日本のメディアで心霊現象が取り上げられることは少なくない。しかしその場合、たいていはバラエティ番組やスポーツ紙が中心だ。
だがこの騒動は、『毎日新聞』・『ニュースステーション』(テレビ朝日系)・『週刊朝日』といった硬派な報道機関も特集を組むなど、異様な盛り上がりを見せることとなった。
岐阜県富加町で発生したポルターガイスト騒動を振り返る。
完成直後から怪現象が発生したマンション
1998年、岐阜県富加町に4階建ての町営マンションが完成した。24世帯が入居する、ごく一般的な白い外壁のマンションである。周囲には田んぼが広がるのどかな立地だ。このマンションでは、完成直後から住民たちの間で「壁の中から音がする」という奇妙なうわさがたっていた。
2000年夏ごろには、音だけではなく水道が勝手に出る・テレビのチャンネルが勝手に変わる・コンセントにさしていないドライヤーが動くといった物理的な現象までもが発生するようになった。
住民は神主による祈祷を行うことにする。新築の町営マンションで怪奇現象が起きているため、住民たちは富加町に祈祷費を求めたものの、政教分離の原則に反するという理由で断られてしまう。だが住民たちの恐怖は大きく、結局は自費で祈祷を行った。
メディアが注目! 木刀を常備する住民も出現
富加町と住民たちの祈祷費をめぐる問題などもあり、このころから一般紙やテレビニュースなども含めたメディアによる報道合戦が繰り広げられるようになった。
当時報告された怪現象には以下のようなものがある。
■画びょうがはじけ飛ぶように勝手に抜ける。
■深夜、スリッパをはいたようなパタパタという足音が部屋中に響き渡る。
■外から空き缶が飛んでくる。
■ガスコンロの火が勝手につく。
■自転車置き場で知らない人が目撃される。
自転車置き場に知らない人がいるのは怪現象というよりも不審者情報のような気もするが、住民たちはそれくらいパニック状態になっていた。
マンション自治会長の男性は用心のため、木刀を常備するようになったという。しかし敵は目に見えない謎の存在であり、木刀の護身効果は自転車置き場の知らない人以外には不明だった――。
目に見えない敵に立ち向かった勇者たち
ワイドショー系のテレビ番組は専門家を現地に送り込み検証を行った。目に見えない謎の敵に立ち向かったのは、霊能者の織田無道や江原啓之、日本音響学研究所・鈴木松美所長という90年代バラエティ番組のオールスターキャストだ。
織田や江原は現地に存在する霊を指摘し、鈴木所長は水道管内の圧力変化で音が発生するウォーターハンマーという現象を指摘した。しかし専門家たちは仮説を示すところまでしかたどり着けなかった。
現在まで、怪現象の根本的な原因は謎のままとなっている。
入居者募集中! 現在も存在する町営マンション
2000年当時は、日本各地で祈祷や除霊をめぐる詐欺被害が報告されていた。また前年には「2ちゃんねる」が開設されるなど、インターネットが急激に普及していった。お化けよりも人間のほうがよっぽど怖いという実感を持つ人が増えた時代だったのだ。
それでも日本人は目に見えない不思議な存在が好きだということを証明したのが、岐阜県富加町のポルターガイスト騒動だろう。
――町営マンションは現在も同じ場所に存在している。怪現象は2002年ころまでは断続的に続いたといわれているが、その後は落ち着いているようだ。富加町役場のホームページでは入居者募集情報も掲載されている。
(近添真琴)
※イメージ画像はamazonよりポルターガイスト(2015) [DVD]