昔、明石家さんまが、前妻・大竹しのぶのことを「日本のアニータ」と茶化していました。その様子をたまたまテレビで見たしのぶは怒り心頭。
さんまを呼び出し、詰め寄ったといいます。
大竹が怒るのも無理ありません。当時、「アニータ」という固有名詞は、日本国民の間で相当ネガティブなイメージで捉えられていたのですから。

世間に衝撃を与えた巨額横領事件


2001年12月17日。六本木の外国人バー前には、じっと待機する青森県警の刑事が一人。なぜはるばる東京までやってきたのかといえば、指名手配犯の身柄を抑えるためです。

バーから出てきた、お目当てのホシの名前は千田郁司。青森県住宅供給公社の元経理担当主幹を務めた男であり、1993年から2001年にかけて、約14億5900万円にも及ぶ資金を横領した張本人です。

青森市内の店でアニータと出会う


それにしても、14億5900万円とは、とんでもない額です。いったい、千田はこの巨額の資金を何に使っていたのかというと、大部分は外国人ホステスのいるクラブで散在したのだとか。

そうやって遊びまわっているうちに、やがて千田は青森市内の店で働くチリ人女性、アニータ・アルバラードと出会い、一目惚れをします。1997年、春のことでした。
その年の7月には、早くも結婚を済ましていたというから、その入れ込みようたるや凄まじいものだったのでしょう。

同居してわずか1年足らず……チリへ帰国


アニータが来日したのは19歳のとき。既に2人の子持ちだった彼女は、母国にわが子を残し、出稼ぎにきていたのです。
コツコツと日銭を得ていたアニータにとって、異常なほど金回りの良い千田からの求愛は、まさしく渡りに舟。

晴れて夫婦となったわけですが、アニータは結婚後、すぐに母国・チリへと帰国。千田と同居していた期間はわずか1年足らずだったといいます。

別居後の千田はといえば健気なもので、遠い南米の地へいる妻のために送金し続けたといいます。逮捕されたときに、彼の手元に残っていた金はわずか500万円。つまり、横領資金のほとんどを、アニータへ捧げていたというわけです。

正当性を主張していたアニータ


夫から送られた金を何に使ったのか?というFNSの直撃インタビューに対して、アニータは「お酒や食べ物、ダンスにも使ったわ」と告白。また、プール付きの大豪邸を現地に建てたりもしており、かなり豪奢な生活を送っていたようです。

こうしたアニータの強烈なキャラクターは、メディアで度々報道され、大きな話題となりました。
あるときなどは、「なんで、夫から受け取った金を返さないといけないの?」と、カメラの前で発言していたものです。
彼女に渡った金は、元をたどれば青森県民の税金。それを放蕩の末に使い込んだ挙句、一切悪びれることなく、正当性を主張するなんて……。怒りを通り越して、唖然とした人は多かったことでしょう。


チリでタレントデビュー、一躍時の人に


日本人にとっては、反感の対象でしかなかったアニータですが、チリにおいては「金満王国・日本のお偉方に一泡吹かせた」として英雄視する向きもあったようです。

その人気もあって、彼女は母国でタレントデビューを果たします。活動内容は実に多彩。チリのテレビ番組へ出演したり、『わたしはアニータ』という自伝を上梓したり(しかもチリ国内でベストセラー)、音楽CDアルバム『Anita La Geisha Chilena』(アニータ、チリ人ゲイシャ)を発売したり……。

さらに、勢いに乗じたアニータは、日本の雑誌『週刊ポスト』でヌード写真を袋とじで披露。
しかしこれが全く売れず、袋とじ未開封のまま大量の在庫となり、「史上最悪のヘアヌード」と揶揄されたりもしました。

14億円はどこへ消えた?


さて、肝心の14億円ですが、千田が所持していた高級腕時計などの私物と、アニータの豪邸を売却しても回収金は約7300万円程度。公社側が支払った訴訟費用やチリへの渡航費などを差し引くと、実質760万円余りしか残らなかったといいます。

あれだけあった巨額の資金は、いったい、どこへ消えたのか……。アニータの強烈なキャラクターばかりがメディアで取り上げられ、あまり追及されなかった「金の行方」。謎は深まるばかりですが、真相は果たして……。
(こじへい)
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