10月31日、埼玉県の浦和駅東口広場で、「あー」と声を上げ続ける謎のスーツ男がいた。声は高くもなく、低くもなく、あくまでフラットだ。
彼の横に掲げてある張り紙には8時間「あー」と言い続けると書いてある。しかも朝10時からやっているとも書かれている。訪れたのは朝11時前だから約1時間こうしているのだ。あと7時間言い続けなければならないのだ。
ただ張り紙の下に小さく、「法定労働時間」を守らなければならないため、昼と夕方にちょっと休憩すると書いてある。どうして「法定労働時間」? やはりこのスーツ姿からしてサラリーマンか。新しいタイプの「新人研修」か。それとも、新しい「交通違反者講習」なのか? だとすれば相当重い違反だろう。
もちろんその異様な雰囲気に、近づく者は誰もいない。
よく見ると、ノートとペンがかたわらにある。筆談ができるらしい。そこでこう聞いてみた。
「すみません、その『あー』の声に、何かこだわりとかはあるんですか?」
彼は「あー」と言いながらうなずくと、ペンを走らせ始めた。
彼曰く、いや彼が書くには、その声は442ヘルツらしい。
すると、さっきから同じように遠巻きに見ていた1人の男性がやってきて、事の経緯を説明してくれた。これは罰ゲームでも記録に挑戦しているのでもなんでもなく、「さいたまトリエンナーレ」というさいたま市内で行われている芸術祭のイベントで、立派な「アート活動」なのだという。そして「あー」と言っている男の人は、その芸術祭の中で開くパフォーマンス授業の講師として呼んでいる方なのだとか。
ほかの講師も強力な布陣をそろえているらしい。「アート活動」として東京から香川まで重いリヤカーを引いて歩く男や、政治活動こそ究極のパフォーマンスだとなぜか思いたち、行田市市議会議員選挙にいきなり立候補して当選、議員活動というパフォーマンスを続けている男など、ツワモノがいるらしい。この「トリエンナーレ」、市内で同時多発的に12月11日まで行われているらしいので興味のある方はぜひ行ってみてほしい。
様子を怪訝そうに見ていた男性が、「『ら』はできるんですか?」
謎の男「らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ら」もできるんかい! 今まで恥もプライドも捨てて「あー」と言っていた君はどこへ行ったんだ!
するとこの様子を見ていた男性がなんと「僕もやりたい」と飛び入り参加!
彼は大学1年生。多少、高音で歌うように「あー」を言い始めた。
すると我も我もと他のギャラリーも飛び入り!
ちょっと不気味でちょっと感動すら覚えるこの活動は無事、午後7時に終了した。
終了後、謎の男に話を聞いてみた。彼の「アー」以外の肉声を聞いたのはこれが初めてだった。
奥平聡(おくだいら・さとし)さん33歳。肩書きは「現在美術家」。上智大学文学部哲学科を卒業後、サラリーマンの世界へ。一時自ら会社を経営するなどしていたが挫折。人と合わせるつらさ、社会に自分をなじませる大変さを実感。ふと学生時代の部活動でたしなんでいたサックスのチューニングの難しさを思い出した。社会も合奏、オーケストラではないか。和を乱してはいけない。音を合わせないといけない。
ちなみに父親は公務員、元官僚。ほかの親族も公務員がほとんどだという。
「私はアウトサイダーになりましたが、社会や周囲に恨みつらみはありません」
これからも彼はさまざまな活動を行っていくという。
だが息が続かず、ときどき途切れる。文字に起こすと、こんな感じである。「あーーーーーーーーーーあっ!ーあーーーあっ、はぁ。あーーーーあっーーああ……あーーーーー」

10月31日、浦和駅東口でこんな人を見かけなかっただろうか?
彼の横に掲げてある張り紙には8時間「あー」と言い続けると書いてある。しかも朝10時からやっているとも書かれている。訪れたのは朝11時前だから約1時間こうしているのだ。あと7時間言い続けなければならないのだ。
ただ張り紙の下に小さく、「法定労働時間」を守らなければならないため、昼と夕方にちょっと休憩すると書いてある。どうして「法定労働時間」? やはりこのスーツ姿からしてサラリーマンか。新しいタイプの「新人研修」か。それとも、新しい「交通違反者講習」なのか? だとすれば相当重い違反だろう。
もちろんその異様な雰囲気に、近づく者は誰もいない。
東京の駅前にはいろいろな人がいるが、浦和もそうなのか。
よく見ると、ノートとペンがかたわらにある。筆談ができるらしい。そこでこう聞いてみた。
「すみません、その『あー』の声に、何かこだわりとかはあるんですか?」

彼は「あー」と言いながらうなずくと、ペンを走らせ始めた。

彼曰く、いや彼が書くには、その声は442ヘルツらしい。
「さいたまトリエンナーレ」というイベント」の一環
すると、さっきから同じように遠巻きに見ていた1人の男性がやってきて、事の経緯を説明してくれた。これは罰ゲームでも記録に挑戦しているのでもなんでもなく、「さいたまトリエンナーレ」というさいたま市内で行われている芸術祭のイベントで、立派な「アート活動」なのだという。そして「あー」と言っている男の人は、その芸術祭の中で開くパフォーマンス授業の講師として呼んでいる方なのだとか。
ほかの講師も強力な布陣をそろえているらしい。「アート活動」として東京から香川まで重いリヤカーを引いて歩く男や、政治活動こそ究極のパフォーマンスだとなぜか思いたち、行田市市議会議員選挙にいきなり立候補して当選、議員活動というパフォーマンスを続けている男など、ツワモノがいるらしい。この「トリエンナーレ」、市内で同時多発的に12月11日まで行われているらしいので興味のある方はぜひ行ってみてほしい。
大学生の少年が飛び入り参加!さらに輪が広がり……
様子を怪訝そうに見ていた男性が、「『ら』はできるんですか?」
謎の男「らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ら」もできるんかい! 今まで恥もプライドも捨てて「あー」と言っていた君はどこへ行ったんだ!

都内に戻って再び来てみると、まだ「あー」と言っていた 時刻は夕方6時
するとこの様子を見ていた男性がなんと「僕もやりたい」と飛び入り参加!
彼は大学1年生。多少、高音で歌うように「あー」を言い始めた。

すると我も我もと他のギャラリーも飛び入り!

ちょっと不気味でちょっと感動すら覚えるこの活動は無事、午後7時に終了した。
世界一哀しい「あー」秘話
終了後、謎の男に話を聞いてみた。彼の「アー」以外の肉声を聞いたのはこれが初めてだった。
奥平聡(おくだいら・さとし)さん33歳。肩書きは「現在美術家」。上智大学文学部哲学科を卒業後、サラリーマンの世界へ。一時自ら会社を経営するなどしていたが挫折。人と合わせるつらさ、社会に自分をなじませる大変さを実感。ふと学生時代の部活動でたしなんでいたサックスのチューニングの難しさを思い出した。社会も合奏、オーケストラではないか。和を乱してはいけない。音を合わせないといけない。
そこでオーケストラで合わせるときの442ヘルツと同じ声を自分も出してみようと思い立ち、1年前から「あー」ティスト活動を始めたという。
ちなみに父親は公務員、元官僚。ほかの親族も公務員がほとんどだという。
「私はアウトサイダーになりましたが、社会や周囲に恨みつらみはありません」
これからも彼はさまざまな活動を行っていくという。
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