すっかり大晦日の恒例番組となった『ガキの使い』の笑ってはいけないシリーズ。今作は『絶対に笑ってはいけない科学博士24時』として放送され、多くの笑いを視聴者に届けていました。


『笑ってはいけない』の背景にある松本人志の理念


「紅白のウラで民放は毎年違うことやるやろ?ずっと同じことやれって!」

かつて松本人志は、自身のラジオ番組『放送室』でこう憤っていました。彼がいうところによると、「テレビとは、創り手側が視聴者を牽引してこそ面白くなるもの」。視聴者のご機嫌を取るように、短期スパンで番組をコロコロ変える今のやり方では、なかなか面白いものはつくれないというのです。

松本の理想は、自分が本当に面白いと思う番組を長期スパンで続けていくこと。民放が紅白に勝つのも、そういった長い目で見た戦略が必要だというのです。
さらに松本は「2~3年じゃ無理やで。10年単位くらいでやれば、大晦日の風物詩的なものになってくるから」とも語っています。このことから、年越し番組として11年間続け、初回の10.2%から2013年には19.8%(第1部)を記録した『笑ってはいけない』は、まさに彼の理念を体現した番組といえるのではないでしょうか。

野球拳を2時間半ぶっ続け! 前代未聞の番組


さて、同じラジオで松本は「“アレ”はホンマ、毎年続けていかなアカンかったんや」とも発言しています。“アレ”とは、1994年12月31日に放送された『ダウンタウンの裏番組をブッ飛ばせ!!』なる特番のこと。実は、『笑ってはいけない』が誕生するより遥か前から、松本もといダウンタウンは、紅白の裏番組に挑戦していたわけですが、すごかったのはその内容。なんと2時間半、ずっと「野球拳」のみをやり続けるという、前代未聞のプログラムだったのです。

この番組には元ネタがあります。それは、1969年~1970年に放送された『コント55号の裏番組をぶっとばせ!』。
当時一大ブームを巻き起こしていた大河ドラマ『天と地と』を、まさしくぶっとばすために制作されたのがこのコント55号版であり、目玉企画が「野球拳」のコーナーでした。

武田鉄矢がパンツ一丁、岡本夏生が全裸に…


時を経てリバイバルしたダウンタウン版は、野球拳のみをフューチャーした編成。スタジオでの野球拳はもちろん、ナインティナインがアポなしで都内の団地へ出張野球拳をしに行ったり、幕張の会場で優勝賞金100万円をかけた1000人規模の野球拳大会を実施したりと、まさに、徹頭徹尾野球拳づくし。
当然、野球拳ならではのハプニング、つまり“ポロリ”も多々ありました。素人女性や女性タレントが、乳房を曝け出すのは当たり前。さらには、スタジオで武田鉄矢がパンツ一丁、岡本夏生が全裸になるといった今では考えられない乱痴気騒ぎが、厳粛なる大晦日の晩に繰り広げられていたのです。

高視聴率を記録も、視聴者からのクレームが殺到


こうした過激さがウケて、視聴率は15.3%とすこぶる良好。同じく紅白のウラで放送していた『レコード大賞』(TBS系)と同率の結果を残しました。ですが、放送コードが緩かったこの当時の倫理観に照らし合わせても、かなり破廉恥な内容だったため、視聴者からの苦情が多かったのも事実。
その後も大晦日に『ブッ飛ばせ!!』特番は放送されましたが、企画内容は初回からかなりやわらかいものへと変容。それに合わせて視聴率も低下していき、結局1996年の第三弾をもって終了してしまいます。

結果から見れば、この『裏番組をブッ飛ばせ!!』は、松本のいう「大晦日の風物詩的なもの」となるには、かなり無理があったと言わざるを得ないでしょう。しかし、その失敗体験があったからこそ、老若男女楽しめる『笑ってはいけない』が誕生したのかも知れません。

(こじへい)


※イメージ画像はamazonよりダウンタウンのごっつええ感じ・コント傑作集(7)+ボケマしょうBEST [VHS]
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