「うますぎて面白いでしょ?」

10年近く前、何かの番組でスタジオでバラードを一曲熱唱したあとに、雨上がり決死隊の宮迫が自信たっぷりにこう言っていました。
実際、彼の歌唱力は相当なもの。
もともと、役者としての演技力が抜群な器用なタイプの芸人なため、歌も無難に唄えてしまうのでしょう。ちなみに十八番は、欧陽菲菲の『ラヴ・イズ・オーヴァー』です。

そんな器用な男・宮迫が、同じ万能型芸人のDonDokoDon山口と結成した音楽ユニットが『くず』でした。

『エブナイTHURSDAY』のコントから生まれた『くず』


『くず』は、HIRO(宮迫)とANIKI(山口)からなる、『ゆず』をもじったフォークデュオ。フジテレビで放送していた『ワンナイR&R』の前身番組『エブナイTHURSDAY』(2000年10月9日~2001年3月22日)のコントにおける、キャラクターとして誕生しました。

キャラ設定として、2人はチンピラであり、出会いは刑務所の中。最初はやさぐれた態度をとっていたHIROは、ANIKIの言葉によって改心。意気投合した彼らは塀の外へ出た後、音楽による更生を目指すのですが、持ち前の気性の荒さから、様々なトラブルを巻き起こしいくことに……。
こんな感じの筋立てで、彼らをメインにしたコントが幾度も『エブナイ』並びに『ワンナイ』で放送されていました。

雨上がり宮迫とドンドコ山口が圧巻のパフォーマンスを披露


はじめて『くず』が登場したときの衝撃は、今でも忘れません。全身黒ずくめに白のYシャツという、映画『ブルースブラザーズ』を意識したと思しき、半グレ風スタイルで現れた宮迫とぐっさんは、よくある兄貴×手下の芝居をしてみせます。ここまでは、よくあるチンピラのコントです。
しかしこの寸劇の終盤、突如として2人はオリジナル楽曲『ムーンライト』を披露。この瞬間から、筆者を含めた多くの視聴者が心を奪われることになるのです。


服役中に、鉄格子から見た月を連想してANIKIが書いたというそれは、なかなかの良曲で、なによりも2人のパフォーマンスが抜群。メインボーカルを務めるHIROは、リズム感バッチリな振り付きで自慢の美声を響かせ、対するANIKIは、アコギをかき鳴らしながらパーカッションのようにボディを叩く「ボディスラム奏法」によって小気味良く演奏しつつ、温かみのある歌声でハモリを入れていく……。

この芸人らしからぬハイパフォーマンスは、業界内でも相当な評判になったらしく、コントの翌週に生放送された『エブナイ』のオープニングトークでは、「V6の三宅君とか、テレビ局で会う色んな人から褒められた」と宮迫が語っていました。

1stアルバムに7組の豪華アーティストが参加


かくして、話題騒然となった『くず』は、2001年にCDデビュー。『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』や『堂本兄弟』といった番組はもちろん、『ミュージックステーション』などのフジテレビ以外の番組にも出演していました。

さらに、2003年には1stアルバム『くずアルバム』をリリース。全10曲を収録したこの1枚には、なんと、宇多田ヒカル、GLAYのTERU&TAKURO、甲斐よしひろ、大友康平、西城秀樹、渡辺美里、佐野元春といった豪華ゲストも参加。
単なる企画モノという枠を超えて、多くの業界人、さらにはプロのミュージシャンからも愛されていたことが、この事実一つとっても垣間見れるというものです。「全てが僕の力になる!」ではオリコン1位を獲得。

2006年11月1日に5thシングル『夏の日々と親父の笑顔』以降、事実上の活動休止状態にある『くず』。いつか何かの機会で、宮迫はHIROに、ぐっさんはANIKIに姿を変え、また、あの美声と名演奏のパフォーマンスを披露して欲しいものです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりくずアルバム
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