90年代の新日本プロレスにおいて、「最強ガイジン」の名をほしいままにしたビッグバン・ベイダー。
190cm、170kgの超巨体を誇り、圧倒的パワーで日本マット界を蹂躙。
新日本の至宝、IWGPヘビー級のベルトに続いて、全日本プロレスの三冠ヘビー級まで巻いた史上初のレスラーにして、唯一の外国人レスラーである。

30年近く経つ今も、日本デビュー時の衝撃が忘れられない。ビートたけし率いる「たけしプロレス軍団(TPG)」の隠し玉として登場、突然の試合変更&初対決で猪木に勝利、そして不満が爆発した観客の暴動騒ぎ……。大混乱から始まったベイダーの歴史であるが、実は誕生以前から、混乱は始まっていたのである。

アントニオ猪木、幻の格闘技師範、漫画家の永井豪から誕生!


当時、アントニオ猪木の求心力に陰りが見え始めた新日本は混迷を極めていた。外部からブレーンを招き、その流れを断ち切ろうと模索していたのだが、その中心となっていたのが「骨法」という格闘技の創始師範・堀辺正史先生だ。
骨法は、奈良時代から伝わる幻の格闘技。堀辺氏は東條英機のボディガードをしていた父から一子相伝で譲り受けた……そうである。世界最強を決める地下格闘技トーナメントで優勝したという『グラップラー刃牙』的な過去を語っていた時期もあったが、いずれも真偽は不明。とりあえず、ビートたけしの番組『スーパージョッキー』で、たけし軍団をしごく整体師として活躍していたのは事実である。

さらに、骨法を題材にした漫画を描いていた関係で、漫画家の永井豪先生も参加していた。そこに、いつ何時でもロマンを忘れない猪木が加わる。
この3人の規格外過ぎる発想からベイダーが誕生することになる。


「3メートル近い大男やゴリラみたいな男を呼べ」


未知の強豪を呼ぼうとした猪木だが、その発想が凄い。
「中国の山奥には身長3メートル近い大男がいるはずだ」
「ブラジルのジャングルにはゴリラみたいなやつらがいるはずだ」
川口浩や藤岡弘、探検隊もビックリの自説をブチ上げる。

そんな人間はもちろんいないのだから、そこで話は終わりかと思いきや、「なら、作ればいいのでは?」と話が進むからとんでもない。すかさず、永井豪先生が「僕、描きますよ」と、助け舟。こうして、永井豪先生によるデザインが始まったのである。

予算の都合で上半身のみに!?


当初の予定では、中に人が入って操縦する巨大ロボット的なものをイメージしていたという。さすがに、入場時に限ってのことだと思うが、『マジンガーZ』の生みの親、永井豪先生ならではの斬新すぎるアイディアである。

結局、予算の関係もあって、そのプランは上半身のみで終わる。その名残が、ベイダーが入場時に着用していた甲冑だ。肩から煙がプシュー!と出てくるお馴染みのギミック、確かにロボット的である。
足のないジオングが後にパーフェクトジオングとして登場したように、パーフェクトベイダーも見てみたかった!

テリー伊藤も関わっていた「ベイダー開発プロジェクト」


この「ベイダー開発プロジェクト」には、あのテリー伊藤も関わっている。
当時の新日本プロレス中継は視聴率の低迷から、『ギブUPまで待てない!ワールドプロレスリング』というバラエティ要素強めの番組へとシフトしていた。テレビ的にも、目玉となる新キャラクターの誕生に期待していたのだ。

当初のベイダーのキャラクター原案は「妖魔獣デバステーター」!
英語の「DEVASTATE(破壊する。
壊滅する)」から生まれた造語で、「破壊者」や「略奪者」といった意味となる。企画コンセプトには、映画『ターミネーター』や永井豪先生の傑作『バイオレンスジャック』が挙げられており、アンチヒーローとして売り出す予定だったという。しかも、実写映像とアニメの同時発信も予定されていたというのだ。
実現していたら、テレビ界の歴史が変わったこと必至である。

昨秋、うっ血性心不全により余命2年とのショッキングなニュースが流れたベイダー。だが、人間離れしたベイダーのこと。病魔も破壊し尽くすに違いないのである。

※イメージ画像はamazonよりキングオブプロレスリング/BT02-020/RR/ビッグバン・ベイダー/第10代IWGPヘビー級王者
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