気に入った台詞はこれだ。おネエちゃんの部屋に上がり込んでから、長島はなぜか電球を買いに走る。そして、部屋から出て行く際にこうかましてみせるのだ。
「コンビニに行ってくるよ。君の部屋に1人で入る感激、味わいたいからね」
石田純一、最強である。
『愛と平成の色男』
公開日:1989年7月8日
監督:森田芳光 出演:石田純一、鈴木保奈美、武田久美子、財前直見、鈴木京香、久保京子
キネマ懺悔ポイント:17点(100点満点)
イケメンならなにをやっても許されるのか?と突っ込みどころ満載の本作。街で知り合いの女の子を発見し、「今日の僕は探偵さ」と呟き爽やかに尾行を開始する石田純一。ってそれ、今なら完全にストーカーだよ!
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonより愛と平成の色男 [VHS]