そんなルールを自身に課していると、高田純次は以前語っていました。目下の者に対してついついやってしまいがちな、上記のような承認欲求の発散。
それを抑えることを信条としているなんて、“テキトー男”というパブリックイメージとは違い、素はかなり真面目なおじさんなのかも知れません。
こんな逸話もあります。かつて、高田が代表を務める芸能事務所に所属していた麻木久仁子のしていた話です。彼女曰く、年に1度のギャラ交渉のときだけ、高田はキャラが変わるとのこと。普段の飄々とした風采は鳴りを潜め、冗談を一切言わず、怖い目で話し合いに臨むといいます。
彼自身は「テレビでテキトーキャラを演じているうちに、本当にテキトーになってしまった」と語っているようですが、実際のところ、拭っても拭いきれない、勤勉で誠実な部分も持ち合わせているのでしょう。だからこそ、芸能界の同業者から愛されて慕われて、70歳を過ぎた今でもなお、メディアで引っ張りだこなのではないでしょうか。
こうした高田純次の本質が、今から27年前の『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で垣間見えた瞬間があったのをご存知でしょうか?
『元気が出るテレビ』の名企画「勉強して東大に入ろうね会」
それは『元テレ』内で放送されていた「勉強して東大に入ろうね会」というコーナーでのこと。
その名の通り、受験生たちが東京大学合格を目指す姿に密着した同企画において、高田は司会進行役を担当。素人の出演者たちと長きに渡って関わりをもっていくのですが、中でも、絶好のネタ要因としてフューチャーしたのが、ニ浪の広瀬伸哉という学生でした。
広瀬伸哉こと広瀬くんは、一本気かつ愚直な性格で、ちょっと抜け感のある好青年。いかにも、たけしや演出家のテリー伊藤が好きそうなナイスキャラです。そんな生真面目な受験生・広瀬くんの勉強を、高田が度々邪魔するというのは、企画におけるお約束の一つとなっていました。
東大合格発表の日、無情な現実がそこに…
企画の最終回で取りあげられたのは、もちろん、受験生たちの合否。東京大学本郷校舎校門前に集められた五人の受験生たちは、一人ひとり、合格発表の掲示板を確認しにいきます。広瀬くんはラストとなる五人目。一人目合格。二人目合格。三人目、四人目も合格……。そしてとうとう、広瀬くんの番です。
彼が受験した文科一類は出願者数約2000名。その内合格できるのは640名。不安と期待で顔を強張らせながら、おそるおそる掲示板へと歩を進め、自分の受験番号と掲示板の番号を照らし合わせます。しかし無情にも、彼の番号はありませんでした。
広瀬くんを抱き寄せて涙する高田純次
あまりの無念に顔を歪める広瀬くん。悔し涙がとめどなく溢れ、ついには、地面に突っ伏してしまいます。
「ダメだったか…」そう言うと、泣き咽んで何度も「すいません…」とばかりに頭を下げる彼の肩にそっと手を回し、片手をポケットに突っ込んだまま、優しく抱き締めたのです。「応援してくださったのに…」「結構、自信あったんですよ…」搾り出すように泣きながら話す広瀬くんの話に、ただただ黙って耳を傾け、高田は静かに涙を流しました。
高田自身、学生時代、現役と浪人で受験を経験し、全て不合格になった過去を持つため、志望校に落ちる無念さは痛いほど理解できたのでしょう。
その後広瀬くんは、東大の合否発表前に合格していた慶応大学への進学を決意。スタジオに招かれた際、たけしから「(大学で)やりたいことはないの?」と問われた彼は、「スキーをやりたい」と言っていました。
その放送から8年後、まさにそのスキーをしている最中に、コース脇の立ち木へ激突し、28歳の若さで帰らぬ人となってしまった広瀬くん。その葬儀には高田も参加。再び高田が涙を流したのは、言うまでもありません。
(こじへい)
※イメージ画像はamazonより高田純次 適当人生~地球の変な歩き方~ [DVD]