老女たちが海でスッポンポンになって泳いだり、「やすらぎの郷」に若手人気俳優の「シノ」こと四宮道弘(向井理)がやって来ると聞きいて狂喜乱舞したりと、なかなかにアッパーな展開だった第12週。
「やすらぎの郷」第13週。やっと来た向井理がつかみどころなさすぎ、お前は何しに来たんだ
イラスト/北村ヂン

『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第13週は、引き続きシノがやって来る問題に振り回される老人たち。


「爪」で戦争をリアルに感じさせられた


大ファンだったシノに会えるということでテンションが上がりまくっている「姫」こと九条摂子(八千草薫)は、真夜中に菊村栄(石坂浩二)の部屋を訪れ、シノと会った時に緊張しないように、菊村をシノ役にしてリハーサルをすることに。

やたらと興奮したり、乙女の顔をしたり、相変わらず姫はかわいらしいが、本筋とは関係ない話が続くいうことで、映像がキュルキュルと早送り……最近ではなかなかお目にかからない、ビデオテープのアレね。

そんなオモシロ演出もはさみこまれて、今週もほっこりコメディ回なのかと思いきや、唐突にハードな戦争話がぶっ込まれた。

姫がここまでシノに夢中になっている理由は、初恋の相手だった千坂浩二監督にどこか似ている感じがするから。

テレビではじめてシノを見た時、指の爪のアップを見て、そのそっくり度合いに「(千坂監督の)生まれ変わりだと思わない?」とまで考えているらしい。爪に似ているもクソもあるのかとは思うが、そこには深い理由があったのだ。

出征する前日、千坂監督の爪を切ってあげた姫は、その爪を集めてとってあり、監督が戦死したという報せを聞いたときに、泣きながら爪をちょっと食べてしまったのだという。

普通だったらここで監督の戦死シーンなんかを入れたくなっちゃうところだが、淡々とした姫の語りだけで進行することによって、むしろ凄みを増していた。

かわいいおばあちゃんの口から語られるヘビーな思い出。「爪」というアイテムのリアルさも相まって、戦時中の重い空気をじんわりと実感させられた。やはり、このあたりの塩梅はさすがです。

菊村はいつ脚本を書くのだ!


そんな姫を傷付けやしないかと心配な、国営テレビで放送予定のドラマ脚本・第一稿も完成したようだ。

翌日出撃する特攻隊員の元へ慰問に行った姫が、一緒に食事をしたトラウマ的な思い出を下敷きにした、『最後の晩餐』という直球なタイトル。

書いたのは、売れっ子でそこそこ筆力はある、視聴率を稼ぐ力はなかなかのものだが、軽くて哲学がない……という三浦春樹なる脚本家。


「若くて戦時中のことは知りません。そのくせ保守的な発言をするので、体制派からはかわいがられています」

久々に業界ディスが飛び出したが、この三浦春樹ってやっぱり……脚本家じゃないけど、百田尚樹のことですかね? そういえば、ドラマ版の『永遠の0』では向井理が主演していたし……。

それはいいけど、ヒロイン役の、テレビ小説で名前を売った、かわいいけど演技は大根な女優・松倉レナって、能年玲奈(のん)ちゃんのことじゃないだろうな、倉本聰!? 大根じゃないだろう、大根じゃ!

閑話休題。

この百田……じゃなかった、三浦春樹の書いた脚本は、姫の体験を表層だけなぞった「ちょっとどうかと思うような」メロドラマになってしまっているようだ。

「あの時代に生きた若者たちの、切羽詰まったどうしようもない感情から、まったくかけ離れた絵空事のお話しだ」

泣きながら爪を食べたという、姫の話を聞いたばかりの菊村は当然憤慨。怒りのような、悲しみのような感情が突き上げてきて、

「今のホン屋は人を書くことより、スジが大事だと勘違いしているからな」
「こういうドラマは無礼だと思うんだ」

などと全否定。

こうなると、「もう菊村センセーが書いて、ヌルイ脚本家に鉄槌を喰らわせてくれよーッ!」と、どうしても期待してしまう。ドラマ的にも「だったらオレが書く!」的な展開になるのが自然だと思うのだが……書かないねぇ、栄ちゃん。

『やすらぎの郷』とは、亡き妻の認知症介護もあって脚本を書くのをやめてしまった菊村が、再びペンを執るまでのドラマ……と踏んでいるのだが、今後、これ以上に脚本を書きたくなるようなシチュエーションって出てくるのだろうか。

何しに来たんだ、シノ


そして、いよいよ「やすらぎの郷」にやってきたシノですが……若干、コイツ何しに来たんだ感、ありましたね。

姫を傷付けるような質問をしちゃうんじゃないか? 老女たちがフィーバーし過ぎて頭おかしくなっちゃうんじゃないか? ……などなど、不安材料がいっぱいあったシノの襲来だったけど、みんな意外と冷静だし、シノは全然しゃべらないし、少々肩すかし。

