「俺はもう闇を恐れない。ナオミがくれた勇気で、闇を抱きしめてみせる!」
「己を信じるとき、それが力になる。
これが本当の俺だ!」


『ウルトラマンオーブ』先週放送の第17話「復活の聖剣」は、長い鬱展開の先に待っていた熱い復活回だった! 
「ウルトラマンオーブ」17話。抱えた闇を克服する方法
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今まで張り巡らされていた伏線も見事に回収されて、ついにウルトラマンオーブの本来の姿、オーブオリジンが登場! 最強の武器、オーブカリバーで合体魔王獣ゼッパンドンをやっつけて、見事な大団円! よかったよかった。

さて、ここではこの傑作エピソードを大きく2つに分けて考えてみたい。
一つはガイ(オーブ)とナオミの関係。
一つはガイが抱えていた“光と闇”と“正義と悪”の問題について。


ガイとナオミの関係について


ガイ(石黒英雄)は悲劇的な過去を背負い続け、強い自責の念に駆られていた男だった。街から街へと渡り歩き、誰とも深い交流を持たない“風来坊ヒーロー”の影の部分である。

100年前はマガゼットンとの戦いで愛するナターシャ(ブラダ)を傷つけ、現在もナオミ(松浦雅)を何度も危機に追いやり、あろうことかギャラクトロンとの戦いでは自らナオミを傷つけてしまった。

医者のコスプレで(聴診器まで持っていた!)ナオミに襲いかかったジャグラス ジャグラー(青柳尊哉)から間一髪で助け出した後も自分を責め続ける。

「これ以上、大切なものを傷つけたくないのに……。俺といるとみんな不幸になる

ふさぎこむガイに、ナオミが声をかける。

私はオーブを信じてる。ギャラクトロンを倒したとき、たしかにオーブは私のことを傷つけた。けど、今、こうして無事でいられるのはオーブのおかげ。
たとえ、世界中の人が敵になっても、私はオーブに救いの手をさしのべたい

超人的な能力を持ち、人々を怪獣や魔王獣から救い続けてきたオーブだが、ここでは無力のはずのナオミがオーブに「救いの手をさしのべる」側にまわっていることに注目したい。

人は誰だって不完全だ。誰かが誰かを助けることで、世界は成り立っている。助ける側と助けられる側は、固定されている役割ではない。今日は誰かに助けられたあなたが、明日は誰かを助けることもある。

ナオミのマトリョーシカが割れて、中から現れたのはガイとナターシャが寄り添う写真だった。ここで初めてガイはナターシャが生き残っていたことを知り、ナオミがナターシャの子孫だと察する。

ナターシャのこと、生命のたくましさ、ナオミとめぐりあった己の運命……さまざまなことが胸に去来して、ガイは涙を流す。ガイとナターシャが愛していたメロディをハミングするナオミの姿がちょっと神々しい(ウルトラマンに似ている)。

ガイはナオミがくれた勇気を胸に抱いて、“闇と光の戦士”サンダーブレスターに変身する。ナオミがくれた勇気とは、自分の闇を抱きしめる勇気だ。誰かに信じてもらうことができれば――お互いに支え合うことができれば、人は闇を克服できるのである。
他人(ウルトラ戦士たち)の力を借りながら戦ってきたウルトラマンオーブらしいテーマだと思う。

それにしても、命をつないだナターシャにとって、ガイは“元彼”。生き残ったナターシャは、ガイの写真を隠したまま、ガイのことを“希望”として胸に秘めながら生活していたんだろうなぁ、と想いを馳せてしまう。

ナオミはガイの正体がウルトラマンオーブだと薄々気づいているようだけど、ガイとナターシャの写真は見ていない。100年前と変わらぬガイの姿を見たら、普通の人なら驚くだろうけど、今のナオミなら受け止めてしまうかも。

余談だが、『ビブリア古書店の事件手帖』のパターンだと、ナオミはナターシャとガイの……という可能性も捨てきれない? 今後の2人の関係に注目だ。

ガイが抱えていた“光と闇”と“正義と悪”について


強大な力を持つウルトラマンオーブ・サンダーブレスターは、“暴走する正義”そのものだ。

「力を持った者は、己の力を試すために、他のものを破壊し、支配したくなるのさ」というジャグラーの言葉どおり、サンダーブレスターは目の前のものを破壊し尽くしてしまう。ガイは自分の持っている闇を恐れていた。ジャグラーの言葉は的を射ていたのだ。

しかし、ナオミからもらった勇気で、ガイは闇を恐れない男となった。自らの闇と向き合い、それを認めることでサンダーブレスターを使いこなしてみせた。


力は使い方次第で、正義にもなるし、悪にもなる。それは意思だけの問題ではない。正しいと思っていたことが、暴走して悪に転じることもある。戦争は自らが正しいと思った者同士のぶつかり合いだ。また、核の平和利用のはずだった原発が悲劇をもたらしたことは記憶に新しい。正義を掲げる群衆が、標的をリンチしてしまう例は枚挙に暇がない。どうやって心をコントロールするかが大切なのだ。

ゼッパンドンとの戦いで苦戦するサンダーブレスターだが、ビートル隊からの攻撃にもキレることなく、ゼッパンドンの火炎攻撃からナオミ、ジェッタ(高橋直人)、シン(ねりお弘晃)を守ってみせる。一徹さん(柳沢慎吾)のガッツポーズが小気味良い。

ガイはサンダーブレスターを使いこなすことで、100年ぶりに「己を信じる」ことができた。そして蘇ったのが「本当の俺」であるオーブオリジンである。人は自分自身を信じることができれば、最大限の力を発揮することができる。
この前まで「オーブ(自分)を許せない」と言っていたのだから大違いである。「己を信じる」ことができるようになるのは、自分を信じてくれる他人の存在が何よりも重要なのは、ここまで見てきたとおりだ。

「俺の名はオーブ。ウルトラマンオーブ!」

決まった! ここでガイは初めて自分のことを「ウルトラマン」と呼ぶ。ちなみにこの名乗り方は、「007」シリーズのジェームズ・ボンドが元ネタ。「My name is Bond, James Bond」というやつだ。ゼッパンドンの尻尾(もともとはマガオロチの尻尾)から飛び出た光がオーブカリバーになるのは、日本書紀の草薙の剣が元ネタ。オーブカリバーのオモチャは売れそうだ。

さて、この記事が配信されている頃には放送が終わっている第18話は「ハードボイルドリバー」。渋川一徹さんが大活躍するぞ! 見逃してしまったあなたには、円谷プロダクション公式チャンネル「ウルトラチャンネル」で1話まるごと見逃し配信中です。闇を抱いて光となる!
(大山くまお)
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