数ある出演作において隠れた名作といえるのが、1996年の7月から9月にかけて放送された『硝子のかけらたち』(TBS系)である。DVD化はされておらず、VHSソフトが高値で取引されている幻のドラマだ。平均視聴率は12.7%とふるわかなかったものの、内容はかなりヘビーなものとなっている。
藤井フミヤ、松雪泰子などが出演
主人公の神崎敦也(藤井フミヤ)は、写真家を夢見る33歳のビデオカメラマンである。そんな彼は偶然知り合った水沢硝子(松雪泰子)に惚れ込む。硝子は透明感のある美人だが風俗嬢、AV出演の過去を抱えており、さらには敦也の雇い主である如月時三(笑福亭鶴瓶)の愛人でもあった。
江角が演じる田村夏芽は硝子の友人であり、敦也の同僚である美戸部甚一(生瀬勝久)の恋人という設定だ。
このドラマの登場人物の設定は、出演者と重なるものがある。敦也が本当に手がけたいものは非商業的なアーティスティックな作品であるが、これは当時、フミヤがコンピューターを駆使して作り上げていた“フミヤアート”を彷彿とさせる。
さらに夏芽は女優を夢見る売れないモデルという設定。これも、モデルを経て新人女優として活動をはじめた江角のキャリアと重なる(本作は江角のドラマ出演としては2本目)。
悪役を演じた笑福亭鶴瓶
このドラマで印象的だったのは、笑福亭鶴瓶演じる如月時三だろう。柔和な笑顔とは裏腹に、愛人である硝子と敦也の仲を引き裂こうと、あの手この手で嫌がらせを試みる役どころだ。
だが、土壇場で硝子が現れ、自らのAV女優体験を踏まえ出演をやめるよう説得。敦也がその様子を偶然耳にしてしまうといった修羅場が続く。
このドラマにおける最大の悪人といえる時三。当時、バラエティ番組などでは「鶴瓶の本当の人間性が出ている」とイジられることもあった。
ドラマを貫くテーマとは
このドラマを貫くテーマは、愛する人の暗い過去を受け止められるか、という試練だ。硝子のAV出演の事実を知った敦也が、距離を置く場面も登場し、逡巡する男の心が描かれている。
当初のドラマの展開プランとしては、敦也と硝子が最後に結ばれるものの、硝子は時三の子どもを妊娠している事実が発覚し、そこに「それでもあなたは愛せますか?」とテロップを打つ予定であったという。しかし、それではさすがに不幸度が高すぎるためか、このプランは見送られたようだ。
『硝子のかけらたち』の主題歌は藤井フミヤの「Another Orion」。歌詞では一途な愛と別れが描かれており、見事にドラマのテーマとリンクしている。
藤井フミヤの新曲書き下ろしと主演に加え、エロシーン多数、ドロドロの昼ドラ的展開…今にしてみれば、ずいぶんとぜいたくな作りのドラマであった。
参考文献:『ザテレビジョン』No.37号,1996年.(角川書店)
※イメージ画像はamazonより硝子のかけらたち(1) [VHS]