そして、一緒にやってきた国営テレビのプロデューサーが事前に「四宮くんは無神経な男じゃありません」と語っていたわりに、結構無神経な人だった。

菊村をはじめ、お嬢(浅丘ルリ子)やマヤ(加賀まりこ)のことを、面と向かって「知らない」と言っちゃったり、隣にテレビ局のプロデューサーがいるのに「(テレビの)仕事は好きです。
しかしテレビ業界の人間はあんまり好きになれません」と言ってのけたり(これは倉本聰のテレビ業界ディスの一環なのだとは思うが)。

さらに、敬愛する秀サン(藤竜也)が「やすらぎの郷」にいるとがいると知ったとたん、取材対応してくれている姫たちを置いて出て行っちゃう無神経っぷり。

秀サンに会ったら会ったで、さっきまで「何か心に深刻な問題を抱えているの?」と心配になるくらいしゃべらなかった男が、いきなりマシンガントークを開始。

オタクが、アイドルとの握手会でここぞとばかりにしゃべりまくろうとしたものの、普段しゃべり慣れていないので言葉が上手く続かなくてぎこちない……的な演技はさすがのクオリティだったが、ホントに何しに来たの、コイツ状態だ(姫へ取材しに来たんじゃないのか!?)。

倉本聰的に、こういうのが「つかみ所のない最近の若者」像という認識なのだろうか?

ちなみにマシンガントークするシノは、秀サンから「男は一生に、二言もしゃべれば充分です」と苦言を受けていたが、秀サン自身もシワの話になるとだいぶ饒舌になってたよね。

ドラマに小ネタを仕込むのなんてオレでもできるもんね


ドリフのカミナリ様コントを彷彿とさせる、老人3人の磯釣りトークコーナー(?)は今週もありました。

相変わらず不自然に合成されている背景に、新しいアングルからの映像が取り入れられていたけど、やっぱり違和感アリアリ。そしてトーク内容もますますユルーイ内容でした。

お題は昔話。

まずは、桃太郎の「大きな桃」はどんな音で流れてきていたか問題。「ドンブラコ、ドンブラコ」なのか「ドンブラコッコ、ドンブラコ」なのか「ドンブラコッコ、スッコッコ」なのか? さらには、浦島太郎が乙姫様とやったのやらないのという下ネタに……。

何の話をしているのだ、このおじいちゃんたちは……という思ってしまうが、

「こういうバカな話をしながら、私たちは死までの時間を潰していた」

と言われちゃうと、ぐうの音も出ない。死までの時間つぶししている人のトークに、脈絡も内容も必要ないもんな。


そして、「やすらぎ体操」アコースティック・ギター・バージョンも披露されましたね。

演奏していたのは、コメディーバンド・ファンキー・ドッグ(クレイジーキャッツがモチーフか?)の生き残り・中井竜介(中村龍史)。ドラマ中では初登場のハズの中井竜介という名前、どこかで見覚えが……と思ったら、「やすらぎ体操」が流れるときに「ピアノ演奏 及川しのぶ」とともにいつも「作詞・作曲・振付 中井竜介」としてクレジットされていた人だ。

中井竜介役の中村龍史は、劇団四季出身の振付師。東京パフォーマンスドールやマッスルミュージカルの振付などを手がけていた人なので、リアルに「やすらぎの郷」はこの人が作ったんでしょうな。

そして「やすらぎ体操」をする老人たちの前を、車椅子に乗った倉本聰が、中島みゆきに押されて横切っていたのには爆笑させられてしまった。

これまでも伊吹吾郎や倉田保昭といった有名俳優が隠れキャラ的にチョロッと見切れていたりしていたが、ご本人(倉本聰)まで登場してしまうとは……(気づかなかっただけで、もしかして今までも出てた?)。

凄みのある戦争話から、浦島×乙姫下ネタ、脚本家の顔出し……などなど、硬軟がいいバランスで入り乱れて展開してく『やすらぎの郷』。このバランス感覚が、長いドラマを飽きずに見てしまう要因のひとつとなっているのだろう。

宮藤官九郎あたりが得意とする、「ドラマにチョイチョイ仕込まれる小ネタ」なんて、オレだって出来るんだぞ! という倉本聰の自己主張も感じなくはないが。

ナスの呪い上げアゲインに期待


さて、いくらなんでも何のために出てきたのか分からなすぎたシノ。第14週も引き続き、登場するんでしょ?

……と思いきや、予告編によると「ナスの呪い揚げ」が再び登場して、濃野佐志美こと井深涼子(野際陽子)の身に何かが起こってしまうようだ!?

事前に撮影しているドラマだというのは重々分かってはいるが、野際陽子の訃報のタイミングと、ナスの呪い揚げエピソードがかぶらなくってホントーによかったですね。

(イラストと文/北村ヂン)
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