いつの時代も大衆は刺激を求めるもの。今のご時勢、様々な規制があるテレビよりも、規制などおかまいなしに、エロ・グロ・虚実、何でもありなネットへ、多感な若者が流れていくのもむべなるかなというものです。


かつては、今のネットに勝るとも劣らない、ゲテモノ的多様性に富んでいた深夜帯でさえ、ゴールデンの延長的なノリのバラエティと情報番組に侵食されて久しい昨今。
こうした時流の変遷に呼応するかのように、テレビの世界からリタイアしたタレントがいます。上岡龍太郎と島田紳助です。

師匠・弟子の関係ではなかったものの、“心の師弟”として結ばれた2人。上岡がずいぶん前から告知された「計画引退」であったのに対し、紳助は「黒い交際疑惑」による急な引き際という、それぞれ異なるカタチではありましたが、上岡が2000年、紳助が2011年に芸能界を去っていきました。

無論、彼らの引退が、テレビの脱アングラ化と直接関係あるわけではありません。しかし、この2人が出演していた『EXテレビ』の実験性を思うと、今はなき上岡と紳助が、刺激的だった頃のテレビにおけるアイコンのように見えてならないのです。

ジミー大西が画家になるきっかけにもなった『EXテレビ』火曜日


『EXテレビ』は、1990年4月から1994年3月にかけて、日本テレビ系で放送されていた深夜番組。前身番組の『11PM』と同様、月・水・金は日本テレビ、火・木は読売テレビが制作を担当しました。

中でも注目を集めたのは、上岡と紳助が司会を務めた火曜日。
「テレビ論がテーマ」というお題目のもと、ダウンタウンを交えた暴露大会、ジミー大西が画家に転身するきっかけとなった絵画チャリティーオークション、棺桶に入ってトークする「死について考える」回など、くだらないものから真面目なものまで、幅広い触れ幅で冒険的企画が考案されました。

低俗の限界を探るために企画された“伝説の神回”


しかし、いずれもお色気を排除した内容だったために、『11PM』的エロを期待していた男性視聴者からは、番組開始当初より「裸を出せ!」との苦情が寄せられていたそうです。
その批判に挑戦的姿勢で応えた結果、今でいう“伝説の神回”となったのが、『低俗の限界』なる企画でした。

この企画は、上岡曰く「テレビの猥褻はどこまで許されるか、低俗とはなにか」について考えることを目的にしているのだとか。
そこで「いっちょう裸を氾濫させてみよう!」という趣旨のもと、スタジオに全裸のAV女優たちを招待。
あろうことか、上岡と紳助の後ろに座らせて、ちょうど、二人の頭で彼女たちの股間を隠したままトークを進めるという、なんとも奇抜な演出をしてみせたのです。

歴代最高視聴率を記録、一方で苦情の電話が300件以上殺到


けれども、繰り広げられたトーク自体は、過去に放送された低俗番組を振り返ったり、低俗番組にはどんな苦情が寄せられるのかを特集したり、あるテレビディレクターが実際に設けている自主規制の基準について紹介したりと、けっこう真面目。
トークの合間に挿入される紳助司会の「実験的低俗空間」と題された下品なクイズコーナーも、どこか低俗番組を風刺化している印象で、単なるお色気番組とは一味もふた味も違う問題意識を含んだ内容になっていました。

結果この回は、夏休み期間中の放送ということもあって、歴代最高視聴率となる12%、瞬間最大視聴率は16%を記録します。
反面、非難の電話も殺到し、その件数は、先ごろフジテレビで放送された『アナ雪』への苦情件数200件を上回る、300件以上。視聴者の期待に応えて実施した企画のはずなのに……。いずれにしても、こんな挑発的で刺激的な番組、もう、二度とお目にかかることはないでしょう。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりいつも心に紳助を ファイナル
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