
仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会による「仙台・宮城【伊達な旅】夏キャンペーン2017」のPR動画の内容に批判の声が集まっています。
2017年07月04日 に公開された動画では、主演女優の壇蜜氏による「宮城、行っちゃう?」「ぷっくり膨らんだ、ず・ん・だ」「肉汁トロットロ、牛のし・た」「え、おかわり?もう〜、欲しがりなんですから」というセリフがあり、亀の頭が大きくなるという描写もあるなど、もはや観光アピールとは無縁の性的なメタファーが至る所に散りばめられています。
もちろんインターネット上では、「下ネタCM」「普通にキモい」等の声が多数出ていました。涼しい宮城をアピールしたようですが、涼しいどころかむしろ“寒い”内容だと感じたのは私だけではないはずです。また、「県民として恥ずかしい」等、一部の県民からも苦言を呈する声があがっています。
県知事が炎上を煽るという異常性
ところが、村井知事は撤回・謝罪をするどころか、記者会見で動画の再生回数が炎上によって増えたことを「私としては賛否両論あったことが逆に成功につながっているんじゃないかなと思っています」と表現しました。炎上マーケティングを容認した発言と言えます。
さらに「厳しいこと言って頂いてアクセスを増やして頂きたい」と、さらに炎上を煽る発言をしました。県のトップが炎上マーケティングの手を染めて炎上を煽るというのは、かなり悪質で異常な事態ではないでしょうか? セクハラをして開き直っている人と何ら変わりありません。
確かに村井知事が指摘するように、自治体のPR担当者は埋没しないためにどうすれば良いのか悩まされることは多いかもしれないですが、創意工夫や作品の質によって目立つのではなく、単に「エロ・グロ・ナンセンス」を入れ込んで注目を集めようという方法は前衛的どころかとても古臭いやり方です。やっていることは暴走族と同じと言えるでしょう。
ブランド低下で宮城ボイコットも始まっている
動画の再生回数は確かに伸びたのかもしれませんが、それと引き換えに宮城県が失ったもののほうが大きいのではないでしょうか?
村井知事は会見で「あれを見て宮城に行かないということになるとダメだと思うんですよね。そういう感じにはならないのではないかと思うんですよね」と見解を表明しましたが、インターネットの投稿を見ていると、「今後宮城県には行きたくなくなった」「卒業旅行は東北巡りを考えてるけど、宮城は避けて行きます」等、ボイコットを表明する人も既にいるようです。
私も全国津々浦々山登りをしているので、近いうちにキャンペーンサイトにも記載されている蔵王にも行こうと考えていたのですが、謝罪してPR動画を撤回するまで、もしくは村井氏が知事を務めている間は絶対行きたくないと思いました。行ったとしても山形県側から回って宮城県は避けたいと考えています。
確かにPR動画一つで観光客の数が劇的に増減する可能性は低いでしょう。ただし、観光PRのターゲティングとは「どういう人たちに来て欲しいか」という発信側のメッセージです。ネットの投稿の一つに「宮城には行かない。あのCM見て喜ぶ奴ばかり押し寄せればいい」という意思表明をしている人がいましたが、あのCMを見て嫌悪する層を失っても良いという合意が住民や観光協会との間であったのかは甚だ疑問です。
サントリー「頂」も女性蔑視妄想CMで炎上

また、7月6日に公開された「絶頂うまい出張」と題するサントリーの新商品「頂」の動画広告が批判を浴びて僅か1日で公開中止になるということも起こりました。
動画では「お酒飲みながらしゃぶるのがうみゃあ」「肉汁いっぱい出ました」「コックゥ〜ん!しちゃった…」などといった性的メタファーが散りばめられており、インターネット上では「下品だ」「キモい」「女性蔑視だ」という声があふれていました(※cockは男性器のスラング)。
また、出張に行った先で若くて綺麗な女性だけと知り合いになり、チヤホヤされるという都合の良い妄想を描いた点が、いかにも女性を性の商品のように扱っているように感じられたのも問題でした。この手の炎上の際には毎度触れていることですが、単に一部の人にとって「不快」だから問題なのではなく、そこに「女性蔑視」があるから問題なのです。
それにしても、この手の炎上は散々起こってきたにもかかわらず、「頂」の担当者が過去の事例から学ぶことなく、堂々と同じ轍を踏む姿は、職業人としての能力が心配になるほどです。学んだ上であえて狙ったのであれば、ますますその能力を疑ってしまいます。
新入社員として会社に入れば、「会社のイメージを下げることはやってはいけない」ということを教えられるわけですが、上層部や広報がこのような愚行を起こしてしまえば、当然現場や開発者の士気も低下してしまうのではないでしょうか? ネット社会のこの時代に広報で最も気を付けるべきは炎上とも言えるわけですから、そろそろ経営者や株主も経営上の重要なリスクとして認識したほうが良いでしょう。
