「スマダン」読者のみなさんこんにちは。

「男性のためのメンタルヘルス・ケア」をテーマにした連載、【メンヘラ.men's】、第6回のテーマは「婚活」です。


20~30代くらいの男性にとって、婚活というのはもちろん気にかかっているテーマだと思います。

しかし、なんだかんだ言って「結婚に焦っているのは女性」「男はまだまだ余裕」みたいな気持ちも、抱いてはいませんか?

女性が出産可能年齢や経済的問題から婚活に強い関心を抱いている半面、男性側の婚活への意識はそれほど高いとは言えません。女性側のような「焦る理由」が男性にあまり存在しないのがその一因でしょう。

しかし、男性にとってもやはり結婚というのは大切なものなのです。本稿では「男の孤独」という視点から、男性にとっての婚活の意義を改めて問いなおします。

なぜ男性にこそ婚活が必要なのか 孤独死を防ぐ「保険」としての家庭【メンヘラ.men's】


男たちの孤独 「孤独死」を遂げているのは圧倒的に男性


「男の孤独」と言えばなんだかハードボイルドでカッコいい雰囲気が出てしまいますが、現実は途方もなくやるせないものです。葉巻を燻らせながらバーボンを飲む私立探偵のような「男の孤独」は滅多に存在しません。
現実の孤独は、厳しく、みっともなく、つらく、寂しいものです。

ひとつの資料をお見せしましょう。東京都監察医務院による「孤独死」の統計資料です。東京23区における世代別、年齢別の「孤独死」の数を記録したものなのですが、これがなんともやるせない。

なぜ男性にこそ婚活が必要なのか 孤独死を防ぐ「保険」としての家庭【メンヘラ.men's】
東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(平成28年)より

図を見れば一目瞭然なように、10~70代において、「孤独死」を遂げているのは圧倒的に男性なのです。2016年の統計によると男性3190人、女性1414人と、だいたい孤独死総数の7割が男性です。
多くの男たちが、孤独にひとり死んでいく。
グラフでは80歳以降、男性と女性の孤独死数が逆転しますが、これは女性の平均寿命が男性より数年長いために、夫と死別した女性の孤独死が急激に顕在化するためです。死後発見されるまでに1週間より長く日数が経過した割合が、男性36.7%、女性20.7%というデータもあります。

つまり同じ「孤独死」でも、男女の違いがある。

「男性の孤独死」は本当に孤独な、家族にも友人にも地域社会との繋がりにも長年恵まれないまま死んでいった男たちの数と考えるのが妥当です。まだまだ身体も元気に動く60代、70代に死亡数が集中していることからもそれが伺えます。


一方で「女性の孤独死」は、長年連れ添った配偶者をなくし、80歳も過ぎ身体の各所を悪くし認知機能も衰え、生涯最期の数年間だけ孤独に過ごした方…というような方もかなりの数が入っているわけです。

80歳以上の高齢女性における「孤独」は、ほとんどが健康上の理由による孤独です。外に出歩く体力がない、認知症、老年期うつなど。どうしても80を過ぎれば人間家に閉じこもりがちになります。

一方で、男性はまだまだ働き盛りといえる50代から急激に孤独死数が上昇しているのです。ここからも、「男性の孤独死」は「女性の孤独死」と数ばかりでなく、質的にも異なることが推測できます。
「男の孤独」は「孤独死の7割は男性」という言葉以上に、深刻なのです。


「会社」に縛られる男たち


なぜ男女で「孤独」に陥るひとにこれほどの差異があるのでしょう。

まずひとつ目の理由として、男性は基本的に会社組織にずっと属し続ける必要があるという理由があります。メンヘラ.men's第3回でご紹介したとおり、独身時も、婚姻後の生活においても、男性は「稼ぎ手」としての役割を強く求められます。

つまり、男は会社に属し続ける必要があるし、そこから逃げることができない。「会社」という唯一のコミュニティに強く依存しなければならないのです。

当然地域社会や、趣味・ボランティア活動などの「他のコミュニティ」との繋がりは薄れざるを得ません。
「会社」というひとつのコミュニティに全面的に依存することになるのです。

これが例えば専業主婦なら、地域社会、子供の学校関連、子供の習い事関連…とさまざまなコミュニティと接し、いろいろな人間関係を育むことが可能になります。それが地域の人間との繋がりを強化し、孤独を解消する助けになる。

反面、男性の場合は、属するコミュニティの選択肢は実質的に「会社」ひとつしかありません。もちろん現役の間ならその唯一のコミュニティである「会社」の中で濃厚な人間関係を築くことは可能です。しかし、会社には「定年」がある。
ずっと属し続けられるコミュニティではないのです。

上の図の孤独死数は定年年齢である65歳から大きな急カーブを描いているのは、決して偶然ではないでしょう。唯一のコミュニティであった「会社」という居場所を失った男たちは、ある日突然、絶対の孤独に陥るはめになるのです。

「家族」という居場所


男は稼がなければならない(少なくともそのように社会的に要請されている)。

故に、男は「会社」に縛られる。

故に、男は豊富なコミュニティとの接触を持つことが難しい。

以上、男性が孤独に陥るメカニズムを簡単に説明するならこうなります。

もちろん男女でのコミュニケーション作法の差や、女性の共感能力の高さ、コミュニケーションを重視する女性の傾向など他の要因もいろいろあるわけですが、性差ではなくライフスタイルの面から「男性の孤独」を考えると、このような結論に至るであろうと思います。

さて、では男たちが孤独から逃れるにはどうするれば良いのか。

ひとつの選択肢があります。それは「家庭」です。「家庭」というコミュニティは、「会社」に属しつつも並行して所属できる、ほとんど唯一のコミュニティです。そのコミュニティを豊かで心地よいものにするよう努力すれば、所属先の喪失という多くの高齢男性が直面している危機に対処できる可能性があります。

婚活適齢期である20代30代で、高齢になったときの「孤独」をリアルに想像するのは難しいでしょう。しかしそれは厳然たる、そしてリアルなリスクとして存在しており、実際に多くの男性が「孤独」によって苦しみ、病み、死んでいっているのです。

昨今、結婚を考えるとき、多くの若者が「コスパ」という言葉を使います。「結婚はコスパが悪い」「コスパを考えると結婚はできない」そんな論調です。

しかし、自分は思います。

結婚とは「コストを払ってリターンを得るための投資」ではないと。「コストを払うことでリスクを回避するための保険」としての側面の方が、結婚にはより大きいのではないか。

確かに「結婚生活を楽しむ」という観点から考えれば、現在の婚姻契約は明らかにコスパが悪いといえます。結婚するのに必要なだけの金を使えば、もっと楽しむことはできる。

しかし「孤立と孤独を回避するための共同体作り」という保険的な観点から考えれば、結婚という選択も悪くない。自分はそう思います。

「引退後の孤独」という観点から婚活を見直してみることは、ライフプランを考える上で多くの男性にとって有益なのではないでしょうか。みなさまが人生設計を考える上で、多少なりとも参考になれば幸いです。
(小山晃弘)

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