山田孝之がカンヌ映画祭でパルムドールになるために映画を撮る……というコンセプトのドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』。
テレビ東京系で金曜深夜0時52分放映。テレビ東京オンデマンドでも見られる。
「山田孝之のカンヌ映画祭」9話。本心を吐露した芦田愛菜、木になった村上淳
山田孝之、村上淳に首吊りの練習をさせたあげく配役をチェンジし、しまいには降板させてしまう

9話は「村上淳 木になる」
一貫してタイトルは「山田孝之 ○○する」がタイトルだったのに、今回とうとう変わってしまった。
監督・松江哲明(山下敦弘と連名)は、「変えざるをえませんでした」と語っている。




村上淳、受け入れる


山田孝之の撮る映画「穢の森」で、父親役として指名された、村上淳。
彼は役のために「首吊りの練習をしてほしい」という無茶振りを引き受けた。
首元にあざをつくり、マイ首吊り縄を持ってきた村上淳。

ところがいざ稽古場に来た所。山田孝之は、首吊りはやっぱり危ない、責任が取れない、と言い出す。
村上淳には、少女に歌で語りかけるの役をやってほしいと言う。
2話で、芦田愛菜が読んでいた本が「森は生きている」だったのを思い出す。

村上淳「重要な役だったら、ワンシーンでも、木でもぼくは全然」

最初、木の配役会議をしていた時、ホワイトボードに「松重豊 大杉漣 田口トモロヲ」の名前が記載されている。遠藤憲一の名前も、会話で出て来る。
この4人は、テレ東で『カンヌ映画祭』の前に放映されている番組『バイプレイヤーズ』に出演している。名脇役俳優6人が、自分を演じるというドラマだ。

『バイプレイヤーズ』5話。自分勝手すぎる監督に、周囲がいらだつシーンがある。
しかし松重豊は、監督の言うこと全てを受け入れる。
自分が必要とされている現場があれば全力でやる、と松重豊は語る。
彼は男子高校生を演じるため、寒空の中真っ直ぐ、まさに木のように立って出番を待ち続けていた。

『カンヌ映画祭』の村上淳の向き合い方も、木だった。
彼は、今までにないことをしようとしている山田孝之に注目していることを、山下敦弘に熱く語る。

村上淳「面白いインディーが少ないように感じる。自由なはずなのに。カウンターカルチャーでもあり、好きにやっていいはずなのに、なんか同じような作品になっちゃう寂しさはぼくも感じてる」

しかし歌が微妙だった村上淳は、降板させられてしまった。
放映時、木の役で笑いが多かったTwitterの反響が、途端にざわついた。

スタッフ、受け入れる


スタッフは、漫画家・長尾謙一郎が描いたイラストを元にイメージを作っていこう、という山田孝之の案に従ってきていた。
ところが山田孝之は、独断でもう2枚追加発注していた。

主人公らいせの殺人は包丁じゃなくて、焼くことにしよう。
クライマックスはナパームで森を燃やそう。
らいせが錯乱したきっかけが弱い。
だったららいせが蛇に噛まれるのはどうだろう。
山田孝之の話が、ものすごい勢いで膨らみはじめてしまう。

子どもに傷をつける、という話しになって、山下敦弘がストップをかける。
山下敦弘は、山田孝之の手法では映画撮影は無理だと踏んでおり(7話)、脚本家にプロットを見せて、ストーリーを書いてもらっていた。
使うかどうかはともかく、せめてスタッフが準備のためにあった方がいい、という現場を仕切る「監督」としての考え方。

山下敦弘がはじめて、山田孝之の指示の前に、自分の考え方で動いたシーンだ。

山田孝之「これ以上そうやって人通す方が絶対まずいっすよ」「俺は見ないっすよ」「結局同じやり方じゃないですか、本を元に作っちゃうと」

山田孝之が先に帰った後、スタッフは彼の考えるやり方を通すにはどうするのがベストか、予算はどうなのか、と真剣に話し合う。
誰一人、反論は述べない。
山下敦弘の作ってきた台本は、スタッフも読みたがった。

芦田愛菜、見つめ直す


話しがまとまらず破綻一直線の中。
芦田愛菜は、山下敦弘だけを呼んで、自分の思いを告げる。

芦田愛菜「スタッフのみなさんはきっと、山田さんについていきたい、山田さんに応えたい、山田さんの作るものを信じてる、そう思ってきっと今やってらっしゃるはず」
「なのに山田さんが、一人どんどん先に進んでいっちゃうと、きっと、スタッフの皆さんも、気持ちはついていきたいと思ってるのに、どうしたらいいんだろうって。すごく困ってらっしゃると思う」
「そうなっちゃうとなんかこう、いい映画は、いい作品は作れないんじゃないかなって」

芦田愛菜自ら、山田孝之の指示なしに動いたのは、山下敦弘の台本制作同様、はじめてのことだ。
彼女の考え方自体は、2話の時から一切ブレていない。

「このお話を聞いた時から、やらせていただきたいなと。山田さんのこと、尊敬しているので、いつか一緒の作品に携われたらなと思っていたので」(2話)
「はじめてお会いした時に、映画について熱く語ってくださって、私のことを必要としてくださってて、山田さんに私はついていきたいと思ったんで」(6話)

彼女の言う「いい映画」は、「質のいい映画」以上に「山田孝之が目指す理想の映画」のニュアンスが強そうだ。
エンディングテーマは今までと違い、9話で全体を見つめていた芦田愛菜の、アドリブアカペラが流れた。

次回「長澤まさみ 悩む」。
山田孝之が独断で決めた母親役、長澤まさみは、今までのナレーション担当だった。
タイトルに、山田孝之の名前は戻ってこない。

(たまごまご)