
「パパママソング」が「チチハハソング」に!
『悦ちゃん』は主要登場人物たちが作り手から均等に愛情が注がれているのが特徴で、実質35分×全8回と短いドラマながら、主人公の碌さん(ユースケ・サンタマリア)とその娘の悦ちゃん(平尾菜々花)はもちろん、元デパートガールの池辺鏡子(門脇麦)、碌さんの元婚約者で財閥令嬢の日下部カオル(石田ニコル)にもそれぞれの物語と背景が与えられている。
先週放送の第6話は、ポリムビアレコードの専属作詞家の座を得た碌さんが、せっかく書いた詞をレコード会社の人間に容赦なく書き換えられてしまうというお話。そういうこと、我々ライターにもよくあるよ。辛い……。
碌さんが悦ちゃんとの話をもとに書き上げた「パパママソング」。元の歌詞はこうだ(作詞は原作者の獅子文六)。
「教えてよパパ 教えてよママ 教えてよパパとママ
パパとママと ママとパパ どっちが先に言ったのよ
パパはママが好きだって ママはパパが好きだって」
それがこうバッサリと書き換えられていた。
「お父様 ねぇ お母様 あのね 大好きよ ありがとう
たたきましょう お父様 疲れた肩 トントンと
暗いうちに起き出して 夜が更けても針仕事」
まさしく跡形もない。碌さん呆然、悦ちゃん愕然。タイトルも「チチハハソング」に変えられてしまった。
さすがに怒った碌さんがレコード会社の人間に詰め寄るが、相手の言い分は「歌詞が少々生意気というか、こまっしゃくれているというか、正直不愉快だったので、多少の手直しをしました。子どもらしくないんだよなぁ~」というもの。これが一番ひどい言い草だが、戦前の大人から見た理想の子ども像とはこんなものだったのかもしれない。女性と子どもに自由のなかった時代。
「パパママソング」や悦ちゃんというキャラクターを生み出した獅子文六は、大正時代の自由な空気をたっぷり吸って育った型破りで現代風なセンスの持ち主だったが、昭和10年頃には軍部が力を持ちはじめており、『悦ちゃん』が新聞に連載されていた昭和11年には二・二六事件が起こっている。戦争の時代は間近に迫っていた。ドラマはほのぼのしていてちょっと笑ってしまうけど、ドラマで直接描かれていない時代背景を想像すると、実はあまり笑えない。
収入と専属契約のために歌詞の改変にも従おうとする碌さんだが、そんな碌さんに悦ちゃんは怒りをぶつける。しょげかえった悦ちゃんが「チチハハソング」のメロディーで「パパママソング」を歌うシーンがあるのだが、これが非常に上手くて驚く。なんでもできるんですね、平尾さん。
「自分の物語」を生きるカオル、「自分の物語」がない鏡子
このエピソードのもう一人の主役が財閥令嬢のカオルだ。碌さんの専属契約はレコード会社に影響力を持つカオルが手を回したもの。碌さんの才能の惚れていたカオルは、歌詞の改変もけっして許さない。以前のエピソードを上手く生かしてるなぁ、と感心する。
普通こうした裏工作をすれば、バレないように必死に隠すものだが、財閥令嬢のカオルはひと味違う。堂々と碌さんの家に乗り込み、歌詞の改変を許さなかったことと自分の関与を嬉しそうに告げる。「ご安心ください。碌太郎さんは思うがままに創作を続けてください」とイキイキとした目で語るのだ。激怒した碌さんはカオルに出て行けと告げるが、それでもカオルは食い下がる。
「私はたった一人でもあなたを理解したいと思っています! ……それこそが、真実の愛でしょう? 碌太郎さん、私は、あなたを愛してます」
愕然とする碌さん。愛の告白を台所で聞いていた鏡子は、カオルが去った後、こう呟く。
「うらやましいです。
鏡子は父親(西村まさ彦)が勝手に進める縁談を断ることができない。彼女には「自分の物語」がないのだ。自由奔放で自分勝手に見えるカオルが、一番自分の物語を生きている。登場人物たちの生き方を否定しない脚本と演出が気持ちいい。いや、原作のカオルはひどい女なんですから……。
さて、物語はいよいよ終盤。鏡子にフラれて大人しくしていた人気作曲家・細野夢月(岡本健一)が、偶然聞いた悦ちゃんの歌声にインスパイアされて、オリジナルの「パパママソング」(つまりエンディングで流れているバージョン)を作曲した!
今夜放送の第7話では、碌さんに思いを寄せている鏡子の結婚話が進んでいく! 碌さん、そして悦ちゃんはどう出る? 夕方6時5分から。
(大山くまお)