
十分過激だけど、原作よりはマイルドになっている
このドラマが始まった時、なぜ21時というゴールデン帯に?という疑問がいろいろな所から聞こえてきた。原作漫画が性描写も暴力描写もキツイため、深夜の方が向いているという意味だ。現に、原作に比べてドラマはだいぶマイルドになっている。
例えば、原作のマル(葉山奨之)は、トビオ(窪田正孝)から盗んだ300万と自分の300万で、京都に逃亡して風俗に通いまくるとんでもないゲス野郎だった。それがドラマ版では、熱海でキャバクラ遊びをするだけ。キャバ嬢(おのののか)に引っかかり金を搾り取られるという、ピュアな一面まで披露した。この通り、マルがヤベー奴だということに変わりはないが、かなりマイルドになっていると言える。
かなり頑張ってはいるが、今宵(川栄李奈)の性描写も、その過激さは原作に全く及ばない。そもそも、原作がテレビでは放送できないような画ばかりなので、深夜ドラマだったとしても、再現は出来なかったはずだ。
トビオを苦しめるためだけに生まれた男
マイルドにマイルドに方向転換していく方針は、この作品自体のテーマにも及ぶのかと思われた。
第3話で、ヤバ高教師の熊野(森田甘路)が爆発事件の真犯人ではないかという説が浮上し、「あれ?犯人俺たちじゃなくね?」という展開になったのだ。原作のままだとさすがに重すぎるため、誤って大量殺人を犯した高校生の苦悩を描いた逃亡劇から、冤罪での逃亡劇に路線変更したように見えたのた。
しかし、そうではなかった。第4話で、その変更したかに見えたテーマはすぐに元通り、いや、それ以上にハードなものになった。
トビオと伊佐美(間宮祥太朗)は真犯人である証拠を見つけるため、熊野のアパートに侵入。熊野のパソコンを開くと、なんとヤバ高生を盗撮した映像が大量に保存れているのを発見する。熊野の異常な性癖に思わず笑い出してしまうトビオと伊佐美がだったが、よく見るとそこには、自分達が仕掛けた爆弾が、プロパンガスの方に転がっていく様子が映り込んでいた。ずっと怪しい行動を取っていた熊野は、ただの盗撮犯で、事件とは何も関わりがなかったのだ。
原作でトビオ達は大量殺人犯という罪を背負って逃げていたが、ドラマ版では、一度、“自分達が犯人ではない”という希望の光を持たされ、その上でもう一度、大量殺人犯という罪を叩きつけられているのだ。これは、精神的に原作よりもよっぽどキツイ。
熊野は原作には出ていない。正確には、熊野らしき教師はいるが、これほどストーリーには関わっていない。つまり、熊野は、トビオ達を安心させてからもう一度地獄に突き落とすという役割を持って、このドラマにわざわざ登場したのだ。トビオ達を精神的に追い詰めるためだけに存在しているのだ。
熊野をわざわざ出してるぐらいだからラストも安心出来るかも
制作陣はドラマが開始する前から、オリジナルのラストの存在を明らかにしている。漫画原作の実写化でオリジナルのラストと聞くと、どうしても“無理矢理なハッピーエンド”や、“蛇足”を想像してしまう。
しかし、トビオを苦しめるためだけの熊野というオリジナルキャラの存在を見ると、オリジナルのラストにも期待が出来るかも知れない。原作は、トビオたちの葛藤を読者の日常に接続させるような余韻で物語を閉じたが、もしかしたらドラマでは、“誤って大量殺人をしてしまった高校生”というテーマと真っ向からぶつかるラストが観られるかもしれない。
(沢野奈津夫)