制作側が想定しているターゲットは、倉本聰&出演者たちと同年代の60〜80代くらいのシニア層なのだろうが、それよりもずっと年下の30〜40代くらいの人たち……現在のテレビドラマの主流である、ゴールデンタイムの若者向けドラマにはついていけず、NHKの朝ドラや大河ドラマあたりしか観るドラマがないと言っていた層が、こぞって『やすらぎの郷』に興味を示しているのだ。
とはいえ、普通に仕事をしている30〜40代は真っ昼間にドラマを観ているわけにもいかないので、土日あたりで毎週総集編を放送するようにしたら、さらに広い層をつかめそうな気がするのだが……(TVerでもいいけど)。
そんな『やすらぎの郷』第4週は、なかなか衝撃的な展開をたたみかけてきました!

90万円払えなくなった元スターの悲しみ
濃野佐志美なる謎の女流作家が、「やすらぎの郷」の創設者・加納英吉と、「姫」こと九条摂子(八千草薫)の過去を暴露するような内容の小説を出版しようとしているということで、濃野佐志美の正体・井深涼子(野際陽子)を説得して小説の発表をやめさせて欲しいと依頼された菊村栄(石坂浩二)。
脚本家を長年やってきた経験から学んだ、物書きとしての守らなきゃいけない鉄則を語って説得する菊村。
「100万人を感動させられても、ひとりを傷付けちゃいけないってことさ」
「テレビで絶対そんなもん出しちゃいけないって」
うん、その通り。その通りだとは思うんだけど、このドラマ『やすらぎの郷』の中で、元妻&元カノと共演させられたり、黒歴史となっている出演番組『開運!なんでも鑑定団』や『水戸黄門』のことをほじくり返されている石坂浩二は、どういう気持ちでこのセリフを演じたのだろうか。
倉本さん、アンタ、現在進行形で石坂浩二のこと傷付けてるよ!
とにかく、菊村の説得で小説の出版は差し止められることとなるのだが、続いて起こったのが、「お嬢」こと白川冴子(浅丘ルリ子)の誕生パーティー問題。
お嬢が、大スターとして現役バリバリだった頃から毎年開催している自身の誕生パーティー。かつては100人近く参加者がいたこともあったのに、今年は参加の連絡をくれたのが2人だけだという。
誕生パーティーの開催は中止したものの、会場であるホテルからキャンセル料・90万円を請求されてしまい、それを払う貯金もないのだ。
これまで、触れたら取って食われそうなまがまがしさを放っていたお嬢。浅丘ルリ子が現在、大河ドラマ『おんな城主 直虎』で演じている寿桂尼役の印象も相まって、怖い女イメージが強かったが、そんなお嬢が、
「このお酒、返す! 払うお金ないから」
などと落ち込みまくった、力ない演技をしているのが印象的で、何だかかわいらしく見えてしまった。
第1週で、女優・大原麗子の孤独死を思わせるようなセリフが登場していたり、テレビ業界に対するイヤミが何度も出てくるこのドラマだが、「役者たちの老後問題」「いいときはチヤホヤするけど、落ち目になったらメチャクチャ冷たい業界に何か言ってやりたい」というのは、倉本聰がこのドラマに込めたテーマのひとつなのではないだろうか。
逆に、年老いて落ち目となった役者たちを過剰に優しく受け入れてくれるのが老人ホーム「やすらぎの郷」なのだ。……もう、倉本聰が私財を投げ打って富良野に作ればいいのにな、そういう施設。
従業員の大半が前科者の老人ホームとは
その「やすらぎの郷」に関する、とんでもない情報も明かされた。
「やすらぎの郷」で働く男性従業員の大半が前科者であるらしいのだ。
かつてテレビの世界で活躍していたスターたちと、その世話をする前科者たち……ここに来て、すごい設定がぶち込まれてきましたねぇ。
実際に前科者ならではのスキル(?)で老人たちのピンチも救っている。
小田原の暴走族として有名だったというイケメン従業員・宮下一馬(平野有樹)は、老スターたちの現在の姿を盗撮したマスコミを捕まえて、ナイフを見せつけて脅し上げた挙げ句、カメラからSDカードを抜いちゃうわ、クルマのタイヤを刺しちゃうわ……。前科者というより、現役犯罪者じゃないの!
