あの『週刊少年ジャンプ』黄金期の後半を支えたバスケット漫画の金字塔である。
90年代前半の子どもたちは、人生に必要なことはすべて少年ジャンプから学んだ。担任の先生のどんな言葉よりも、湘北高の安西監督が口にする「あきらめたらそこで試合終了ですよ」が心に響いた日本中のスラムダンクチルドレン。ってことは、もはや安西監督は俺らの恩師なのである。
もちろん大人になった今も、家の本棚にはボロボロになったスラムダンク全巻が並んでいて、真夜中に時々読み返す。そういう人も多いと思う。
……なんだけど、映画版はまともに観たことがないスラムダンクファン多数(俺)。なぜなら、映画が公開された94~95年当時の中学生や高校生は毎週必死にジャンプを読んでも、小学校低学年向けに作られたと思われる東映のアニメ映画を劇場まで観に行くのは少しハードルが高すぎた。
というわけで、公開から20年以上が経過した今、スラムダンク映画を観賞してみよう。
『SLAMDUNK THE MOVIE VOL.2』は1枚のDVDに『スラムダンク 湘北最大の危機! 燃えろ桜木花道』と『スラムダンク 吠えろバスケットマン魂!! 花道と流川の熱き夏』の2作品を収録。劇場公開時は他のアニメと同時上映のため、それぞれ40分弱と非常に観やすい長さの作品に仕上がっている。
木暮が主役? 95年公開の『湘北最大の危機!』
まず95年3月公開の『湘北最大の危機!』は、インターハイ予選決勝リーグで海南戦に競り負け、桜木花道が"赤坊主"になった直後から始まる。原作ならこのまま武里高戦に突入するわけだが、本作ではその間の数日を描く。
映画で初めて登場する緑風高との練習試合である。
対する湘北は大黒柱のキャプテン赤木剛憲を足の故障で欠くが、代役にメガネ君こと木暮公延を起用。結果的に試合中の怪我で無念の退場をする木暮だったが、その捨て身のプレーで見せた闘志が不調の自チームを目覚めさせる。
いわば、いつもは控え選手の木暮を主役にしたスピンオフ作品的な内容である。
『スラムダンク』にも"イチロー"が登場
そして同時収録のもう1本、95年7月公開の『花道と流川の熱き夏』では、流川楓の出身校・富ヶ丘中でバスケ部主将を務める水沢イチローが登場。オリックスの若き天才打者イチローが210安打を放った翌年、なんとバスケットアニメにもイチロー旋風が巻き起こっていたわけだ。
っていくらなんでも自由すぎるぜ映画スラムダンク……。鈴木じゃくて、水沢イチローは将来を期待される中学バスケ界のスター選手だったが、ランニング中に突然の足の痛みに襲われ、診断結果は非情にも完治の望みが薄い「関節結核」。バスケ人生が絶たれ、憧れの流川先輩との高校全国制覇が目標だった中学3年生の少年は絶望するも、姉の水沢茜が中学時代の友人・晴子(湘北キャプテン赤木の妹)に相談。
弟の最後の舞台として、湘北バスケ部紅白戦でイチローと流川を同じコートに立たせることに成功する。
しかし、あえてイチローとは別のチームでプレーすることを選ぶ流川。ガチンコで対戦することが、後輩に対する彼なりの餞別だったのである。
意外なのが、イチローはこの試合を最後に湘北マネージャーを志す。「イチローには新たな目標が生まれた。例え、脇役でもバスケットに関わって行くことによりプレーヤーとして実現できなかった夢を達成させることだ」というエンドロールのナレーション。「友情・努力・勝利」の少年ジャンプ漫画原作映画で、あえて「勝てなかった男」を描く意欲作だ。
ちなみに少年ジャンプが発行部数653万部というとんでもない大記録を打ち立てたのは、この映画が公開された95年のことである。同年5月に『ドラゴンボール』が連載終了。さらに約1年後には『スラムダンク』も人気絶頂のまま連載を終えた。そのピーク時に制作された2本の『スラムダンク』映画版で、ジャンプ黄金期の勢いに触れてみてはいかがだろうか。
登場人物の高校生たちは、2017年には30代後半の中年男性になっているはずだ。40歳になったゴリ赤木が母校に戻り湘北高の監督として、再び「打倒!山王」を目指す。
いや、あきらめたらそこで試合終了ですよ。
『スラムダンク 吠えろバスケットマン魂!! 花道と流川の熱き夏』
公開日:1995年7月15日
監督:明比正行 声の出演:桜木花道:草尾毅、流川楓:緑川光、水沢イチロー:石田彰
キネマ懺悔ポイント:43点(100点満点)
原作では大人しく控え目な赤木晴子が積極的なキャラに変貌。自宅でいきなりゴリ赤木に「お兄ちゃん大好き!」と抱きつき、顔を赤くして照れるゴリという何だかよく分からないレアシーンはファンには必見である。
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonよりジャンプ・アニメ・コレクション1 SLAMDUNK 映画編 吠えろバスケットマン魂!! 花道と流川の熱き夏 (ホーム社ムック)