クリスマスと言えばホラー映画だ。

女性同士なら華やかな女子会ができるけど、男同士は騒げば騒ぐ程虚しくなる。
結果、真夜中になぜかワンルームマンションに男5人で集まって静かに観るホラー映画。あの恐怖と無力感を乗り換え、男は大人になるわけだ。
というわけで、久しぶりにクリスマス三連休にJホラーの金字塔『リング』を観ることにした。劇場公開は98年1月31日、配給収入10億円を突破し、もはやHIIHが歌う『feels like “HEAVEN”』の「くる~きっとくる~」主題歌と黒髪ロングヘアーの貞子がテレビから這い出るシーンが半分ネタと化している1本だが、公開から18年が経過した2016年の今こそ、1本のホラー映画としてガチで観賞したらべらぼうに怖いのではないだろうか?
今回は、『リング』今観ても超怖い説を検証してみよう。

「呪いのビデオ」という絶妙な設定


まずは不気味な漆黒な海面映像から始まり、次のカットでテレビに映るプロ野球中継には、ドアップでファースト清原和博の姿。ヤバイいきなり色々な意味で怖い。あ、すいません。最初に登場する女子高生はどこかで見たことあるなぁと思ったら映画デビュー作の竹内結子だった。主演は元祖菜々緒みたいな長身美女の当時24歳松嶋菜々子。その元夫役には、ちょっとくたびれたイケメンを演じさせたら右にでるものはいない当時37歳の男盛り真田広之。さらに恋人役で中谷美紀と豪華キャストが勢揃い。物語は観たら1週間後に死ぬ呪いのビデオテープを巡り進んでいく。

やはり『リング』と言えば、この「呪いのビデオ」という設定が絶妙だ。
これが呪いのDVDとか呪いのブルーレイとかなら怖さは半減してしまう。4Kテレビで観る鮮明な呪いの映像って全然怖くない気がする。あのビデオテープのごっついノイジーで無機質な質感に宿る説得力。ついでに、小道具で登場するポラロイドカメラの重厚感。あれがスマホアプリのSNOWなら緊張感は皆無だろう。
98年はまだガラケー全盛期でドコモのiモードすら存在せず、デジカメも一般には普及していなかった。DVDが世の中に広まるのはこの数年後、DVD再生機能付きのゲーム機プレイステーション2の発売以降である。

監督は東京大学を卒業した中田秀夫


……しかし、自分がやってみて気付いたけどホラー映画のレビューは難しい。なぜならストーリー紹介=即ネタバレに繋がるからだ。気を取り直して、本作の監督紹介をすると中田秀夫。東京大学卒業という超エリートの学歴を持ちながら、日活ロマンポルノの現場で助監督としてキャリアをスタートさせた異色の叩き上げ男。ノーベル物理学賞が欲しかったけど、とんでもない秀才揃いの環境に3カ月で挫折して、蓮實重彦の映画ゼミでロマンポルノの生々しいリアルさと出会った中田青年。
言われてみれば『リング』の微妙に後味の悪い終わり方は、ロマンポルノ代表作『団地妻 昼下がりの情事』の車で崖下に転落炎上する衝撃のラストシーンへのオマージュに見えなくもない。


テレビから這い出ててくる貞子


そして、やっぱり誰もが知っている、ラスボス山村貞子がテレビから這い出ててくるシーンはやはり今観ても盛り上がる。その直後、「くる~きっとくる~」というよりは「来た~っ!マジで来た~っ!」とガッツポーズをかましたくなるあの感じ。
『スター・ウォーズ』シリーズで言えば、ダース・ベイダーがライトセーバー片手に登場した瞬間のようなカタルシスがある。とどのつまり、貞子とは邦画界におけるダース・ベイダーなのである。

部屋を暗くしてテレビの前に座り、イヤホンを耳に当て、その後のJホラーでパクられまくった怖すぎる音響技術に震え上がり、最後は貞子にセイハロー。今回は動画配信サービスで本作を観賞したが、可能ならばホコリを被っているビデオデッキをテレビに繋ぎ、VHS版の『リング』ソフトを入手して、真夜中にひとり堪能したい1本である。


『リング』
公開日:1998年1月31日
監督:中田秀夫 出演:松嶋菜々子、真田広之、中谷美紀、竹内結子
キネマ懺悔ポイント:44点(100点満点)
のちに続編が制作され、アメリカでもリメイクされたJホラーの名作はやっぱり怖かった…(後味悪かった)。この90年代映画コラム「キネマ懺悔」は今回が年内最後の1本になります。もういくつ寝るとお正月が来る~きっと来る~。2017年も本連載をどうぞよろしく!
(死亡遊戯)

※イメージ画像はamazonよりリング (Blu-ray)
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