仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】
画像はVALU公式サイトのスクリーンショット

6月初旬ごろから「VALU」というサービスがTwitterをはじめとする一部のSNSで盛り上がりを見せていること、みなさんご存知でしょうか。

このVALUとは「個人の仮想株式会社化」を謳うサービスで、ユーザーは自分の社会的信用を背景とした仮想株式「VALU」を発行し、それを自由に売買することができます。


その「VALU」は、初期においてはインターネット上の社会的信用、つまりはTwitterやインスタグラムのフォロワー数などによってVALU運営から評価額が決定され、ビットコインに紐づいて決算されます。しかし、VALUはもちろん「仮想株式」で「自由に取引可能」なので、株価のように値段が上がったり下がったりする。そこにマネーゲーム的な面白さと、「社会的信用の先買い」のような要素が生まれてくるわけです。
仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】
画像はイメージ

……さて、VALUの簡単な概要を説明しましたが、どうでしょう。読者のみなさん、理解できますか?

ご安心ください。法律上の問題はありませんが、これは色々狂った仕組みなので理解できないのが当たり前です


というわけで今回のメンヘラ.men'sは「VALUに見るネット有名人たちの『承認とカネ』」と題し、VALUというシステムと、それを食い物にするネット有名人について切り込んでいこうと思います。


VALUは株? 株じゃない?


VALUを表す際、よく「模擬株式」だとか「個人の株式会社化」という言葉が使われます。

それではVALUは株式なのでしょうか。それを知るためには、そもそも「株式とはなんぞや」ということを知らねばなりません。

株式とは一言で言うなら、株式とは「企業が経済活動をするために発行するチケット」です。

漁師「俺は目の前の湖から魚を獲ってそれを売る会社を作りたい!そのためには船とか必要だから金が欲しい! 俺の事業計画に賛同するやつはこの『正直水産』の株券を100万円で買ってくれ!」
株主「こいつ魚採るの上手いし儲かりそうやな。その株、買ったるわ」

このように、企業が経済活動(この場合は「魚を採る」)をするために必要な資金を集めるのが、株式の発行。

しかし、お金の世界というのは厳しいもので、資金を出すだけで口を出さない金主というのは存在しません。チケットを発行するなら、そこには「見返り」が必要になってきます。上の例なら

株主「その『正直水産の株券』、わしは100万円で買うわ。その代わり、獲れた魚の5%はわしのもんやで」

というような約束を交わす。

「株式」とはお金を集める代わりに将来の見返り(リターン)を用意するシステムなんですね。


VALUは「見返り」の約束が薄い株式システム


上の漁師の例のように「将来の見返り」を約束して、それに必要な「活動費」を求めるのが「株」というシステムです。

それでは、VALUと株式は、一体何が違うのでしょうか。


■事業計画がない
株式の発行との最大の違いはここです。VALUを発行するにあたって、ユーザーは事業計画を発表する必要がありません。
「この湖の魚を採るよ」程度の計画も、発表する必要がありません。その代わりにある情報は「俺です!!!」とでも言いたげな自撮りとTwitterのフォロワー数のみ。

VALUを発行して得たお金を、発行主が何に使うのか、VALUを購入するユーザーにはなにもわかりません。

■見返り(リターン)の約束が薄い
株式とは将来のリターンを期待して企業にお金を投資する行為であると先に説明しました。


しかし、VALUを発行しているネット有名人たちは、リターンの設定にあまりに無頓着なように思えます。

例えば積極的に売り買いされている人気銘柄である「けんすう」さんのVALU、これのリターンは「ロケスタくんフィギュアの提供」のみです。しかも「大株主」と限定されており、50VAもVALUを所持しなければもらえません。
仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】
けんすうさんのVALU

同じく人気銘柄のイケダハヤトさんの優待は「ブログにアドバイス」。
確かにブロガーとして収益を上げつつ活躍しているイケダハヤトさんのアドバイスには価値があるかもしれません。
仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】
イケダハヤトさんのVALU

しかし、具体的に「どのくらいの時間」「どのような形で」「どの程度の密度をもって」アドバイスされるかの情報がありません。
ちなみにこの優待がつけられた時のイケダハヤトさんのVAあたりの価格は0.44BTC、日本円にしておよそ14万円です。
仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】

僕が最も呆れたのがこちら。ホリエモンこと堀江貴文さんのVALU。なんと優待情報が全く設定されていません
仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】
堀江貴文さんのVALU

つまり、このVAを買っても、堀江さんから何ら意味のあることをしてもらえないわけです。そんなVAにも0.59BTC、日本円で20万円近い価格がつきました。

仮想株式「VALU」に見るネット有名人たちと「承認とカネ」の問題【メンヘラ.men's】

「無に20万円の価格が付く」とは、かくも恐ろしい現象と言わざるを得ません。


怪しげな商材の共通点は「承認」と「カネ」


ここまで見てきたように、VALUと株式の間には極めて大きな差が存在します。

「仮想株式」「評価経済」そんなキャッチーな単語とイメージだけが先行して、実体のない亡霊に価格がついてしまっている……というのが現在のVALUの現状でしょう。

そしてVALUと同じような現象は、今までのインターネットで常に目撃されてきました。

「秒速で1億円稼ぐ」と豪語する与沢翼の「フリーエージェントスタイル」。
ブログさえ始めれば自由な生き方ができて儲かる!と喧伝する「ブログ飯」。
「情報商材」「アフィリエイト」「オンラインサロン」……。

これらの怪しげな商材群には、あるひとつの共通点があります。

それは「これさえ始めれば『承認』と『カネ』が手に入る」という甘い誘い文句です。

若者がカネに困っているのは昔も今も変わりませんが、現代の若者はカネの他に「承認」に対する飢えも抱えています。

有名になりたい、Twitterのフォロワーを増やしたい、自由でフリーな感じで生きていきたい

そのような欲求を、前の世代よりも強く抱いているのでしょう。
怪しい商材は、そんな若者の承認欲求に的を絞り、誘いの手を伸ばしてきます。

もちろん、念のため補足しておけば、VALU運営としても、現状のバブルのような状態は本意ではないようです。ランキング制度の廃止や取引VA数の制限など、投機的な動きを抑制しようとする努力は感じられます。純粋な「評価経済」の夢をVALU運営としては見ているつもりなのかもしれません。

ともあれ、あるサービスが本当に価値のあるものなのか、大金を投じるに値するのか、妙な言葉で──特に「承認とカネ」をくすぐるような──で彩られていないか。
事前にしっかり考えてから、利用したいものです。
わかり手(小山晃弘)

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