
一点ものの仮面が200点以上
東京スカイツリーにほど近い、下町人情キラキラ橘商店街。昔ながらの下町の商店街のゲートをくぐってすぐ。佃煮屋さんの向かいに日常にうがった穴のように、異界感たっぷりに「仮面屋おもて」はある。
入り口は茶室のにじり口のようになっていて、身体をかがめて入らなければならない。壁一面にマスクの並んだ特異な店内に、異世界の案内人のようなたたずまいでスーツ姿の「仮面屋おもて」店主・大川原さんが立っていた。

―― 仮面の専門店をはじめたきっかけは?
(大川原さん)もともとは舞台の舞踏家です。俳優の演技のトレーニング法に仮面を使って違う人になりきるものがあるのですが、それが仮面との出会いでしょうか。仮面を使ったワークショップを開いていたところ、美術系の仮面の作家さんと出会いまして、それをきっかけに仮面の販売を始めました。
事業を始めたのが4年前、ここに店舗を構えたのが昨年の4月28日なので、ちょうど一年になります。

―― どういった仮面(マスク)を扱っているのですか?
入れ替わりもありますが、常時200点ほどのマスクを置いています。ほぼすべて作家さんの作った一点ものになります。ここに置いてないものも相談を受ければ、作家さんを紹介してオーダーメイドで製作しています。

常識を揺さぶるマスクの数々
マスクの種類は、伝統的なモチーフにインスピレーションを受けたものから近未来的なもの、アニメ風サブカルチャー的なものまでさまざま。価格的にも、下は夜店で売っているプラスチック製500円のお面から、上は10万円を超えるものまである。オーダーメイドで製作する場合は、100万円を超えるものあるという。


―― 変わったマスクもたくさんありますね。
仮面と一口に言っても、幅広くいろいろなものがあります。顔全体を覆うもの、仮面舞踏会のように目元だけ隠すもの、口元だけ隠すもの。風邪をひいたときに着けるのも「マスク」ですし、溶接で頭部を守るためのマスクもあります。
演劇の世界ではマスクをとても広い意味でとらえています。たとえば、役者さんが普通の布を一枚使って、それをマスクとして舞台で演じることもあります。アフリカに行くと、家自体がひとつのマスクになっている、という地域もあります。
当店にも「お尻につけるマスク」があります。これを着けて四つん這いになれば、牛に変身できるわけです。



生活の場に生まれた非日常空間
―― (運営する上での)悩みなどはありますか?
このお店にはエアコンが無いんです。もちろん仮面の方は痛まないように十分配慮していますが、人間はとても暑いです。
コツコツ貯金をしていたのですが、欲しいメディアアートの作品があったので、そっちに使ったら無くなってしまいました。なので、今はエアコンのための募金も始めました。他人のお金だったら使い込みできませんからね。


―― どうしてこちらにお店を構えようと思ったのでしょう?
特別この場所にこだわりがあったわけではないので、ご縁ですね。でも、銀座や表参道は違うかな、というのはありました。
こういう生活の場に特殊な店があるというのは、とてもおもしろいと思っています。駅前から少し離れていますが、がんばっている商店街なので、一緒に盛り上げていけたらいいですね。


仮面がフラットなコミュニティをつくりだす
―― これからの展望は?
仮面は一般の人でも、飾って楽しむ人、着けて楽しむ人がいますし、アーティストなどクリエイティブな仕事の人も集まってきます。
最近は、出版社の方にイラストレーターを紹介したこともありますし、なぜか不動産の物件探しを手伝ったこともあります。こういう現象は、ウェブだけではできない実店舗を構えているから起こりえることでしょう。そうした状況を楽しんでいきたいと思っています。


さまざまな楽しみ方を叶えるのが仮面の持つ魔力。そして、「仮面のお店」とそれが作る人の輪も、じわじわと広がっているようだった。凝り固まった常識をとろけさせる仮面の不思議な魅力にあてられて、すがすがしい高揚感とともに帰路についた。
(山根大地/イベニア)