現在も日曜夕方にテレビ放送が続く「サザエさん」は、誰もが知る国民的アニメだが、その『サザエさん』の原作漫画についての研究を発表した本があったのを覚えているだろうか?

1992年に飛鳥新社から刊行された『磯野家の謎 サザエさんに隠された69の驚き』は、180万部を超えるベストセラーを記録した。

フネは後妻? 磯野家の謎とは


「サザエさん」については、原作漫画とアニメ版とで様々な相違点も多いため、この本は“原作漫画”についての研究書という事で書かれている。
書いたのは、サザエさんの作者・長谷川町子の研究のために当時集まっていた教員、編集者、学生などで結成された「東京サザエさん学会」というグループによるもので、代表は慶応大学教授であった岩松研吉郎氏が務めていた。


その謎の多くはサザエさん一家にまつわる意外な事実というようなものが多く、「初期の磯野家は、いそべ家だった」、「実はフネが後妻説」、「サザエさんが結婚前に就いていた職業について」、「波平の所属するTTKという会」等々、様々な謎について本の中で解説している。

作者からの許諾は得られず


しかしながら、「サザエさん」の版権管理は他の漫画作品よりも厳しいためか、実は本の中で原作漫画やアニメのコマが一切掲載されていない。
後に刊行された、続編となる『磯野家の謎 おかわり』も前作同様に大ヒットしたのだが、作者からの許諾は得られなかったため、文中では「~巻 p.◯◯」のような脚注をつけられて説明されている。
さらに、1993年には「磯野家の謎」を映像化したビデオ版も販売されているが、これについても著作権者の許可を得られずに訴えられ、のちに絶版となっている。

謎本ブームと思わぬ対立


『磯野家の謎』の異例の大ヒットによって、次々と研究本のような「謎本」というジャンルの本が相次いで出版されることになった。人気マンガ作品である『ドラえもん』『ドラゴンボール』『ちびまる子ちゃん』や、人気のドラマなどの研究本も刊行され、一時は「謎本」ブームが過熱していた。

また『磯野家の謎』のブームとともにつくられた、ライターのゆうむはじめ氏が代表する「世田谷サザエさん研究会」は、「東京サザエさん学会」に対抗するように、『サザエさんの秘密』と続編『サザエさんの悲劇』(共にデータハウス) という本を出版する。

そのなかで「東京サザエさん学会」を痛烈に批判していたため、週刊誌上などでも両者の間でしばらく論争が続いていた時期もあった。

アニメや漫画などをネタに分析や研究をするのは、ネットが普及している現在では比較的容易になっている感がある。
しかし90年代当時、人気作品などをテーマに研究するには、かなりの作品への熱意と興味が必要だ。そして、明るく陽気な家族の代表でもある「サザエさん」の本当の姿を求めたいという欲求も原動力だったのなのかもしれない。
(空町餡子)

※イメージ画像はamazonより磯野家の謎