
ロンドンにポップアップ店を営業中の「山小屋」の山小屋ラーメン
ヨーロッパで続くラーメンブーム。ロンドン中心部では2012年以来、ラーメン専門店が続々とオープンし、ここ最近では中心部以外にも飛び火している。
今やロンドンはヨーロッパのラーメン・キャピタルと言っても過言ではない。ロンドン在住の筆者が、独自の展開を遂げる現地ラーメンシーンの最前線に迫ってみた。
中心部一極集中から市内各所に広がるラーメン屋
ロンドンに現在のようなラーメンブームが到来したのは、ロンドン五輪が開催された2012年だった。じつは、それまでロンドンには、日本で人気があるラーメン屋と同じようなラーメンを食べられる店はほぼ無かった。ところが2012年末に、イギリス初の本格派博多とんこつラーメン店「昇竜」が、英ジャパンセンター(英老舗日本食料品店)の経営で、博多出身の在英日本人シェフによりロンドン中心部ピカデリー・サーカス近くにオープン。同店は即座に「行列ができる店」となり、ロンドンのとんこつラーメンブームの火付け役となった。

「Tonkotsu」ソーホー店
「昇竜」開店の直後には、日本人経営の「Tonkotsu(トンコツ)」、オーストラリア人シェフによる「Bone Daddies(ボーン・ダディーズ)」が、いずれもとんこつ味を看板に、ピカデリー・サーカス近くのソーホー地区で開店した。Bone Daddiesのシェフは、世界展開する高級和食レストラン「Nobu(ノブ)」のダラス店で、主任を務めていた実績の持ち主だ。
さらに2014年には、博多とんこつラーメンの「金田屋」と「一風堂」が、ロンドン中心部のトッテナム・コート・ロード駅の近くで、ほぼ同時期に海外進出。両店は通りを挟んで真向かい同士に立ち、位置的にも人気においても、ロンドンのとんこつラーメンの双璧となった。
その後、ロンドンっ子に人気を得た各店は、競うようにロンドン各所に支店を開いていく。例えば、Tonkotsuはイギリスの高級百貨店「セルフリッジズ」のフードコート(日本でいうデパ地下)にも出店。2~3キロメートル圏内のロンドン中心部が、2012年から2014年までの2年間で、一気にラーメン激戦区と化した。
それら大部分のラーメン屋が、とんこつ味を売りにしてきたため、ロンドンでは「とんこつ」がラーメンの代名詞として認知されるほどまでになった。

博多とんこつラーメン「金田屋」のロンドン・コベントガーデン店
ヒップスター化するロンドンのラーメンシーン
ロンドン中心部がラーメン屋で飽和状態になる一方で、進出範囲は中心部以外にも広がっている。2016年には南ロンドンのブリクストン地区で「Nanban(ナンバン)」が開店。今春には東ロンドンのオールド・ストリート地区に「ものほん」が、イギリス人シェフによりオープンした。
最近のロンドンラーメンの傾向としては「創作系」や「ヒップスター化」が挙げられる(ヒップスターとは流行の最先端を追っている人のこと)。先鞭をつけたのが、市内北東部エンジェル地区で2014年から2015年まで営業していた、イギリス人シェフによる「United Ramen(ユナイテッド・ラーメン)」(現在閉店)だろう。同店はイギリス流ラーメンをうたい文句に、イギリスの伝統料理であるローストビーフとヨークシャー・プディングを乗せた「ブリティッシュ・ブルドッグ・ドゥードル」という名前のラーメンを考案した。
その後、南ロンドンのブリクストン地区の古いシアターレストランを改築した場所に、上述したNanbanがオープン。ミシュランガイド、タイムアウト誌などでも紹介され一躍話題となった。ここはすでに、ラーメンとそばを専門にする日本人経営の「Okan(オカン)」や、6ポンド(約850円)というロンドンにしては破格の値段で「最低価格で最高品質のラーメン」を売りにするアジア系イギリス人による屋台スタイルの「Koi(コイ)」が陣取る激戦区でもある。
Nanbanで出される、つけ麺「レイジー・ゴーツ(怠け者の山羊)」は、ジャマイカ・ヤギカレーをつけ汁にした、ジャマイカ系移民の多いブリクストンならではのメニュー。つけ汁には煮込んでトロけたヤギ肉が、カレー南蛮のようにたっぷりと入っている。つけ汁には中国のスパイスである八角を多く使う。
つけ汁と麺に添えられたメンマはどちらも激辛だ(日本人の味覚からすると少々辛すぎるきらいはある)。

「Nanban」のレイジー・ゴーツ
一方で、創作系に向かう傾向から距離を置き、定番人気メニューに力を注ぐ新興店もある。「ものほん」は「油めん」や「台湾そば」などをそろえ、イギリス人だけではなく日本人の味覚にも合う正統派を志向している。
欧州他都市の人気店がとんこつ味以外でロンドン進出
ヨーロッパ他都市の人気店が、ロンドンへ進出する流れも起きているようだ。ロンドン市内を流れるテムズ川南岸のサウス・バンクには、スペイン・バルセロナの「Tatami Ramen(タタミラーメン)」がロンドン支店を開業。同店の売りはとんこつ味とベジタリアンラーメン。ベジタリアンラーメンには「紅茶キノコ(健康効果があるとされる紅茶や緑茶に砂糖と酢酸菌や酵母菌を加えた微発泡の発酵食品もしくは飲料)」を使うなどの工夫がされている。菜食主義が市民権を得ているイギリスにおけるラーメン屋では常にベジタリアンラーメンの選択肢はあるが、持続するとんこつブームの中でベジタリアンラーメンを大々的に掲げることは、ロンドンでは新しい傾向だ。
ロンドン中心部も依然進化中で、中華街が広がるレスター・スクエア近くには、福岡の老舗「山小屋」のポップアップ店が去年オープンした。同店は英国産バーフォード・ブラウン種の高級鶏卵でつくった煮卵や、ハンガリー産高級豚であるマンガリッツァ豚のチャーシューといった、ヨーロッパならではの高級食材を使用し、日本の味付けで提供している。
新旧入り乱れてエリアを広げつつ、とどまることを知らないロンドンのラーメンシーン。勢力図は日々塗り替えられているのだ。
(ケンディアナ・ジョーンズ)
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