毎週木曜19時放送の「プレバト!!」(MBS制作)が好調だ。生け花、料理の盛り付け、水彩画、書道など、様々な分野に芸能人が挑戦し、その専門家に判定するというもの。
中でも、辛口先生こと、夏井いつき先生による俳句のコーナーが人気を博している。さらに、この番組がきっかけで俳句ブームがじわじわと起きかけているらしい。
「プレバト!!」俳句解説の夏井いつき先生が怖い、でもかわいい理由

俳句は意外と身近なものなんじゃないかと思わせる


一般的に俳句と聞いたらどういう印象を受けるだろうか。、難しいだとか、高尚だとか、よくわからないとか、そういった意見がほとんどを占めるはずだ。
つまり、我々素人では俳句の良し悪しの判断をつけることが出来ない。とっつき辛いものと感じてしまうのだ。だがそれでもプレバトは高視聴率を獲得し続けている。一体なぜだろう?

それは夏井先生の説明によって俳句が、簡単に見えるからだと思う。観ているだけで、自分にも俳句が詠めるんじゃないかと勘違いしてしまうほどだ。一旦、1月26日に発表された句と、その句の添削後を見比べてみよう。今回のお題は、横浜赤煉瓦倉庫のスケートリンクだ。

放送された句


朝加真由美の作品。普通バラエティに出演したら誰もが気を使ってしまうベテラン女優だ。しかし、夏井先生はフラットに判断する。


冴ゆる風負けぬ子どもら頬溶かし

査定結果は、5人中3位、35点、才能無し。夏井先生の解説は、語順のせいで“冴ゆる風”が、子供の頬を溶かしてしまってるみたいで意味が伝わらないという。そして添削後がこちら。

冴ゆる風溶かさんばかり子らの頬

なるほど。子供の元気な頬が“冴ゆる風”を溶かしている事が伝わってくる。確かにわかりやすい。語順と少し言葉を変えただけで、ここまでわかりやすくなるのか。
次に、過去に褒められた事がないというKis-My-Ft2二階堂高嗣の句。

初リンク氷に映る照れた顔

査定結果は、5人中2位、40点、凡人。先生いわく、“照れた顔”の部分がもっともつまらないとのこと。具体的に氷に映るものよりも、映らないものに置き換えると詩が発生するという。

初めてのリンク氷に映る恋

添削前だと、何に照れてるかが表現されていない。
“照れた顔”という具体的な物を消しているのに、より具体的になるのは、なんだかすごい。ちなみに凡人以下が氷で句を詠むと、必ず“映る”という言葉を使うらしい。

最後に脚本も小説も手掛けている為、文才がないといけないという俳優・池田鉄洋の作品。

氷面鏡(ひもかがみ)映る真顔を相手にし

早速“映る”を使ってしまっている。査定結果は、5人中4位、30点、才能無し。池田の説明では“ぼっち感”を表したというが、それは伝わってこない。夏井先生は、これをスピードスケートの事を詠んだ句だと勘違いしてしまったらしい。

氷面鏡(ひもかがみ)に映る真顔の孤独かな

明らかにわかりやすくなった。これも実際に映る自分の顔ではなく、“孤独”という映らないものをチョイスして深みを出している。もっとも、最低限伝わるようにしただけで、俳句として夏井先生は満足してはいないようだった。

夏井先生の魅力は辛口じゃない



辛口を言うのは簡単だ。ただ俳句の知識を使って厳しくすればいいだけのこと。
それなら他の俳人にも出来るだろう。しかし、夏井先生の魅力は他にある。

池田の句の添削中、夏井先生はホワイトボードを使い一人喋りをしていた。

「氷面鏡でちょうど五文字なんですが、流れ上あえて字余りにします。(書きながら)氷面鏡に……映る真顔の、ここから映らない物を映してみましょう。(最後の“相手にし”を消しながら)ぼっち感?なんじゃその日本語!」

完全に自分で感情をコントロール出来ていない。いや、する気がない。自分一人で喋っているのに、途中で池田の“ぼっち感”という言葉を思い出して切れている。なんて感情の起伏が激しい人なのだろう。

感情の起伏が激しいのは、怒りに関してだけではない。怒りながら池田の句を添削した後「ここまでやると、少なくともスぺスピードスペースケートのではないとわかる」と噛んでしまう。しかし、これに対して司会の浜田にツッコまれると、夏井先生は嬉しそうに笑った。


つまり、夏井先生はわかりやすい人間なのだ。かわいいのだ。すごく色んな事を知っていて賢い人のはずなのに、どこか親近感を沸かせてくれる。「頬が解けたらゾンビみたいになっちゃう」とか、「怒りを超えて殺意を覚える」など、意外とフランクな言葉を使ってくれるのも、難しい俳句を教えてくれる上でありがたい。

今夜放送のプレバトに登場するのは、 岡本玲、河合郁人(A.B.C−Z)、黒谷友香、塩地美澄、千原ジュニア、鶴見辰吾、ぺえ。一体どんな素晴らしい句が登場するのか、はたまた下手な句がどれほどわかりやすくなるのか、夏井先生の腕とその喋りに注目したい。
(沢野奈津夫)
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