それを全部、半笑いで行うサイコパス感もヤバイ。
前々から気になっていたが、「やすらぎの郷」で暮らす老人たちが必要以上に人間臭さを放っているのに対して、そこで働く若者たちはみんなロボットっぽいのだ。
草刈民代も、常盤貴子も、松岡茉優も、すごく優しいしニコニコしているんだけど、そこにまったく心がこもっていない感じがして、老人たちを喜ばせるためだけに存在するロボットに見えてしまう。
これは、意図的にそういう演出をしているのか、老人たちのど迫力演技のせいでそう見えてしまうだけなのか……?
今後、サイコな前科者やロボット従業員が、老人たちとどんな絡み方をしてくるのかも楽しみなところだ。
誕生パーティーに来ないヤツは……呪う!
ところで、お嬢が払えなくなってしまった90万円はどうなったのか……誰かが貸してあげるのか、仕事を再開して稼ぐのか?
そのあたりを全部すっ飛ばして、老人たちが計画するのが「呪いの儀式」。
姫の若かりし頃。撮影所でこっそりと流行していたという儀式「ナスの呪い揚げ」をやって、誕生パーティーに参加しなかったヤツらを呪ってしまおうというのだ。
「おナスを揚げながら許せない相手の名前を叫ぶの」
「相手の人、翌日、いきなり飛ばされて、北海道に転勤になっちゃったりするの!」
すごい威力だけど……90万円問題は何にも解決していないじゃん! 呪ってどうする、呪って。
ちなみにこの「ナスの呪い揚げ」は、倉本聰自身が考案した呪いの儀式で、倉本のエッセイや舞台、ドラマなどにもしばしば登場している。プライベートでも、自身のドラマが批評家などに酷評されると、そいつの名前を叫びながらナスを揚げているんだとか……。何やってんすか、倉本さん!
本日から放送となる第5週で、この「ナスの呪い揚げ」が実行されるようなのだが、公式サイトに掲載されている予告文がまたヤバイ。
そうして迎えた誕生日当日。うってつけの雷鳴が轟く中、いよいよ陰惨な呪い揚げの儀式が始まる…。
何だこのドラマ……。メチャクチャ気になる。
第4週も話があっちゃこっちゃ行って、いまだにドラマがどこに向かっているのか分からなかったが、とにかく目が離せない!
倉本聰に勝てるのは中島丈博しかいない!
そうそう、先週の『週刊文春 5月4日・11日 ゴールデンウィーク特大号』に掲載された倉本聰インタビューが面白かったので、『やすらぎの郷』にハマッている人は絶対に読んでおくべきだろう。
・最初に企画を相談したのが浅丘ルリ子、加賀まりこだった。
・石坂浩二はタバコを吸わない。
・彼ら(役者たち)の短所を台本に書きました。
など、気になる情報がボンボン飛び出すインタビューなのだが、やはり注目してしまうのは、
「実は、最初にこの企画を持って行ったのはフジテレビなんです。でも一発で蹴られました」
ということ。
かつてNHK大河ドラマ『勝海舟』の現場でもめ、脚本を途中降板したことで、半ば業界を干されてしまった倉本。
東京から離れ、北海道の富良野に移住していた倉本を救ったのがフジテレビからの脚本依頼で、後の『北の国から』の誕生につながるわけだが、そのフジテレビが『やすらぎの郷』を蹴っていたとは……。
そもそも昼ドラマといえば、フジテレビが長年得意としてきた枠。『牡丹と薔薇』『真珠夫人』などのドロドロドラマで、主婦をはじめとする、比較的高年齢のターゲットをつかんでいたハズなのだが。
しかしフジテレビは2016年に昼ドラ枠を廃止して、生放送のバラエティ枠に変更してしまう。
その真裏でスタートしたライバル局の昼ドラ……しかも最初にフジテレビに持ち込まれた企画がヒットを飛ばしているというのは、現在のフジテレビのイキオイのなさを感じてしまって悲しい。
フジテレビがコレに対抗して昼ドラ枠を復活させ、『牡丹と薔薇』『真珠夫人』の中島丈博脚本の超ドロドロドラマを放送してくれたらメチャクチャ嬉しいのだが。
(イラストと文/北村ヂン)