さすがに今週も引き続きシノの話が継続するのかと思いきや、シノ&映画の話はすっかり終わって、今度は濃野佐志美原作の舞台の話。

最後の手紙を書く相手が思いつかない
女性の人生においての3つのターニングポイント。
・誰かに処女を捧げるとき
・男にお金で買われるとき
・もう誰からも振り返られなくなって、自分がお金を出して男を買うとき
三井路子(五月みどり)が舞台化を提案していたものの、濃野佐志美こと井深涼子(野際陽子)が先に『流されて』というタイトルの小説として発表してしまったこの話が、実際に舞台化されることになったようだ(濃野佐志美原作として)。
姫(八千草薫)のトラウマな過去をモチーフにした小説『散れない桜』がドラマ化したり、秀サン(藤竜也)がモデルのシワフェチ小説『夕暮れの女』が芥川賞の候補になったり、「やすらぎの郷」での生活を書いた『老女たちの春』が本屋大賞にノミネートされたり……。エンタメから純文学まで書き分ける濃野先生、小説家としての能力は高いんだろうけど、周りの人に迷惑をかけすぎ!
今回も『流されて』の舞台化で「やすらぎの郷」の老女優たちは大騒ぎとなる。
三井路子は話をパクられたことを恨んで、濃野先生を「ナスの呪い揚げ」にし(しゃっくりを起こす程度のパワーしかなかったが)、主演女優として指名されたお嬢こと白川冴子(浅丘ルリ子)は狂喜乱舞。そして水谷マヤ(加賀まりこ)は、芸能界へ未練タラタラなお嬢の姿を見るとイライラしてしまうのだ。
例のごとく、彼女たちに振り回される菊村栄(石坂浩二)だったが、マヤから見せられた一通の手紙に心を揺り動かされる。
それは、自殺しちゃった犬山小春からの最後の手紙。小春が「やすらぎの郷」にやって来た時にはまったく親しいとは思えない対応をしていたマヤに、最後の手紙を送ってきたのだという。
「あなたともっと話したかった。色んなこと、全部、ごめんなさい。もう許して。さよなら 小春」
自殺する直前に書いたと考えると、もはや呪いに近い手紙だ。
マヤはこれを菊村に見せながら泣き出してしまうのだが、この手紙の内容や、小春のことを思ってではなく、「最後の手紙を書こうという相手が思いつかない」から。
気持ちは分かるけど……犬山小春、かわいそう!
そして菊村もまた、特に小春に思いを馳せることはないまま、「最後の手紙」を出す相手がいないことを思い悩むのだ。
「ただ愛する者に自分のことを。自分がいかにその人に助けられ、その人の存在で人生をまっとうでき、その人あって自分は生きられたか」という「究極の愛の手紙」。
結局、そんな手紙を出す相手は亡き妻・律子(風吹ジュン)しか思いつかないのだ。
「最後の手紙」って、なかなか考えさせられるテーマだけど、若い子向けのドラマ……というかLINEやメールが常識となっている今の若い子が登場するドラマでは成立しないだろう。たとえば「最後のLINE」だったら、そこまで重要性を感じないし……。シニア向けドラマを標榜する『やすらぎの郷』ならではのエピソードだ。
元妻&元カノにツッコミを入れられる悪夢!
この「最後の手紙」について思い悩んでいる時に菊村が見た夢がヤバかった!
律子より先に菊村が死んだら……という設定の夢なのだが、天国っぽいセットが完全にコント。そんな空間の中、新婚当初にふたりが書き、タイムカプセルに入れて埋めた手紙を律子が読み上げるのだが、そこにはなぜかツッコミ役としてお嬢とマヤもいるのだ。
要は、ドラマ中の妻・律子との手紙に、石坂浩二のリアル・元妻と、リアル・元彼女がツッコミを入れるという地獄絵図だ。たとえば、「好きな人はできただろうか」に対して「できたできた!」「律子は新しい恋をしているから、あんたは安心して成仏しなさい!」……などなど。
石坂浩二が加賀まりこから浅丘ルリ子に乗り換えて結婚しちゃったり、その浅丘ルリ子と離婚した直後に別の女性と再婚した話を思わずにはいられない。
そういえば、最後の手紙を書く相手がいないと悩む菊村に、「私、欲しいです、先生の最後の手紙」とジジイ転がしトークをかましたハッピー(松岡茉優)も、「もしかしたら将来、お宝鑑定番組ですごい金額が……」と言っていた。だから、その番組のことは石坂浩二に言っちゃダメでしょ。
さらに、「女性の心理は書けません」と、『流されて』の脚本を書くことを固辞する菊村に、浮気疑惑を持ち出して「男のズルさなら書けると思います」とお嬢が迫るというのもなかなかの地獄シチュエーションだった。
かつて噂となった女が、父親不明の子どもを産んでいた……なんて話をされた上で、
「どう逃げようかって、考えたでしょ必死に」
「あなた今、内心ドキッとしたでしょ?」
「つまりそういうのが男のズルさなのよ」
……こんなこと元妻に詰問されたら本当にキツイ!
今週も、倉本聰&中島みゆきがカメオ出演していて笑ってしまったが(倉本先生、タバコ吸いまくり!)、石坂浩二がツライ目に遭うシーンの撮影をニヤニヤ見に来たついでなんじゃないかと勘ぐってしまう。
男は本当にバカだ!
石坂浩二のプライベートは置いといても、今週は男のズルさ、バカさっぷりがやたらと描かれていた。
芥川賞候補となったことを知り、濃野佐志美の正体をさぐる大納言(山本圭)とマロ(ミッキー・カーチス)。
結局、濃野佐志美の正体が井深涼子だと突き止めるのだが、こっそり調べておけばいいのに、本人の目の前で思いっきり大はしゃぎ。
怒っているような、悲しんでいるような、切羽詰まった表情を浮かべる井深涼子の前で、大納言とマロは「しゃべっちゃう!」「しゃべりまくっちゃう!」「こんなビッグニュース、黙っていることなんてとても出来ない!」と浮かれまくりなのだ。
さらに井深涼子が、
「隠していることが私の生きがいだったのよ」
「あなたたちは今、無神経に、私の生きがいを奪おうとしているの!」
と怒りをぶつけても、「分かる?」「分からなぁ〜い」とスルー。……ズルイというか、バカ過ぎるふたり! デリカシー・ゼロだ。
このふたりが本当に思いっきり言いふらしまくったと見えて、翌日には館内放送で大々的に正体をバラされてしまった濃野先生。「やすらぎの郷」……おそろしい施設!
まあそんな濃野先生も、『最後の手紙』という、明らかにマヤの話を元にした最新作を執筆中だったんだけど。
『やすらぎの郷』は一応、菊村が主人公という形にはなっているが、基本的にずーっと受け身だし、その他の男キャラたちはボンクラばっかり。ドラマを動かしていくのはいつも女性(老女優)たち。『やすらぎの郷』は、女性たちのドラマなんだろうなぁ。
……それでいながら、「処女を捧げる」「男に買われる」「男を買う」なんて、ザ・男視点な女の人生観を女性陣に語らせてしまうあたりに、倉本先生のひねくれっぷりを感じてしまうが。
さて、第15週では「やすらぎの郷」で暮らす老夫婦の死別が描かれるようだ。……いやあ、やすらげないねぇ。
(イラストと文/北村ヂン)