テレビ不況が叫ばれる現在においても、「話題作」と呼ばれるドラマは、ちらほらと生まれています。
では、「問題作」はどうでしょうか? ここ最近、世間で賛否両論を巻き起こしたり、スポンサーがさじを投げたり、視聴者からのクレームが殺到したりするような過激なドラマは、ほとんどつくられていません。


唯一挙げるとするならば、2014年に放送された『明日、ママがいない』(日本テレビ系)くらいなものでしょうか。児童養護施設を舞台に、芦田愛菜演じる赤ちゃんポストに預けられた経緯を持つ少女「ポスト」を主人公としたドラマは、病院・児童福祉の関係者から猛烈な抗議を受け、ついには国会の場で議論されたりもしました。

倫理からの逸脱にうるさい今のテレビ業界において、いったい誰がこんな論争を巻き起こすのが分かりきっているドラマをつくったのか……。
そう思い、制作クレジットの「脚本監修:野島伸司」を見て、妙に納得した人は多かったはずです。

問題作を多数生み出した、90年代の野島伸司


野島伸司といえば、これまで数多くの問題作を手掛けてきたドラマ脚本家として有名。
さすがに50歳を超えた今は、執筆ペースが鈍化しているものの、90年代は『高校教師』、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』、『家なき子』(野島は企画として参加)などを手掛け、社会現象を巻き起こしてきたものです。

そんな野島作品の中でも、特に世間へ大きな衝撃を与えたのが、1998年にTBSで放送された『聖者の行進』でした。


実在の知的障害者に対する暴行・強姦事件をモチーフしていた


健常者側の身勝手な動機で、障害者が傷つけられる事件というのは、一向に後を絶ちません。厚労省の調べによると、平成27年度に家庭・施設・職場で虐待を受けた障害者は3154人(前年度比451人増)に上り、そのうちの970人が、職場の雇用主・上司から虐待を受けていたのだとか(前年度比487人増)。
いずれも被害者の多くが、知的障碍者なのだそうです。

『聖者の行進』は、「水戸事件」という、実在の職場雇用主が行った知的障害者に対する暴行・強姦事件をモチーフにしたドラマでした。
ドラマの舞台は、知的障害者が働くパン工場。そこで奴隷のように虐げられる、純粋で心優しい知的障害者の青年・永遠(いしだ壱成)とその仲間たちが、さまざまな人の助けを受けながら、希望を見出していく物語となっています。

「暴力シーンを肯定できない」としてスポンサーが降板


酒井法子、広末涼子、安藤政信、いかりや長介など、豪華キャストによる共演が話題となった同作でしたが、引用元の事件が事件なだけに、目を背けたくなるようなシーンの連続でした。

中でも強烈だったのが、知的障碍者の一人・妙子(雛形あきこ)が、コスプレさせられた挙句に、レイプされるシーン。
その他にも過激な暴力描写が相次いだために、視聴者からの批判が殺到。
ついには、スポンサーの三共(現・第一三共ヘルスケア)が「薬で暴力を肯定出来ない」の理由で、提供を降りる事態へと発展したのでした。

「子供に見せたくない番組」に選ばれていた野島ドラマ


『聖者の行進』以外にも、こうした作中における暴力描写の多さゆえに、野島ドラマは一時期、日本PTA全国協議会のアンケートによる「子供に見せたくない番組」ワーストランキングの上位に食い込むことも少なくなかったといいます。

たしかに、90年代に放送された野島ドラマの多くが実にヘビーで、とても気軽に見られたものではありませんでした。実際、『聖者の行進』も、虐待やいじめを受けるいしだ壱成をはじめとした知的障害者たちが、ひどくかわいそうに見えたものです。

しかし、そういった社会的弱者や不条理な差別によって社会の被害者となりうる人たちの気持ちに寄り添い、視聴者にさまざまな問題意識を喚起させるドラマ作品こそ、今のテレビ、いや、今の世の中に必要なのかも知れません。

(こじへい)

※イメージ画像はamazonより聖者の行進 DVD-BOX