友人からそう問われたのは2006年、私が大学1年生のとき。インターネットに疎く、当時、家にPCすらなかった私には、それが何のことか分かりませんでした。
「いろいろな映像をタダで見られるWEBのサイト」だと聞くに及び、大学のパソコン室で検索。なんて便利なものができたんだ! 新しいテクノロジーの出現に大喜びしたものです。
11年前……黎明期のYouTubeが騒動の舞台に
あれから11年……。
今ではすっかり、日本人にとって生活の一部と化しているYouTube。もともとは米PayPal社の従業員3人が2005年2月に作り上げたこのサービスは、投資会社からの出資を受けて同年12月に事業化。その後瞬く間に、世界規模での広がりを見せ、日本で流行り始めたのが2006年上旬頃。
本稿で紹介する騒動は、まさにこの黎明期のYouTubeを舞台に起こった出来事でした。
現在はネット配信に前向きなNHK、しかし昔は……
NHKは熱心、民放は及び腰 「TV番組ネット同時配信」
去年の11月、ネットのニュースで、こんな見出しの記事が踊りました。なんでも、総務省が推進したい「テレビ番組のインターネット同時配信」について、NHKと民放では温度差があるというのです。
この変革にあたって、どちらも既存のビジネスモデルが揺らぐという点では同じ。特にキー局の人気番組にかかる広告収入を頼みにしている民放地方局にとっては、経営の根幹が崩れかねないため、ことさら深刻な問題なようです。
そういった事情の違いはあるにせよ、NHKが自局のネット同時配信に前向きだなんて、11年前、「スプーのえかきうた騒動」のときには考えられないことでした。
うたのおねえさん・はいだしょうこの描いた「スプーの絵」が波紋を呼ぶ
騒動の発端となったのは、2006年4月28日。NHK教育テレビの『おかあさんといっしょ』内の「やぎさんゆうびん」のコーナーにおいてです。
このとき、うたのおねえさん・はいだしょうこが、番組のマスコットキャラクター「スプー」をえかきうたで描いたのですが、その完成した絵の異形っぷりに視聴者がザワついたのです。
その禍々しいビジュアルをリアルタイムで見ていた子供たちの中には、泣き出してしまった子さえいたそうです。
今井はえかきうたが終わって、はいだ作のスプーに目をやった際、思わず苦笑。「しょうこおねえさん…上手ですねー!」と、おそらく台本通りと思しきセリフを口にしたものの、どうしても笑いがこらえきれません。
それに対して「頑張りました~」と、はいだが間の抜けた返しをしたものだから、現場はさらに異様なムードとなっていました。
動画UP⇒削除のイタチゴッコが繰り広げられる
この画伯・はいだの描いたスプー及び、一連の流れを面白がった視聴者によって、2006年5月上旬、YouTubeにて動画が違法アップロードされます。これに対してNHKは6月上旬、「当協会の著作権を侵害している」などとして、YouTubeに動画の削除を依頼。
しかし、他のユーザーが再び動画をUPし、以降は削除依頼⇒UPのイタチゴッコをくり返したのです。
こうした騒ぎもあって、この「はいだ版スプー」は、さらに人気を集め、素人が製作したスプーの画像、Flash動画などが、次々とネット上で公開される事態へと発展。
極め付けは、「Yahoo! オークション」で非公式フィギュアが出品された一幕。出品開始から入札が相次ぎ、最終的にはなんと、7億円の値がついたのです(もちろんイタズラ入札)。こうした狂乱のスプー騒動は、2006年の初冬ごろまで続いたのでした。
当時はまだ、違法アップロードに関しての法規制も確立されておらず、まして、今のようにテレビ局とYouTubeの提携など検討もされていなかった時代。だからこそ、NHKとユーザーの削除&UP合戦が発生したのであり、そのイザコザもあって、このスプーの「祭り化」は加速したのではないでしょうか。
いずれにしても、YouTube黎明期ならではの現象として「スプーのえかきうた騒動」は、これからも記憶され続けていくことでしょう。
(こじへい)
※イメージ画像はamazonよりNHKおかあさんといっしょ 最新ベスト おしりフリフリ