いよいよ終盤にさしかかってきた高田郁原作の土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。江戸の小料理屋を舞台に、料理に賭ける天涯孤独の少女の姿を描いた物語だ。
全8話。
人情料理時代劇「みをつくし料理帖」6話。萩原聖人の重いパンチがうなった

吉原の遊郭で刃傷沙汰! これ本当に夕方6時のドラマ?


いよいよ今週も含めてあと2回ということで、どんどん空気が濃密になっている感じがする。先週放送の第6話は、なんと吉原の遊郭での刃傷沙汰からスタート! 花魁たちの悲鳴が響き、刃物がきらめき、血がしたたり落ちる! これって本当に夕方6時5分から放送されてるグルメ時代劇? 

若い花魁をかばって、あさひ太夫(成海璃子)がケガを負う。あさひ太夫を大切に思う遊郭の料理人・又次(萩原聖人)は、彼女を元気づけようと澪(黒木華)のもとにやってきた。床に伏すあさひ太夫のために、梅の蜜煮を作ってもらいに来たのだ。

今回はこの又次が大活躍する。少し以前よりふっくらした印象の萩原聖人だが、ヤバいところをくぐり抜けた感は役者の中でもピカ一。様々な過去を背負った遊郭の料理人という役柄にぴったり合っている。ヤバさだけでなく、一途に女性を思うスイートさを併せ持っているところも稀有。遊郭の暴漢を取り押さえて首をへし折ろうとする凶暴さと、目を覚ましたあさひ太夫を見つめる表情のギャップときたら!

澪には疑問があった。かつて大坂の名店・天満一兆庵で働き、「つる家」にやってきた料理人・富三(大倉孝二)の作った料理を客が残してしまうのだ。その謎も又次が一瞬で解き明かす。

「こいつぁ手入れの悪い包丁で作った味だ」

富三の包丁は切れ味も悪く、臭い移りもあった。
そんな包丁で作った料理は気持ちの悪い味になる。包丁は料理人にとって一番大事な道具。又次は「ろくなもんじゃねぇ」と切り捨てる。

富三はご寮さん(安田成美)に近寄り、吉原の花魁を手にかけて失踪したというご寮さんの一人息子、佐兵衛(柳下大)の行く先を探りたければ、大金が必要だと持ちかける。富三を信用したご寮さんは、一人息子の行方を案じるあまり、珊瑚のかんざしを渡してしまう。しかし、この富三がとんだ食わせ物で、息をするように嘘をつく。かんざしはさっさと売り飛ばして酒を飲み、それでも佐兵衛を探しているのだと嘘を重ねる男だ。

包丁の件もあり、富三の正体を直感で見抜いた澪はかんざしを返せと迫るが、男の力にはかなわない。そこへやってきたのが又次! 経験と勘で富三の嘘をたちどころに暴いてしまう。佐兵衛は花魁を殺していなかった! 

さらに逃げようとした富三を捕まえてボッコボコに。萩原聖人のパンチが重い! 口から血を流す大倉孝二! 夕方6時なのに! ご寮さんが止めて、富三は逃げてしまうのだが、佐兵衛が「釣り忍売り」なっているところを見たと捨て台詞を残していった。

「釣り忍」とは、竹などを芯にしてシノブ(シダの一種)を巻きつけて様々な形に仕立てたもの。
夏に玄関などにぶら下げて涼味を味わう。「つりしのぶ」と読むらしいが、ドラマの中では「つりにん」と呼ばれていた。どっちが正しいんだろう?

土用の丑の日に食べたい澪の「『う』尽くし」


もともと高田郁の原作自体が濃密で、いつも料理はほこほこと美味しそうなのに、やけに読み手の感情を揺さぶる物語なのだが、脚本の藤本有紀の作品も一見のどかなように見えてかなり視聴者の涙腺を刺激してくる(コメディータッチの『ちりとてちん』も泣けて仕方がなかった)。両者の相性は非常に良いのだ。

今回のエピソードは2つの「会いたい」という強い気持ちが交錯していた。ご寮さんは一人息子の佐兵衛に会いたいと強く願っている。そして、もう一つ、澪はあさひ太夫……生き別れた幼馴染の野江に会いたいと強く願う。2つの願いがかなうのかどうかが、残り2話の見どころになるだろう。

さて、『みをつくし料理帖』は重いばかりではない。まずは今週の美味しい料理。土用の丑の日も近いということで、「『う』尽くし」が登場する。江戸時代、土用の丑の日には「丑」にちなんで「う」のつく料理を食べる風習があったとのこと。


酢でしめた鯵を卯の花で和えた「卯の花和え」
種を取って叩いた梅干しを挟み、鰹節をまぶして油で揚げた「梅土佐豆腐」
汁の椀によそった「瓜の葛ひき」
飯の中に土用蜆と生姜、塩出しした沢庵を埋めた「埋め飯(うずめめし)」
そして「梅の蜜煮」

値の張る食材を使わず、旬のものを取り入れ、手間暇かけて美味しく仕上げた澪の自信作だ。うーん、食べてみたい。まぁ、肉ばかり食べている人には物足りないかもしれないけど……。

又次のことばかり書いたが、2人の男も黙ってはいない。小松原こと土圭(時計)の間の小野寺(森山未來)は同僚で味音痴の弥三郎(波岡一喜)と軽口を叩き合う。小野寺の妹で弥三郎の妻の早帆(佐藤めぐみ)はかなり料理下手なようで……。しかし、そんな妻の料理を「絶品!」とニコニコ食べる弥三郎は幸せそうだ。

もう一人の男、町医者の永田源斉(永山絢斗)は、小松原の正体と小松原と距離の近い澪のことが気になる様子。3人の関係も見逃せないポイントになりそうだ。

第7話「ふっくら鱧(はも)の葛叩き」は今夕6時5分から。また美味しそうなタイトルだこと。

(大山くまお)
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