
トライエックス
先週放送された22話「地図にないカフェ」は、過去のウルトラシリーズのネタを盛り込みつつ、ちょっとシニカルなSF風の仕上げで、さらにラストへと続く伏線も垣間見えるというワザありの一篇だった。
極悪宇宙人のブラック指令が喫茶店のマスターに!?
最近、急増中のUFOと宇宙ゴミの衝突事故を調査するビートル隊の渋川一徹(柳沢慎吾)。一方、SSPのナオミ(松浦雅)、ジェッタ(高橋直人)、シン(ねりお弘晃)は、一度行ったらやみつきになるけど、住所が実在しない謎のカフェの都市伝説を追う。最終回間際になっても、両者のキャラがまったくブレていないところが素晴らしい。
シンの発明「スペクトルバイザー」によって3人は噂の「カフェ・ブラックスター」の発見に成功する。『ウルトラマン』でジャミラの宇宙船を可視化したイデ隊員の発明が「スペクトルα・β・γ線」だった。シンはイデ隊員の血を引いているね。
ウルトラシリーズのファンなら誰もがピンと来る「ブラックスター」とは、『ウルトラマンレオ』に登場する悪魔の惑星の名前。ブラックスターから地球侵略のためにやってきたブラック指令と円盤生物は、防衛チームMACを壊滅させ、主人公・ゲンの恋人や仲の良い幼い少女(子役時代の富永みーな)も惨殺する。ウルトラシリーズ屈指の悪役だ。
それはさておき、カフェの中に入ると、そこはアンティークな雰囲気の渋い喫茶店。さらに渋い店長(赤星昇一郎)が3人を出迎える。ロケ地は武蔵境にある「珈琲館 くすの樹」。店長を演じた赤星昇一郎はお笑いトリオ「怪物ランド」の一員。
店の壁に常連客の写真とメッセージが貼られているが、ジェッタはその中に馬場先輩(中村龍介)の姿を見つける。馬場先輩の正体は9話「ニセモノのブルース」に登場したババルウ星人ババリューだ。店長は馬場先輩のことを「戦友」と紹介し、「昔はワルだったが、今は人が変わった」と説明する。店長自身も「何度敗れても夢を忘れられなかった」と語るが、ナオミに夢を問われた店長は「地球侵略」と一言。固まってしまうナオミたちに店長は「ブラックジョークです」とフォローを入れる。上手い。
侵略宇宙人たちが地球から逃げ出しはじめた!?
SSPの3人が帰った後に、店の奥からふらっと現れるクレナイ ガイ(石黒英雄)。ガイはマスターにジャグラス ジャグラー(青柳尊哉)の動向を尋ねる。店でコーヒーを飲んでいた妙齢の女性の正体はピット星人。『ウルトラセブン』では地球人の美少女に化けてエレキングを操っていた侵略宇宙人だ。店の壁に貼ってあった常連客の写真も宇宙人たちの姿に変わる。
侵略宇宙人たちは地球に大挙して押し寄せていたが、店長によると「沈みかけた地球からみんな逃げ出した」という。冒頭で登場したUFOの衝突事故は、地球から立ち去ろうとした宇宙人が人間の残した宇宙ゴミに衝突して墜落したものだった。「次はもっとましな星を探さなきゃ」と話すピット星人。宇宙人たちにとって、もはや地球は侵略に値しない星なのだ!
思い返してみれば、メトロン星人も20話で「この星の雲行きについて考えたらどうだ」と不穏なことをガイに言い放っている。死ぬ間際には「この夕陽は、闇に飲まれてしまうのか……」とも言っていた。メフィラス星人が指揮していた惑星侵略連合も、ジャグラーの言うとおり時代遅れの存在だったのだろう。一体、地球に何が起こっているのか……。
(地球を侵略する)夢をあきらめないで
カフェ・ブラックスターを閉めて、地球から立ち去ろうとするブラック店長だったが、相棒の円盤生物ノーバが突然巨大化! 誰もが地球侵略の夢を諦めている中、ノーバだけは変わらずに夢を追い続けていたのだ(いい話みたいだ)。ビルの窓越しに巨大化したノーバが見えるカットで花束をもらって泣いているのは、市野龍一監督。
ノーバの心意気に打たれた店長は、「待たせたな、ノーバ。地球侵略の夢、今ともに叶えようぞ!」と叫んでブラック指令に変身! ガイはバーンマイトにフュージョンアップしてノーバと戦う。
どこか藤子・F・不二雄のSF短編や『世にも不思議な物語』のようなテイストだった22話。地球にはすでに侵略の価値がないという逆転の発想をもとにしたシビアな話だったが、鍵を握っているのは20話に登場したジャグラーの言葉「この星の奥底に、まだ闇の力が眠っていたとはな……!」だと思う。
誰の心にも闇がある。それを無理やり消すのではなく、闇と向き合い、闇を抱きしめながら前を向いて生きていく。それが『ウルトラマンオーブ』全体のテーマだ。しかし、今の地球は侵略宇宙人たちが逃げ出すほど、闇の力が強まってしまっているようだ。それは、人々が感情の赴くままに放つ他人を否定したり憎悪したりする言葉が、奔流のように溢れ出てきた現実の世界とよく似ている。
さて、この記事が配信されている頃には放送が終わっている第23話は「闇の刃」。
(大山くまお)