フジテレビ系「僕たちがやりました」が最終回を迎えた。終始一貫して一番のクズだったマル(葉山奨之)をかばいたい。
マルにはマルの言い分があると思う。
「僕たちがやりました」衝撃の最終回。マルは本当にクズなのか。ちゃんと考えてみよう
イラスト/小西りえこ

実らない自首


トビオ(窪田正孝)達は決死の覚悟で、爆破事件の真相を叫び、世の中に向けて自首をするも、計画の途中でマスクを被った玲夢(山田裕貴)らに拉致されてしまう。そこでパイセン(今野浩喜)は義理の兄弟である玲夢を殺してしまい逮捕されるが、爆破事件は輪島にもみ消され、トビオ、パイセン、マル、伊佐美(間宮翔太朗)は、結局、巨悪に屈してしまう格好に。

それでも自首を諦められないトビオは、簡易爆弾で爆破事件を再現し、1人で事件の真相とその心情を叫んだ。これに感化されたマル、伊佐美も出頭して真実を警察に伝えるが、それも無駄に終わり、輪島の前にまたしてももみ消されてしまう。

そして10年後、パイセンの仮出所がきっかけで4人は集まることになる。最初は楽しく飲んでいたが、それぞれ別の罪の背負い方をした4人は、マルをきっかけに仲違いしてしまう。


それぞれの罪の背負い方



伊佐美は、仕事こそ恵まれていなそうだが、今宵(川栄李奈)との間に2人目の子供を作り、それなりの幸せを手にしてるようだ。爆破事件の被害者の命日には、遺族へ挨拶に行っているらしく、事件のことは忘れていない。守るべき家族達と一緒に、罪の意識と戦って暮らしていく。

パイセンは、爆破事件の罪ではないが、玲夢を殺した罪で刑務所に入ったことで、ある程度の禊が済んだのかもしれない。出所後、殺人犯のクセにお笑い芸人になるという夢を語りだした。ムチャクチャでバカ丸出しの発言で10年前と何も変わっていないようだが、実はちょっと違う。

金に守られ、後輩とつるみ、セーフティーゾーンから絶対に出なかったパイセンが初めて夢を語りだしたのだ。
甘やかされたボンボンのころのパイセンだったら、わざわざそんなに厳しい世界に飛び込むことはなかった。お笑いなんて絶対に上手くいかないし、この先の辛い人生は目に見えているのだが、パイセンは初めて輪島から自立できたのだ。例え、半年後に夢を諦めてしまったとしても、成長したことに変わりはない。パイセンはパイセンなりに、前を向いている。

トビオは、爆破事件という事実に足を引っ張られ、バイトすらままならない生活。伊佐美とは違い、一緒に居ることで迷惑を掛けないよう蓮子(永野芽郁)と離れた。
そして、罪の意識と1人で戦う人生を選んだ。

時々死にたくなるし、この先に明るい未来など存在しない。だが、それでも生きていかなければならない。ハッピーエンドでも、バッドエンドでもない。これが普通、普通の殺人犯の人生をトビオは歩んでいく。

マルをもっと理解したい


そして終始クズを貫き通したマル。マルは自首作戦で余ったパイセンの金をかすめ取り、それを元手にキャバクラを経営。
金のない男から搾り取って悠々自適な生活を送っていた。一人だけ罪の意識と向き合う描写はない。10人殺して、仲間から金を盗む。クズ中のクズのマルだが、彼なりの正義は確かにある。

他の3人は爆破事件をきっかけに成長、変わっていったが、マルはそうではない。マルが変わったのは、あくまで金を手にしたことが理由だ。
こう聞くと最低人間に見えてしまうが、そもそもマルは、他の3人ほど殺人に罪の意識を感じていない。というのも、ヤバ高生にボコボコにされ、マルは殺されかけているからだ。何の意味もなく、笑いながら暴行を加えられたマルからすれば、ヤバ高生は死んで当然の存在なのだ。ここをしっかりと踏まえると、マルの行動はすべて合点がいく。

金を手にしたマルは、初めて人の上に立つということを知る。もちろん、キャバクラで金を使っているだけなので、実際に人の上に立ったわけではないが、仮初だとしてもマルを変えるには十分だった。
今までイジメられる側のマルは、金=強さという認識を持つ。ここからマルは、金に執着し始める。

そんなマルでも、金があれば全てを手に入れられると思っているわけではない。その手に入らないものとは、マルにしては意外すぎるもの、トビオ、伊佐美、パイセンとの友情だ。この友情を取り戻すために、自首作戦に乗っかったのだ。これは偽りの友情で他の3人に合わせたわけではない。堂々と4人で集まるために、過去を清算しようと自首作戦に乗っかったのだ。

だからマルは、トビオが1人で事件の真相を叫んだ時、自らの意思で出頭し、罪を告白した。だからマルは、10年後にパイセンから呼び出しを受けた時も喜んで駆け付けた。伊佐美の気は悪くしてしまったが、パイセンへの出所祝いや高級腕時計も、マルはただの善意から送っただけだろう。マルは、金に誰よりも執着するが、誰よりも金を便利な道具と割り切っているだけなのだ。

トビオ、パイセン、伊佐美が、罪の意識と戦うことで生まれ変わったとしたら、マルはヤバ高生に一度殺され、金という自分を強者にしてくれる道具を手にしたことで生まれ変わった。

「先に手を出したのはあいつらでしょ」、何話かでマルがいったセリフだ。「僕たちがやりました」は、罪の意識と葛藤する若者たちを描いたドラマだと思うが、マルだけは別テーマのストーリーを歩んでいたように見えてならない。(沢野奈津夫)


『僕たちがやりました』動画は下記サイトで配信中


フジテレビオンデマンド
Amazonビデオ

『僕たちがやりました』キャスト、スタッフ、主題歌


【キャスト】窪田正孝 永野芽郁 新田真剣佑
      間宮祥太朗 葉山奨之 今野浩喜
      川栄李奈 岡崎紗絵 板尾創路
      中村靖日 山田裕貴 吉村界人 八木莉可子
      榊原郁恵 水川あさみ 三浦翔平 古田新太

【スタッフ】
原作:『僕たちがやりました』(講談社「ヤングマガジン」刊)
   原作:金城宗幸 漫画:荒木光
脚本:徳永友一
音楽:origami PRODUCTIONS
   (Shingo Suzuki / mabanua / 関口シンゴ / Kan Sano / Michael Kaneko / Hiro-a-key )
主題歌:DISH//「僕たちがやりました」(Sony Music Records)
オープニング曲:Mrs. GREEN APPLE「WanteD! WanteD!」
                   (Universal Music/EMI Records)
監督:新城毅彦 瑠東東一郎 中西正茂
プロデューサー:米田孝 平部隆明 白石裕菜