「男の妄想」ではなく「ロクでもない男の妄想」
さて、サントリー「頂」に限らず、宮城県のキャンペーン動画や、少し前に炎上した少年ジャンプの「ゆらぎ荘の幽奈さん」もそうですが、全てに共通することは、描かれた性表現がとても下品で、陰湿で、一方的で、非人間的≒記号的で、セクシーさとはかけ離れた「グヘグヘ」的な表現ばかりな点です。単なる「エロ」ではなく、「男の妄想」でもなく、「ロクでもない男の女性蔑視的なエロ妄想」というところが共通しています。
もし私がCM企画の担当者で「ちょっとエロい感じなもので行きましょう!」という方針になったならば、素敵なパートナー(関係は対等)によるカッコ良くセクシーなナイトシーンか、元気にはしゃいでプチセクシーにスキンシップをするシーンを描く企画を提案するはずです。
ところが、なぜ炎上する日本の広告ではそのような「スタイリッシュエロ」や「仲良しリア充エロ」ではなく、「グヘグヘエロ」ばかりが描かれるのでしょうか? もちろんそういう「グヘグヘエロ」をふんだんに取り込んだAV、ゲーム、漫画等のジャパンファンタジーで育っている人が多いからでしょう。
男性が女性を対等な人として認識せず、記号という点にのみ興奮を覚える状態を拙著『恋愛氷河期』では「肉メガネ男子」と呼びましたが、一連の「グヘグヘ」的なファンタジーをシャワーのように浴びて育ってしまったために、「性欲が歪んで形成された」のだと思われます。その最初の出発点の一つが、「ゆらぎ荘の幽奈さん」で描かれたような「ラッキースケベ」や「嫌がる表情をエロと結びつける」という描写なのかもしれません。
日本的エロが好きな男性はだいたいセックスが下手
以前のエントリー「ジャンプ女子トイレ炎上、なぜセクハラは繰り返されるのか?」でも、「セクハラする人はだいたいセックスが下手」という主張を致しましたが、今回の一連の作品群にも全く同じことがいえます。リアルな女性とはかけ離れた身勝手な妄想を抱いている人が、相手を自分と対等な人として尊重し合いながら性的コミュニケーションを取れるとは思えません。
CMで表現されたような「グヘグヘエロ」欲望をぶつけられることで女性が性に対するイメージを悪くするのも当然ですし、男性だって現実とはかけ離れた理想像を追い求め続けているわけですから、永遠に満足できるはずがないのです。イギリスの大手コンドームメーカー Durex 社の調査で日本は性生活満足度が世界最低ですが、当然のことではないでしょうか?
少し話は逸れますが、「洋モノのAVは単調でつまらない!」という日本のポルノ愛好者は少なくありません。ですが、「毎日の挨拶は単調でつまらない!」とは言わないように、基本的にコミュニケーションって単調なもの。それなのに単調だと文句つけるのは、SEXに求めているのがコミュニケーションではなく、「グヘグヘ」を味わえる支配や搾取や記号的なモノだからでしょう。
良いCMの例は同じサントリーの「香るエール」
なお、「頂」のCM炎上の余波で、同じ時期にSNS広告を仕掛けていたサントリーのビール「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール」のCMも批判している人がいました。ですが、こちらは全く性の商品化ではないですし、むしろ全体的に主体性が感じられる作品ですし、良いCMだと思います。
\ #今日はパスタとプレモルと /#水原希子 さん出演のWEB限定動画、公開中
— SUNTORY(サントリー) (@suntory) 2017年7月7日
今回は「シーフードたっぷりの冷製パスタ」作りに挑戦
キュートな素顔にきゅんっ…https://t.co/kUcibMjyzs pic.twitter.com/e7ulc08obk
確かに出演されていらっしゃる水原希子さんの服装は「頂」のCMに出てくる女性よりも薄着で、お尻を振る等の動作やキスをする動作もありますが、下品で身勝手な妄想エロとは程遠く、とても健康的で楽しそうなイメージの動画です。
二つのCMを比べれば、性的なニュアンスが含まれるもの全てがダメなのではなくて、日本のポルノにありがちな女性を都合の良い被支配物のように扱う陰湿で下品な表現がダメだということが如実に分かると思います。
以上、2つのCM炎上のケースについて論じてきましたが、とにかく注意するべきポイントは女性蔑視を避けることです。それがいまいち分かりにくいというのであれば、対等な「スタイリッシュエロ」や「仲良しリア充エロ」ではない一方的な「グヘグヘエロ」を描くことと捉えておくと良いと思います。
今後また同じような作品が世に出てくるかもしれなせんが、この手の炎上は誰も幸せにしません。今回を機にそろそろ終わらせられることを心から願っております。
(勝部元気)