エキストラ総数3000人! ド迫力な合戦シーン
日本史のターニングポイントとなった天下分け目の大決戦を再現するために京都・東本願寺、姫路城など国宝級の歴史的建造物でロケを敢行。エキストラ総数3000人規模、延べ400頭にも及ぶ騎馬や鉄砲隊が入り乱れる合戦シーンはド迫力だ。
パンフレット掲載のインタビューによると、監督・脚本を担当した原田眞人は十数年前にハリウッド映画の『ラストサムライ』に俳優出演した際、大掛かりな合戦シーンを目の当たりにし、それを超える日本発の世界戦略時代劇を作ると決意したという。
岡田准一、役所広司……豪華な出演陣
もちろん出演陣も豪華だ。すっかり邦画界を代表する役者へと成長した岡田准一が石田三成を演じ、その三成に想いを寄せる伊賀の忍び初芽役に有村架純。平岳大(島左近役)、東出昌大(小早川秀秋役)といった注目の役者陣が脇を固め、もう一人の主役とも言うべく徳川家康は役所広司が圧倒的な存在感で演じきっている。
三成の純粋さと家康の狡猾さを描くには、両者ともこれ以上ないハマり役と言えるだろう。
もはや紅白歌合戦にV6として出演した際、「ええっ黒田官兵衛が歌って踊ってる……」と時代劇好きのお爺ちゃんたちを驚愕させるほど俳優としての知名度を上げた岡田だが、今作で三成が抜群の乗馬技術で乗りこなした馬は、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』のときと同じ馬だという。
原田眞人×役所広司の名作といえば?
さて、この大ヒット中の『関ヶ原』の原田眞人監督と役所広司のコンビと言えば、22年前のあの名作を思い出す人も多いのではないだろうか。95年公開の『KAMIKAZE TAXI』である。
本作にて当時30代後半の役所広司は日系ペルー人のタクシードライバー寒竹一将(カンタケ)を演じ、毎日映画コンクール主演男優賞を受賞。原田眞人もフランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。ともにキャリアの分岐点にして、出世作となった。
もともと、90年代にレンタルビデオ屋向けに各メーカーで大量制作されたオリジナルビデオ作品全2巻を1本にまとめ劇場公開。
映画冒頭には国会議事堂をバックに「この作品は1994年4月から5月にかけて撮影された。
『KAMIKAZE TAXI』のあらすじ
物語の序盤は若い女の斡旋をするチンピラ南達男(高橋和也)を中心に展開する。
悪徳政治家・土門(内藤武敏)に恋人レンコを斡旋すると血まみれの重症を負わされ、ボスの組長・亜仁丸(ミッキー・カーチス)や石田(矢島健一)に抗議するもあっさりと彼女を殺されてしまう。
その復讐の一環として仲間とともに土門家を襲撃、多額の現金を盗むことに成功するが直後に亜仁丸に捕まり、惨殺されていく仲間たち。なんとか逃げ出す達男が偶然出会ったのが、日系ペルー人カンタケの運転するタクシーだった。
果たして、彼らはどこへ逃げるのか……?
日系ペルー人そのもの……役所広司の演技力
とにかくカンタケ演ずる色黒の日系ペルー人に扮した役所広司の演技が素晴らしい。
カーナビもスマホもないので、漢字で書かれた地図を必死に見ながら、片言の日本語を操る物静かなタクシードライバー。
かと思えば、ペルーで父親を殺したゲリラを追い戦い続けた激戦の代償の傷が体中に刻まれている。役所の彫りの深い日本人離れした顔面力と無国籍感は、孤独と秘密を抱えた日系ペルー人カンタケそのものだ。
『関ヶ原』の石田三成を彷彿させる?
こうやって内容紹介をすると、重い映画に思うかもしれない。しかしVシネ魂を感じさせる片岡礼子を始めとした女優陣の出し惜しみしないパイオツと、ヤクザ側の役者たちの軽妙かつ、底知れぬ恐怖を感じさせる絶妙な存在感が本作を娯楽作品として成立させている。
ミッキー・カーチスがカンタケと対峙したクライマックスの邦画史に残る怪演、矢島健一が達男たちに捕まり絶体絶命という場面で命乞いをするわけでもなく笑いながら馬鹿話をしたのち、「なんだよ、もう殺るのかよ?」とあっさり諦めるシーンは必見である。
結果的にカネと欲にまみれた悪徳政治家・土門に立ち向かうカンタケは、『関ヶ原』において家康と戦う石田三成を彷彿とさせる。
「この不確かな時代を生き抜くために、我々にはもう一度、それぞれの立場で「正義」を問い直し実践する急務があります」という『関ヶ原』パンフレット内の原田眞人監督の信念は、22年前の『KAMIKAZE TAXI』の頃から何も変わっちゃいないのだろう。
『KAMIKAZE TAXI』
公開日:1995年4月29日
監督・脚本:原田眞人 出演:役所広司、高橋和也、片岡礼子、ミッキー・カーチス、矢島健一
キネマ懺悔ポイント:81点(100点満点)
『ソナチネ』の高橋役で知られる矢島健一のベストワークスとも言える本作。土門家を襲撃した若いチンピラ達を追い詰めた矢島の「ハイ正座。まったく何考えてんだよ。タキシードまとめて6着レンタルする若造が東京に何人いると思ってんだよバカヤロー」の一言から始まる詰問シーンの破壊力はトラウマ必至だ。
(参考文献)
『関ヶ原』劇場用パンフレット
※文中の画像はamazonよりKAMIKAZE TAXI~ディレクターズカット版~ [VHS]