「あの時、あーだったら」「もっと、こーしてれば」と居酒屋に集い仮定ばかり語ってまったく行動できないアラサー独身女(タラレバ娘)3人が2020年の東京オリンピックまでに独女を卒業しようともがく姿を描く『東京タラレバ娘』(水曜よる10時)がじれったい。
ドラマ「東京タラレバ娘」がじれったい理由、坂口健太郎の重責を考える
『東京タラレバ娘』7巻/講談社Kiss コミックス

月刊漫画誌『Kiss』で連載中の東村アキコの人気漫画が原作ということもあり、8話までの全話平均視聴率は11.78%で、『A LIFE 〜愛しき人〜』(日曜よる9時)の14.36%に次いで2位と好調とはいえ、7、8話で視聴率が若干下がって来ている。
原因は3人があまりに身も蓋もない恋愛をしていてじれったいからではないか。それがこのドラマの狙いだとも思うが、しっかりしろーと言いたくなる。

仕事も恋愛も不安定なお年頃、タラレバばっかり言って現実の恋からしばらく遠ざかっていた女たちが、満を持して恋をはじめたものの、久々だからかなんだかとってもおぼつかない。主人公で脚本家の倫子(吉高由里子)は、気になる金髪モデルのKEY(坂口健太郎)と、安定株のテレビ局プロデューサー早坂(鈴木亮平)との間で揺れている。倫子の親友・ネイリストの香(榮倉奈々)は、彼女もちのバンドマン(平岡祐太)の2番手に甘んじている。もうひとりの親友・実家の居酒屋を手伝う小雪(大島優子)は、妻子持ちのサラリーマン丸井(田中圭)と不倫中。


モデルもプロデューサーも独り身である倫子はマシだが、ナンバー2と不倫の香と小雪は目も当てられない。二股バンドマンも不倫サラリーマンもろくなもんじゃない。平岡祐太と田中圭が甘え上手な雰囲気を漂わせるから、雰囲気に流されちゃいそうになるが、どう考えても時間のムダ。

だが倫子は言う。
「私達だって頑張ってないわけじゃない。しあわせになるために頑張ってるんだ。
それなのにどうして昔思い描いた未来と違うんだろう」
(8話より)

いやいや、あなたたち、頑張ってませんから、残念! とちょっと古いが一刀両断したくなる。
3人とも手近な相手で済まそうとし過ぎ。金髪モデルが気になるけどふらふらとプロデューサーにいってしまうのは、昔、自分に告白してくれた人だから。バンドマンも元カレだから。妻子持ちのサラリーマンも束縛されなくて楽だから。香(榮倉奈々)も認めている。
「1回好きって言われたオトコとは強気でいけちゃうんだよねえ」と。
いまの自分が特別頑張らなくても受け入れてくれる楽を選ぶ。要するに、3人の恋は、居酒屋で女3人、タラレバ言っていることとあんまり変わらない、そういう辛辣さがタラレバ娘の面白さでもある。

とはいえ、そうなっちゃう気持ちもわかる! 頑張るのは疲れるし、頑張った結果振られたら傷つくし、できるだけ、アナ雪じゃないけど、ありのままでいられるひとがいい。束縛されたくないから、適度に会える家庭持ちがいいという小雪(大島優子)の考えも、もしかしたら二番手から本命に自動的に上がれる可能性があって、お互いのいいとこ悪いとこ全部わかっている元カレに執着してしまう香の気持ちもわかる。

もっと若かったらそんなとこで停まっていないが、倫子が言うように「歳とともに、だんだん簡単じゃなくなってくるんだよ。
何かを辞めるのもはじめるのも」
なのだ。

が、そこでちょっと待てーと言いたくなるのが原作世代の視聴者だ。
原作では主人公たちは33歳。ドラマでは30歳。この3歳差は大きい。あと2年でアラフォーになってしまう女とまだしばらくアラサーでいられる女とでは切実感は大きく違う。
そんなに達観されたら、こちとらの立場がないよと思ってしまうのが原作世代。
原作の倫子たちは仕事に対してそれなりにプライドも持てている状況で、だからこそ、今のままの自分で恋ができれば楽という気持ちに救いもある。ドラマの倫子たちは、仕事もまだまだ、恋も全然で、かつ今のままでいたいというのはあまりにもふんわりしている。例えば、このドラマに親近感をもって観ている20代の視聴者にとってはそんなふうに言われると心外かもしれない。私達だって切実なのよと。でもなー、おばさんから見ると、ふんわり見えてじれったい。


お年寄りのもの化しているドラマで、その原作世代を切り捨てるのは、大河ドラマでおじさんを切り捨てるようなもので、制作側もなかなか強気よのう、と思っていたら、8話で「女は25歳を過ぎると、時間が経つのが早い」と企画書に書いた倫子に、オトコのプロデューサーが「坂道を転げ落ちるように」とよく言うよねと言うと、主人公たちより年上の女性プロデューサー(井上晴美)が、上の世代の視聴者の気持ちをフォローするかのように、自分たちの年代の大変さを語る。「30代はその倍速であっという間よ」と。

要するに、どの世代でも、時間はあっという間に過ぎて、残るのは後悔と焦りと過去のささやかな成功体験なのだ。
設定年齢はどうあれ、こんなふうに後悔と焦りと過去の成功体験にのみすがって、全然前に進めない女たちにイライラをぶつける人物がいる。金髪野郎・KEY(坂口健太郎)だ 。暗い過去をもち、そのため、倫子たちが「生」をムダにしていることがたまらなく腹立たしいらしく、3人にキツく当たる。このドラマの生身の人間としては唯一のツッコミ担当だ(タラとレバという妄想キャラが一番のツッコミ担当)。

ところが、目下、このドラマで一番じれったいのがこの金髪なのだ。偶然なのかわざとなのか何かと倫子のいるところに表れてこっそり見ている姿に、なんでこんなにタイミングよく居合わせるんだよーと思うし、見つめてばかりで、千と千尋のカオナシかよーとツッコミたくもなる(念のため坂口健太郎は悪くありません)。

原作が未完なのでどうなるのかわからないが、始めたり辞めたりする気力や体力のなくなってきたアラサー独女たちが、そのままでいいのか、いけないのか、ハムレットみたいに悩みながらも一歩踏み出しはじめたら痛快で、停滞気味の視聴率もぐっと上がるのではないか。
とにかく、KEYが今後もっとわかりやすい行動に出たら、もっと盛り上がるはず! 8話の最後ではちょっと活躍した。よし。すべては坂口健太郎にかかっている! 重責だろうが、がんばれ。
(木俣冬)