第17週「運命のひと」第97回 7月24日(月)放送より。
脚本:岡田惠和 演出:黒崎博

97話はこんな話
島谷(竹内涼真)が佐賀の島谷家と縁を切ると言い出すが、みね子の返事は・・・。
「ひよっこ」の特徴として、土曜日はまったり、月曜に重い問題が勃発・・・しがちだ。
これまでの月曜日を振り返ってみると・・・
第2週、月曜、久々に帰郷したお父さんが東京に戻ってしまう。
第3週、月曜、お父さんが失踪したことをみね子が知る。
第4週、月曜、大晦日、お父さんはやっぱり帰ってこず、みね子が東京に出稼ぎに行くことを決意する。
第9週、月曜日、工場が倒産することがわかる。
第13週、月曜日、お父さんがひったくりに合って暴行されてそのまま失踪してしまったことがわかる。
第14週、月曜日、宗男叔父さんが戦争のトラウマを抱えていることがわかる。
ざっとこんな感じだ。
17週のはじめの月曜も、わずか2ヶ月で、みね子と島谷は破局を迎えてしまう。
この展開はうすうす予想はついていたとはいえ、その顛末は、予想外のものだった。
島谷が、別れを切り出すのかと思わせて・・・家を捨て、みね子を選ぼうとする。あっぱれ! と讃えたいところだが、みね子のほうが身を引いてしまうのだ。
由香(島崎遥香)の、常識に負けないで、という励ましも功を成さず、みね子は旧時代の慣習に従ってしまう。
こういうヒロインも珍しい。たいてい、ヒロインは、こんな状況に抗うものだっていうのに。
「お金なんかなくても自分らしく生きられれば」と島谷は、従来なら、素敵な選択と賞賛されそうなことを言うが、みね子は「そんな簡単なことじゃないです」とばっさり。
「貧しくてもかまわないなんて そんな言葉知らないから言えるんです。
いいことなんかひとつもありません。
悲しかったり悔しかったり寂しかったり、そんなことばっかりです。
それでも、明るくしてんのは そうやって生きていくしかないからです」
痛烈だ。
でもそれは、島谷の家のことを思ってこその、苦渋の発言だ。
「まだ子供なんですね、島谷さん」
「私、親不孝な人、嫌いです」
みね子はわざときつい言い方をすることには、もうひとつワケがあると思われる。
家を守るために出稼ぎに来ているみね子が、家を捨てるという島谷の行為を認めてしまったら、みね子のアイデンティティーは崩壊してしまうからだ。
単なる身分差とか親の反対とかそういうことではなくて、みね子は自分の存在意義を必死で守ろうと闘っているのだ。
何度も出てくる、自分のしていることを可哀そうと思われたくない、という話。
可哀そうなヒロインががんばる、みたいな話のほうが、わかりやすく応援されるのに、そうしないのだ。
「可哀そう」の概念を覆そうとする偉業である。
「まだ子供なんですね、島谷さん」と言われてしまった島谷。
ビートルズのチケットを譲ることはしなかったけれど、みね子のために、家を捨て、貧乏になるという選択は、結局は、理想主義であり、みね子の置かれた状況を本当の意味でわかっていないとも言える。
例えば、綿引正義(竜星涼)は、親のために警察官の仕事を辞めて、実家に帰っている。みね子の父探しを気にはしながら、家と親を選択したのだ。こういう前例が描かれることで、いっそう、島谷の選択の、地に足のついてなさ(「お坊ちゃんだからさ」的な)が際立つのだった。
過酷である。
別れ際、深く頭を下げる瞬間の、島谷の顔が痛ましかった。
彼が大人になって、みね子を、また、迎えに来ることはあるのだろうか。
でも、これで、一旦、退場し、日本テレビ「過保護のカホコ」のカホコ(高畑充希)の元へ行ってしまうのか、と思うと、釈然としない。
(木俣冬)